第一話「道士と殺人鬼」3
「は?」
女は憎しみを込めた眼に、更に確信を上乗せして言った。
切り裂きジャック。
イーストエンド地区、ホワイトチャペル地区で少なくとも五人の娼婦を惨殺した殺人鬼。
内臓を抜き出す残忍かつ正確な犯行と、全く見えない犯人像によって英国を恐怖のどん底に叩き込んでいた。
「何を根拠にそんな事を言っている」
「犯人は現場に戻る!!」
自信満々である。
「……言葉も無い」
男は呆れてあからさまにため息をついた。
「な、なによ。だいたい頭殴られてピンピンしてるし、あと首とか回るし!」
「あのな……」
と、黒服が反論しようと口を開いたのとまさに同時に、乱暴な足音と共に数人の男たちが現れた。
纏った山高帽もコートは、官製品である事が見てとれる。
その中でもリーダー格と思われる男が、眉間にしわを寄せ、近寄って来た。
「おい、ヴェロニカ! てめえ、ここで何してやがる!」
「マァレイ……!」
女――ヴェロニカが憎々しげに呻く。
「ああ? 何軽々しく人の名を呼んでやがる! マァレイ警部殿、だ!」
マァレイはヴェロニカの胸倉をつかみ上げる。
襟元が締めつけられ、ヴェロニカはくぐもった呻き声を漏らす。