第一話「道士と殺人鬼」4
「失せろって言ったのがわからなかったのか? こそこそ嗅ぎまわりやがって」
「あたし……が……犯人を……見つける……んだ」
「あぁ? 俺らの捜査が信用ならねぇってか? だいたい、てめぇが犯人なんじゃねえのか?」
マァレイはヴェロニカの顔の左半分を覆っていた前髪をひっつかんだ。
「やめ……」
抵抗空しく、ヴェロニカの前髪は大きく吊り上げられ――
酷く焼けただれ、ケロイドに覆われた顔が露わになった。
左目は潰れて見えないほどである。
「てめえが殺したんだろ? 自分は醜くて客も取れねえからって、他の娼婦どもが憎かったんだろ?」
「ふ、ふざけんな……ブタ野郎……!」
「あぁ? 売女のくせに!」
マァレイは顔を真っ赤にし、拳を振りかぶる。
が、次の瞬間、彼の顔面が壁に叩きつけられた。
「がっ!?」
壁だと感じたのは彼の錯覚であり、実際にはその顔面は地面に叩きつけられていた。
その頭を押さえつけているのは黒服である。
「英国紳士はレディに優しいと言うが、例外もいるらしいな」
「あ、あんた……」
まさかの助太刀にヴェロニカは呆けたように声を漏らす。
「て、てめぇ……!」
放され、起き上がったマァレイが怒りのあまりに呻き、呼応して取り巻きたちがざわめいた。
「貴様! 警官へ暴行するとはいい度胸だ!」
「ニューゲート送りにしてやる!」
ニューゲートと言えば監獄で有名であり、そこへの収監となれば、脅し文句としては上等であった。
しかし、黒服は平然としている。