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ロンはすぐにタブレットの操作に戻る。

名前すらも言わせてもらえなかったカオリは少し膨れっ面になってウェンディを見る。

ふふっと笑いながらウェンディは教えてくれる。


「ロンは分析官だから、現場に到着してから一分が勝負なのよ。

 状況を分析して隊長に伝えなきゃいけないから。

 今は、その準備中。許してあげて」


「そうだよ! 彼は大事な仕事中なんだ!」


いつの間にかカオリの横に少年が座っている。

緑色の光が集まって人の形を作っている。


「この車を動かしている風の精霊シルフィリア

 名前はシルフだ」


ギンガはそういうとシルフに拳を突き出す。

シルフも拳を突き出し、拳と拳をぶつける。

車を運転しているボブが言う。


「ちょっと! シルフ! 俺一人に運転任せんなよ!」


「ボブゥ。僕が居なくたって大丈夫だよぉ。

 この先、車なんていないからぁ」


シルフはボブの方は見向きもせずカオリの顔をじっと見つめてにひひと笑う。


「新しい家族だね?

 ようこそ消魔署北東支部へ!

 僕はシルフ!」


目の前に座った喋る緑色の光の塊に呆然としていたカオリは、慌てて手を差し伸べると言う。


「あ、はいっ! カオリです。よろしくお願いします」


シルフは差し出された手を完全に無視し、カオリの顔を覗き込む。

カオリの鼻に秋の少し湿気を多く含んだ冷たい風のような匂いが滑り込む。


「よろしくね! カオリさんはなかなか、幸薄そうな人だね。

 なんと言うか……、掴めないものを掴もうとしている感じがするね」


「えっ……?」


シルフはそう言ってボブのヘルプへと戻って行った。

変なペットを見てしまったかのようにシルフをじっと見つめているカオリにウェンディは言う。


「もしかして、精霊を見るの初めて?」


「えっ! ………ええ。初めて見た……」


恥ずかしそうに俯くカオリに、ウェンディは笑顔でカオリの肩に手をかける。


「やっぱり、そっか。でもそんな顔しないで。

 消魔士になった人で初めて精霊を見る人なんて珍しくないわ。

 私もそうだったし。

 恥ずかしいことじゃないわ」


「ウェンディさ………ウェンディも?」


たどたどしく名前を呼ぶカオリ。

ウェンディはエクボを深く作って笑顔をみせるとカオリを見つめる。


「そうだよ! だから、落ち込まないでね。

 シルフ君は消魔署北東支部という『家族』に実体を表してくれた精霊ってわけ。

 ま、実際はちょっと違うけど」


「すごい……精霊が実体を持つとあんな風になるんだね」


「ふふふ。私も初めて見たときには驚いたわ。

 まぁ、彼の発言にあまり耳を傾けないようにね。

 彼らは精霊。

 人の形をしていても人ではないんだよ」


「うん……」


ウェンディはカオリの背中に手を当ててくれる。

カオリはウェンディの気持ちに暖かさを感じつつ、言う。


「ありがとう、ちょっとびっくりしちゃった」


ウェンディは嬉しそうにカオリのことを撫でた。


「ふふふ、カオリはいい子だね!」


そんな二人の様子を見てギンガは言う。


「ウェンディが姉でカオリが妹みたいだな」


「じゃあ、私たちは姉妹だね!

 私のことはお姉ちゃんって呼んで!」


ウェンデイはにまっと笑ってカオリのことを見つめる。

カオリはどんな顔をしていいかわからなかった。

結局、カオリはウェンディに妙に力の入った笑顔を送ることしかできなかった。


「全員、耐ショック姿勢!」


ボブの叫びで全員が自分の前の席を掴み、頭を膝の間に入れる。

カオリはウェンディに頭を押さえつけられていた


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


とてつもない力が自分の体にかかっていることをカオリは自覚した。

押さえつけられなくても頭を全くあげられなかった。


急停車した車の中でギンガは叫ぶ。


「着いたぞ! 全員、気合入れろ!」


ギンガは率先して飛び出す。

太古の契約に縛られた風の精霊シルフィリアのおかげで、車から飛び出しても、宙に浮いていられる。

ナディアも飛び出すと叫ぶ。


「この家に関係ある人はいますか!?」


カオリも覚悟を決めて飛び降りる。

雲の上に乗っかっているかのような感覚。

地面まで七百メートルくらいだろうか。

土の上を歩いている人間の姿などゴマ粒ほどの大きさにしか見えない。

これこそが遥か昔にエルダスタルケア王国と精霊の間で交されたもっとも重要な契約。

街を多層化すること。

おかげで王国は狭い国土の中に今の国力を維持するだけの人口を得られたのだ。


カオリは下を向いていた顔をパッと目をあげる。

目の前の立方体の家は火に包まれていた。

まだ、家に十メートルは離れているのに、加えて耐魔服を着ているのに、すでに体が暑さを感じている。


家の窓という窓から火が吹き出し、人が住んでいた場所など関係ないただの燃料と言わんばかりに燃やし尽くそうとしている。

なにが燃えているのか、鼻の奥をツンと刺激する異様な匂いが漂っていた。


「これが本当の魔災……! 訓練の時とは全然違う……」


カオリはそう一言こぼした。

すぐに後ろからぽんとウェンディに叩かれる。


「カオリ! 区画整理! ぼけっとしてる時間ないよ!」


「はいっ!」


耐魔服に内蔵された魔法陣のより、消魔車のシルフに接続する。

耐魔服の表面に描かれた精霊脈に風を表す緑色の魔力が流れ、カオリは緑の光に包まれる。


カオリは消魔学校で覚えた通り、区画を整理する。

魔災が広がってしまわぬよう、シルフの力を借りて近隣の家や施設を移動する。

魔災が起きている家を孤立させ、延焼を防ぐ。


家から溢れる火は勢いを増し、煙が悪魔のようもこもこと増殖を続けどす黒く天へと登っている。

この世の淀みのような黒い煙と燃え盛る赤い炎は命を刈り取る死神の鎌そのものだ。

なにもしなければ火は家に蓄積された魔力を使い切るまで家を燃やし続ける。


「ロン! 状況は!」

 

ギンガはて家をスキャンしているロンに叫ぶ。

ロンはスキャン結果を見ながら穏やかに、だが確実に伝わるよう大きな声で言う。


「火の魔力が暴れ、すでに炎は家を全て包んでる。

 魔力の偏りからキッチンが魔災の原因だと考えられるけど。

 魔災が起きてからまだ5分と立っていないのにここまで萌えてしまうのは早すぎる。

 これは少し覚悟した方がいい。

 建物の中はすでに火の海だ。

 なにをするにも最大限の警戒を」


「お母さんがいた!」


ナディアが一人の女性の手を引いて歩いてきた。

主婦業の途中で抜け出したのだろう。

普段着にエプロンという格好の女性がいた。

ギンガは女性の目線に合わせて腰をおると、優しく羽毛を思わせるような声音で話しかける。


「お母さん。中に誰かいますか?」


「私の、子供が………」


「お子さんの名前は?」


「…………メイル……」


ギンガは胸に拳を当ててそう言った母親を少しだけじっと見つめた。

いや、全員がその母親の姿を見つめていた。

カオリは全員が覚悟を決めたような真剣な表情を浮かべているのを見た。

そして、ギンガは全員のその表情を見て大きく頷くと、母親に向かって言う。


「すぐに助けます。ロン!

 子供がまだ残ってるみたいだ! どこにいる!?」


「二階にそれらしき影がある!

 自分の部屋にいるんじゃないか!?」


ロンは正方形の建物の中腹をさして言う。

ギンガはそこにある窓を見つめて頷く。


「わかった。水の精霊オンデフィリアを準備!」


ギンガの叫びと同時に消魔車から、大量の水が吹き出す。


「私の出番かしら?」


「当然だ! オンディーヌ、準備しろ!」

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