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5 引きこもり魔導師

武門で名高い公爵家の次男坊に、なぜか突然変異のように、強い魔力が備わっている。


 気がついたのは、出生直後だったらしい。


 泣くと大気が揺れ、場が乱れる。


 すぐに、バトー家に使いが出されて、女性の魔導師を借り受け、安定が図られた。意外なほどに、すんなり落ち着き、何故か無駄に魔力を垂れ流すなんて事は、それ以降全く無かった。


ガゼルに会ったのは、辺境の砦だった。

15歳になり、魔力も増すと空間を歪める魔法を使えるようになり、地図を見てイメージすれば、大体の場所へ行けるようになって、南方のリジ砦に飛んで見た。だいぶ、規格外らしいが。


レンが屋根の上で寝そべっていると、階下に人の気配がするなと思ったら、普通は使わない筈の簡易梯子から、するするっと、小さな男の子が登って来たんだ。


ガゼルは、8つだったらしいが、もっと小さく見えた。俺という先客に驚いたらしく、固まってしまったが、アイツは礼儀正しく、「こんにちは。僕も、ここで景色を見ていいですか?」なんて聞いて来たんだ。


子供に興味なんてなかったから、「ん」と、顎で返事をして空を見ていた。


しばらくすると、隣の子供のお腹がグーっと言ったのが聞こえて、チラリと見ると、真っ赤になっていた。


「やるよ。」

自室のテーブルにあったパンを転移魔法で手元に出して、渡した。

「ありがとうございます。」

ちょっと驚いた様子だったが、すぐにかぶりついていた。

チラリと見て、子供がよそ見をした隙に、自室へ戻った。



それから、何年も会わなかったから、その子供の事も忘れていた。



再会は、突然だった。


兄のご友人兼遊び相手(女性)を、所用のついでに自宅まで送るように言いつけられて、出かけたのだった。自宅前で、心配して待っていたのが、ガゼルだった。5年が経過していたらしく、もう13歳になっていた。



我が家は、あまり兄弟仲が良くはない。というより、非常に付き合いが淡白だ。

だが、時期公爵の兄がついでに頼む、と言われた時などのお願いを聞くぐらいの融通はある。

兄も、多方面で、兄なりに気を使ってくれている。

俺が、人嫌い、社交嫌いなのを知って、殆ど出なくてもいいように取り計らってくれている。


ガゼルの姉は、見た目は超美人ってヤツ。だが、雰囲気はどこにでもいそうな女性。

長く続いている遊び相手のようだった。

1回きりでポイッと捨てる女が多い中、2年ぐらい前から時折、見る女性だった。まだ続いてるなんて珍しいなぁとは、思ったのだ。

だが、話したことも無ければ、どこの誰かなんて知らなかったし、興味も無かった。

だから、同じ馬車で家まで送ると言っても、挨拶意外、一言も話す事も無く、連れて来たのだ。



馬車を降りた姉を笑顔ながら、複雑そうに出迎えた少年が、俺をまじまじと見て、「姉がお世話になっております。リドラー家長男、ガゼルと申します。もしかして、リジ砦でお会いした魔導師様ではありませんか?」

と聞いて来たのだ。


「リジ砦?」

「数年前に、砦の上で、魔導師様にパンを頂いたのですが。」


ああ。あの時の子供か。

すぐに思い出したのだが、関わり合いになりたくない思いから、「人違いではないか?」と、素っ気なく返す。


「大変失礼致しました。本日は、姉を送り届けていただいて、ありがとうございました。」

距離感を上手く掴むのか、それ以上の詮索はされなかった。


それから、さらに、2年ほど、ガゼルの姉との付き合いは続いているようだったが、我関せずの姿勢を突き通していた。

ガゼルの長姉は、もう、20歳の筈だ。令嬢としては、もう、嫁ぐタイムリミットだ。

なぜ、兄とダラダラ関係を持っているのかわからなかったが、個人の自由だと放っておいた。



そんな中、珍しく、落ち着きを無くした兄が、俺の部屋に飛び込んで来たのだった。

いや。表面的には、とても冷静で落ち着いている兄だったが、魔力持ちの俺には、兄の動揺が兄のオーラと共に、ピリピリとした刺激になって空気を震わすように感じた。

「リドラー家の長女が行方不明になった。探してくれないか?」

「わかった。出来るだけ善処しよう。兄上は、何か彼女の私物は持っているか?」

魔力をたどって探す方が、楽だ。

「何も持たない。」

ピリリッと、更に空気が振れる。

なんだ。女に入れ込まないと思っていたのに、彼女は、やはり特別だったのか。それなのに、何も共有しないくらいの淡白な付き合いか。よく、そんな兄と付き合って来たものだ。普通の令嬢なら、喚き立てて、すぐ縁を切られるのが落ちだが。深入りせずにいたから、それで続いていたのか。

「リドラー家に行ってくる。兄さんは、通信用の魔法石を持っていてくれ。場所が特定できたら、即、石を通して連絡する。」

魔法陣を発動し、フワリと転移する。

兄に持たせた魔法石からビリビリとした波動で感情が伝わってくる。よほど、イライラしているらしい。

「よう。」

俺が転移したのは、ガゼルの目前だった。

ガゼルは、少し目を見開いた後、

「姉の件でしょうか?」

と、落ち着いて尋ねた。不安な感情が、ユラユラ漂ってはいるが。

「兄から頼まれた。行方を追うのに、お前の血と、お前の姉の部屋に入る許可を。」

「わかりました。こちらです。」

部屋を出ると、廊下にいたガゼルの母と思われる女性が、驚いた表情で立ちすくむ。

「姉上を探して下さっている、公爵家の魔術師さまです。姉上の部屋に入ります。」

そう言いながら、ガゼルは歩みを止めない。

ゆっくり後を追う。4つ先の扉を開けると、「こちらです」と、部屋の中を見る。

室内は、質素でありながら、女性らしい落ち着いた部屋だった。

室内の空気も、落ち着いている。いや。やや陰りを感じる。

ベッドの前で足を止める。思念が微かな魔力となって残っている。


感じられるのは、悲観だ。


「手を」

ガゼルに目を向けると、静かに歩み寄り、手を出した。


追跡の魔法陣を発動する。

イメージする。さあ。彼女はどこだ?

ガゼルの人差し指を小さな風が鋭く鋭利な刃となって傷つける。

ジワリ、と滲んだ血は、落ちる事なくキラキラと魔法陣に吸い込まれる。


集中する。同じ魔力を持つ者。


王都は広い。

辿る辿る。


風となり、鳥となり、王都の上空を駆け抜ける。


以外と近い?


見つけた。


商人区外れの屋敷だ。

人の気配がほとんどない。空き屋か。


屋根が橙色で、いい目印だ。


魔力に揺らぎが無いため、本人は意識がないのか?


フワリと、守護の魔法をかける。

悪意があれば、跳ね返るだろう。ニ刻ほどあれば、十分か。


遠隔での魔法は疲れる。


いくらなんでも、魔力の使いすぎだ。


追跡を切ると、兄に向けて呼びかける。

「兄上、商人区南東の橙色の屋根の屋敷だ。近くには、赤茶のレンガ屋根しか見えないから、見つけるのは容易いだろう。俺ができるのはここまでだ。」


『十分だ』


兄の声が聞こえる。

ヤバイな。究極に眠い。

「おい、お前の部屋は?さっきの部屋か?」

「そうです。」

ガゼルが首をたてに振る。

「ベッドかせ。」

「もちろんです。」

部屋を出る俺を先導しようとする。


コイツならいいか。


部屋に着くなり、バタリとベッドに倒れこみ、俺は翌早朝まで眠り続けた。起きると横の椅子で、ガゼルがうたたねをしていた。

 黙って起き上がる。気配に敏いのか、ガゼルがはっと目を覚ます。魔力はだいぶ回復したようだ。

「寝床、ありがとな。これ、礼にやるよ。」魔石のブレスレットを渡すと、返事は聞かず、自室まで転移する。


 敷地内に、リドラー家の長女の気配を感じる。結果どうあれ、間に合ったらしいな。


 翌日、丁寧な礼状が、リドラー家当主とガゼルから届けられた。


 翌年、兄とガゼルの姉が結婚した。公爵家と子爵家ということで、身分差でだいぶ揉めたようだが、兄が次々に障害を除去して、あっという間に婚約者にして、結婚した。元々の美貌もあり、公爵家夫人としても、うまくやっているようだ。

 それから、姉に会いに来たガゼルを時折、連れまわして遊びに出るようになった。

 色々やらかしたりしてみたんだが、後処理がガゼルは非常に上手い。遊びの師匠と慕われ、仲はいいのだが、適度な距離を保っている所は、本人の性格か。


 周囲に気を使いすぎて、貧乏くじばかり引いている可愛い?弟分が、結婚できないで、悩んでいるようだ。マリル嬢は、絶対にあいつ向きだと思うなあ。

 手伝ってやるか。


 あいつら面白いなあ。色恋なんて、興味ないんだが。ガゼルに変な嫁が来て、自由に遊べなくなるのも困るんだ。

 さて。どんな手を打とうか。

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