6/40
第一話「道士と殺人鬼」5
「あまりこういう手は好むところではないが、権威を笠に着る手合いには一番効く」
そう言うと、懐から十字架を取り出した。
異様なのは真っ黒に塗られた十字架であり、また上下さかさま、いわゆる逆十字である事だ。
「そ、それは……」
一瞬にしてマァレイの、それから取り巻きたちの顔色が蒼白となる。
「黒服の榊玉兎だ。……さて、早く消えてくれると助かるが」
「ひっ、うひぃっ!」
マァレイのうろたえぶりは、まともに声も出せない有様で、がたがたと震えていた。
「ああああああ!」
そのまま奇声を上げながらわき目も振らずに逃げ出していく。取り巻きたちも後を追うように去っていく。
その場に残されたヴェロニカは呆けた顔を黒服――玉兎に向ける。
「あんた……一体……」
「別に大した話じゃない。奴らよりもっと上の階級というだけだ」
それより、と続ける。
「切り裂きジャックの正体を知りたいか?」
「え?」