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部屋の入り口からナディアとウェンディが駆け出してくる。

二人は家に近づく母親めがけて走っている。


カオリは二人の上に水の大雨を発生させサラマンダーが近づけないよう、水のカーテンを作り出す。

カーテンのおかげでサラマンダーは屋根の上から二人を見下ろすだけになった。


ウェンディとナディアは自分たちを避けようとする母親を止めるべく動く。

 

カオリはサラマンダーの動きをじっと見つめていた。

何かしようものなら、一点集中の強烈な放水をお見舞いするつもりだった。

 

しかし、じっと見つめていたからこそ気づいた。

サラマンダーの視線がウェンディ、ナディア、母親の誰をも追いかけていないことに。

三人とは全く関係のない方向を見つめていることに!

 

——どういうこと!?

 

すぐに視線をたどるとそこにはもう一匹のサラマンダーがいた。

そのサラマンダーは家に駆け込もうとする母親を見ていた。

慌てたカオリは二人に知らせようと一歩踏み出した。その様子をみたウェンディがあわてて忠告する。


「カオリ! 近づいてはダメ! 下がって!」

 

だが、カオリはウェンディの横から迫る赤い光に釘付けだった。


「ウェンディ! お母さんが危ない!!!!!」

 

ウェンディはカオリの表情、目線、それらを見てすぐに判断を下した。

カオリはウェンディの表情を見ていた。

もし、彼女がベテラン消魔士だったらウェンディの意図を汲めただろう。

だが、彼女はまだ新人だった。カオリは目の前で起ころうことを信じられなかった。

 

ウェンディがメイルの母親の方に走り込むと、母親を思い切り突き飛ばしたのだ。


「ちょっ! ウェンディ!!!!!」

 

カオリが手を伸ばしても、届くわけもない。


カオリはウェンディの表情を見る。

後ろにはサラマンダーの大きく真っ赤に燃え上がる口が見える。

そしてウェンディもカオリを見ていた。ウェンディはニコッと笑った。

 

母親を突き飛ばし両手を前に突き出しているウェンディは腰のところで真っ二つに折れながらサラマンダーに噛み付かれる。

カオリはその様子をまじまじと見つめてしまった。

まるで子供の頃乱暴に扱った人形のようだった。

サラマンダーの口の中に吸い込まれ、赤い光の中にウェンディは落ちる。


「ウェンディィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!」

 

カオリは喉が張り裂けるほどの大声で叫んだ。

ナディアは横にいたウェンディが急に消えてしまい立ち止まっていた。

彼女は叫ぶ。


「ウェンディ!!!」

 

ナディアが見上げた時には、ウェンディの体がもう一匹のサラマンダーに飲み込まれていた。


「クソガァァァァァァァ! ウェンディィィィィ!」

 

ギンガの雄叫び。すぐに、消魔車の上に飛び乗ると叫ぶ。


「オンディーヌ!」

 

オンディーヌはギンガに少し悲しそうな声で問いかけた。


「この家は潰しちゃうの?」


「仕方がない!

 サラマンダー二体はとても手に負えん!

 あのようになった精霊は世界に流れる精霊脈から魔力を受け取り続けてしまう!!

 ぶっ壊す以外に止める方法はないんだ!」


「いいわ、ギンガ。潰しましょう」

 

すると、ギンガはオンディーヌと耐魔服を通して接続。


「ボブ! 魔力は足りるか!?」

 

ボブは苦い表情を浮かべながらも、消魔車のメーターを見ると叫ぶ。


「少し足りない!」


「そうか、なら俺の魔力を足す!」

 

ギンガはすぐさま両手を家に向けると言う。


「水封!」

 

ギンガがそう言った途端、家の上空に四つ、人一人、入れそうな巨大な青い魔法陣が現れる。


オンディーヌが魔法陣に対して力を込めると、ダムが放水を開始するかのように、ゆっくりとだが大量の水が放出され始める。

水は家を取り囲むように勢いを増し、その激しい水圧によって家を破壊。

家に込められた精霊脈を使うための魔法陣を破壊していく。


 ギョェェェェェェェェェェェェェェェ!!


サラマンダーは水を避けるように体をよじると、家を燃やす炎の火力を高め熱で水を追い払おうとする。

大量の水が一気に蒸気となり、液体から変化した気体の圧倒的な体積が、周囲に衝撃波を生み出す。

 強

烈な熱風が吹く。

カオリは思わず顔を覆って熱風から体を守る。

ギンガは微動だにすることなくサラマンダーを凝視している。


「無駄!」

 

オンディーヌは妖艶に笑うと、魔法陣の大きさを大きくした。

途端に魔法陣から怒涛の水流が流れ込む。

 

サラマンダーは苦しそうに顔を溜まる水の上に出す。

カオリはその様子を見て走り出す。


「カオリ! 何をするつもりだ!」

 

ギンガが叫ぶ。だが、カオリはそれを無視して走り、苦しそうにしているサラマンダーの顔をじっと見つめると言う。


「ねぇ、あなたたち精霊には意思があるんでしょ!

 どうして家を燃やしちゃうの!

 どうして人を襲ったの!

 この家の人たちはきちんと暮らしてたんでしょ!?」


「カオリ、近づくんじゃねぇ! 馬鹿野郎! ロン!」


「了解!」

 

ギンガは唾を飛ばしながらロンに指示を出す。

ロンがカオリに駆け寄ると、腕を引っ張って下がらせる。

カオリは抵抗するも思いがけないロンの力強さに引っ張られてしまう。

それでもサラマンダーから目を話さなかった。

 

ギンガは容赦なく家を破壊した。

原型が残らないように。

少しでも形が残るものがあれば完全になくなるように精霊脈に接続する魔法陣が跡形もなくなるよう破壊し尽くした。

 

家の原型が全くわからなくなるまで五分もかからない。

カオリはその様子を見ていることしかできなかった。

しかし、それでも気を張ってサラマンダーを見つめ続けた。

 

ほとんど壊され、サラマンダーの息が絶え絶えになった時。

ほんの一瞬。

サラマンダーが体を振った。

そして、大きなトカゲはその大きく重たい首を傾げてカオリを見た。


「私たちが裏切られ、守るものがなくなったからだ」


「えっ? どういうこと!」

 

カオリはサラマンダーを見つめる。

サラマンダーの目はとても悲しそうに見えた。

その瞬間だけ、カオリは火の精霊と意思が通じ合ったかのように感じられた。


「水破!」

 

ギンガはそう叫んで両手を打ち合わせる。

注ぎ込んでいた水が家を恐ろしい圧力で囲い込み、一撃で家を粉砕した。


 ギョェェェェェ…………………


サラマンダーは水の中に消えてしまった。

後には物が焦げた時のツンとする嫌な匂いだけが残った。


「………裏切られ、………守るものが…なくなったから……」

 

カオリは真っ黒に焦げた家の残骸を見つめながら、サラマンダーの言葉を自分の体に響かせるように呟いた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

いよいよ物語が始まります。

楽しんでもらえると嬉しいです!

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