第一話「道士と殺人鬼」2
「……胎は水気。ならば相克するは、土。土が象徴するは怨。……やはり、そういう事か」
さて、そんな男を物陰から見ている者が居た。
「……」
栗色の髪を後ろでまとめ、前髪は大きく顔の左側を隠している。
膨らんだスカートときつく締められたコルセットの女性。
年は十代後半、容姿は美人と言えなくもないが、意志の強そうな眉は、獲物を狙うかの如く引き絞られていた。
視線の先の男が持つ板から、蛍火めいた不思議な光が放たれると、それが周囲に広がる。
男の足元の薄汚れた石畳や石壁が光を浴びて、こちらは不気味に輝き始めた。
「……やっぱり……!」
誰にとでも無く呟き、彼女は飛びだした。
その手に握られているのは、粗い作りの手製こん棒である。
それは一直線に、黒服の背後からその頭に振り下ろされた。
「ぐっ!」
見事、直撃。山高帽が綺麗にひしゃげる。
「や、やった……」
「何をする」
その首がぐるんと180度回転、女を感情無い双眸で射抜いた。
「な、あ、アンタ何者よ!」
「それはこちらのセリフだ。いきなり背後から人を殴っておいてその言い草は何だ」
忘れていたように首から下が回転し、女の方に向き直る。
「そ、それはそうだけど……って」
一瞬気圧されるも、少女はこん棒を握り直す。
「見つけたわよ! 切り裂きジャック!!」