1.1猥褻事案?いいえ、神様との邂逅です。
連載作品、初投稿です。
書いてるネタとしては二番目なんですがね!?
温め過ぎても腐るので……
貴方は神を信じますか?
いや、ちょっと待ってごめんなさい。
怪しい宗教ではなくって、単なる現実逃避です。
って言っても、分けわからないですよね?
言ってて、自分でもよく分かりませんから……
改めまして、こんにちは。
神座木眞生です。
最近、悟りを開いた気分です。
神様というものは信じる信じないではないんです。
いるかいないかなんですよ。
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今ではないここではないどこか……
空どころか大地すら存在しないそこに、確かにそれはいた。
ありもしない風にゆらゆらと揺れる様に漂う金髪、碧眼の瞳は虚ろで何物をも捉えてはいない様な有様である。
美しく整った顔立ちは、凡そ人間らしい感情を一欠片として感じさせない。
それはどこまでも無表情であり、冷たいアンティークドールの様に一切の生気を感じさせないものだった。
そうしてどれほどの時が過ぎ去っていったのか、微動だにせずにただ静かに佇むだけだったそれ……
その形良く整った眉が、不意にピクリと微かに動いた。
これはいつの間にそこにあったのか……
それの眼前には、もはや原型すら判らなくなる程に潰れてへしゃげた赤黒い血肉の塊が漂っていた。
ムッとする血の匂いをさせる肉塊がゆっくりとそれの足元へと漂ってくる。
じっとこの肉塊を視界に収めていたそれが、その瞳をゆっくりと閉じる。
そうして再び開かれた瞳にははっきりとした意思が宿り、その眼前には一人の男が横たわっていた……
……
…………
………………
なんだか、妙に体がダルいな……
閉じた視界の中、ぼんやりとした思考はまとまりを欠き、フワフワとした感覚は寝起きの頭の様にはっきりとしない。
何を考えるでもなくあやふやな思考にその意識を委ねていると、不意に頭に触れる物を感じた。
頭に触れた感触が何か確かめようと、ゆっくりと目を開ける。
そうして視界に飛び込んで来たのは、目の前を埋め尽くす様な肌色。
頭上から伸びる二本の肌色が視線の先で一つに合わさっている。
滑らかな質感の瑞々しい肌色、ふっくらとして柔らかそうな曲線が中心部で合わさって、ぷっくりとしてくっきりとした一本の線を引いていた。
肌色、一本筋……
ツルツルだなぁ……
肌色……?
ツルツル……?
……⁇
……⁈
……‼︎
スゥーッと思考がクリアになっていく。
そうして、自分が目にしているモノが何かを理解する。
いや、してしまった。
次の瞬間、体を跳ね上げる様にして一気に飛び上がった。
浮き上がった体を瞬時に捻って着地する。
「うわぁ!ごめんなさい、すみません、許してください、この通り!!わざとじゃないんです、すみません、この通り!!!事故だったんです、わざとじゃありません、ごめんなさい、許してください!!!!」
その動きは、まさに仰向けからの見事なジャンピング土下座だった。
……
…………
………………
それは眼前の男をただ静かに見下ろしていた。
そうしてそれが感じ取ったのは、自身へと向けられる畏怖の念と赦しを乞い願う思い。
男を前にして、それは久しく感じることの無かった思いを味わっていた。
その思いは『歓喜』
男の行動はそれの眼前にあって、それの存在を確かめんと面を上げる不遜の輩やそれの在所に挑まんとして立ち上がる不逞の輩とは違った。
それの前にあって地に平伏して頭を垂れ、畏敬の念を持ってただその存在に赦しを乞う。
長き時の中で、幾億の生死がそれの前で長らく見せることの無かったその有様に、それは僅かにではあるが確かに心を動かされていた。
ゆえに……
「人の子よ、汝の罪の一切を赦そう……」
……
…………
………………
いったい何がどうなっているのか?
何が何だかわからない。
だがしかし、はっきりと分かっている事が一つだけある。
俺の人生、オワタ……
本当に何が何だか……
だけど、どう考えてもこれはまずいだろう。
女性の足元に顔を突っ込んで中を見るとか、どこの猥褻事案だって話だ。
自分ではそんな行動をした覚えは欠片もないが、どう考えても社会的にアウトだった。
たとえ裁判で事故だったとして無罪になったとしても、その前に報道されネットで炎上でもして顔をさらされようものなら社会的には完全に死んだも同然だ……
「人の子よ、汝の罪の一切を赦そう……」
えっ?
……えっ!
許す……?
許すってことは、助かるのか?
いや、仮に被害者が許すと言ったとしても猥褻事案だ。
何もかも無かった事にするほどには、現代社会というものは甘くはない。
しかし、社会的には完全にアウトな猥褻事案だろうが被害者の方から許すと言っている以上、最低最悪の事態だけは避けられるのではないだろうか?
そうだとしても、今の生活をそのまま続ける事はさすがに難しいかもしれない。
けれど、視点を変えて心機一転して出直すというのであれば、人生やり直せるのではないだろうか?
……
…………
………………
それが男に語り掛けた時、それは再び歓喜を味わう事となった。
人の子に赦しを与える。
そうした時、大抵の人の子が願うのは天の国へと入る事であった。
時には、それの在する御座の前に列する事さえも欲するのが強欲なりし人の業であった。
然るに、眼前の男は天の国に立ち入るどころか、罪深き人の業を正しく理解していた。
これを見れば、いつの日か人の子が真理に到達して輪廻より解脱し、その階位を昇るであろうとさえ思えてくる。
最早救うべからざると断じていた人の子に、新たなる可能性さえも見出すことが出来るやもしれない。
そう、それ故に……
「汝の願いを叶えよう……」
眼前の男を言祝ぎ、その願いを聞き届ける事にしたのである。
男の願い、すなわち人生のやり直しを……
……
…………
………………
「汝の願いを叶えよう……」
えっ、願いを叶え……?
「え?何が……!ウワァ〜!!」
何の事かなどとは考える暇もなかった。
次の瞬間、体がふわりと浮き上がり、猛烈な勢いで空中を飛び出していた。
背後へと体を引き摺り込む凄まじい力に、頭の中が真っ白になる。
その力の強さには、最早恐怖心すら感じる事が出来ない。
だから、目の前にいた人物が視界に入ってもそれが誰か、どんな容姿かといった事を考えるだけの理解力が働かない。
ただただ強烈な力に引っ張られ、巨大な何かに呑み込まれていくのが感じられる。
しかし、それが何かを理解する事は遂に出来なかったのだった。
……
…………
………………
それが指し示した先にあるのは、ぽっかりと口を開けた暗く大きな「穴」……
「えっ?何が……!ウワァ~!!」
そうして悲鳴の絶叫を後に残して、男の体は有無を言わさず真っ暗な「穴」へと吸い込まれていったのである……
しばしの間、それは男の吸い込まれた「穴」を静かに見つめていた。
やがて、それは「穴」に向けていた手をゆっくりと下ろしていく。
するとそれの手の動きに合わせる様に、空間に開いた「穴」がスッと音も無く閉じていった。
後には、何の痕跡すらも残ってはいない。
しばらくして、それは全ての興味を失ったかの様にゆっくりと瞼を閉じた。
その顔には、最早一欠片の感情すらも残ってはいなかった……
連載作品、投稿開始しました。
何とかちょっとずつでも続けていきたいですね。