第一話「道士と殺人鬼」7
900年前に行われたノルマン人による侵略であるノルマンコンクエスト。
それまでいたゲルマン人を打ち破り、ノルマン人が支配した。
元をたどればそのゲルマン人ですら、ローマ帝国に侵略されたブリテン諸島に後から来た存在であり、それ以前にはケルト人が住み、周囲の民族と戦い続けて来た。
イギリス帝国となっても戦争は続き、ペストの流行に英蘭戦争にロンドン大火と、病に戦に大火事にと次々と災厄がもたらされる。
倫敦は血塗られた歴史を持つ都市と言える、と玉兎は言う。
「それと切り裂きジャックになんの関係があるって言うのよ」
「わからないか? 切り裂きジャックの正体は“呪い”だ」
「はぁ?」
いかな迷信が残る時代とはいえ、それは突拍子も無い発言であった。
少なくとも呪いで人がバラバラになるなど、彼女でなくとも聞いた事も無いだろう。
「ここ数十年、時折現れる怪異たち――殺人理髪師スウィーニー・トッドに怪人・バネ足ジャック……それらも呪いの産物なのだ」
「バカげてる。戦争なんてどこでもあるし、それで呪われたなんて……」
「東洋ではその呪いから都市を護る為、風水に従った都市設計を行う。風水では大河川を真龍と呼ぶ。だが、ここ倫敦は真龍たるテムズ川はあれど、護りである四神相応が存在しない。これでは鬼門から災いがとめどなく入って来る」
「な、何言ってるか全然わかんないわよ」
「鬼門とは『北東』! では、倫敦の中心、バッキンガム宮殿および国会議事堂より北東はどこだ!」
ヴェロニカの答えを待たず、玉兎は続ける。
「『ここ』だ! 倫敦の北東、鬼門、ホワイトチャペル地区! 切り裂きジャックがホワイトチャペル地区でなぜ犯罪を犯したのか? それは『北東だから』だ!」