4 ミアのお嬢様
マリル様が、ガゼル・リドラー様に手を引かれて馬場まで来られた時は、本当に驚いた。
屋敷の執事が、至急、お嬢様を王城まで迎えに行くようにと言われ、大慌てでやってきあのだ。
バトー家は、560年続くこのレラーダ王国の建国当時から王家を支える魔導師の一族だ。
昔は、魔導師同士での婚姻ばかりだったらしいが、子が生まれなくなるばかりで、他所から血を入れた方が、稀に高い魔力を持つ子が生まれるとの事で、自由恋愛だそうだ。
魔導の血を求めて、他家から政略結婚を申し入れられ、沢山の姫が嫁いだが、外部では突出した才能を持つ者は生まれなかったと聞く。
攻撃をメインとする黒魔道師と、防御や回復に特化した白魔導師。圧倒的に黒魔道師が多い中、マリル様は白魔導師だ。
しかも、魔力だけなら、今代のバトー伯爵より上だと言う。
しかし。
しかしである。
私、メイドのミアにとっては、可愛いけれど、貴族令嬢としてはどうなの?って言いたくなるくらいのズボラ嬢である。
髪にも化粧にも無頓着。恋愛やら結婚なんて、微塵も思っていない風だ。去年、レビュタントを終えた花の17歳なのに!!
社交にも必要最低限の、顔見せしか出ないし、本当にもう、お嬢様、大丈夫なんだろうか?
そんな!
そんなお嬢様がである!男性にエスコートされて来るなんて。
普段なら、ローブで顔を隠し、コッソリ現れるのに、さすがに、エスコートされては、フードは被れないし、めったに見られないお嬢様のお顔に、すれ違った貴族の子息達が、振り返ってる。
しかも、メッチャ照れてる。
やだ。かわいい。
ってか、それどころじゃない!!
ガゼル様は、お嬢様よりご身分としては下らしいけど。
とっても。いい人なのよね。
使用人達の間にまで話が回るくらい、いい人。
しかも、仕事が出来る。
更なる出世間違い無いって言われてるけど、なかなかご結婚には結びつかない。
なぜって
誰にでも優しいから。
そこで、ワガママなご令嬢方は、嫉妬し、ヒステリーを起こしたり、色々と困らせて、とうとう、ガゼル様の結婚願望は無くなったって噂だわ。
お見合いは沢山舞い込むけど、断るのを前提でお付き合いされてるらしいもの。
もったいないわ。
せっかくのご縁なのに。しかも、お嬢様が、恥じらってるなんて。今まで、どれだけ優良物件な子息が言いよっても、つまらなそうにしていた、あのお嬢様が、意識されるなんて。
ご年齢はちょっと上だけど、許容範囲内だわ。
帰ったら、メイド長から、旦那様へ報告してもらわなくちゃ。
ああ。ガゼル様が、マリルお嬢様だけを見てくれるといいのに。細身だけど、素敵な方だと思うわ。
マリルお嬢様に、メロメロになってもらわなくっちゃ。
ガタガタと揺れる馬車の中、ふと、お嬢様の髪が編み込まれているのに気付く。
「あら?お嬢様、髪結いはどうなさったんです?」
何気なく尋ねると、お嬢様が、真っ赤になって、わたわたと落ち着きが無くなる。
「お嬢様?」
「あの。ミア。誰にも言わないでね。髪は、ガゼル様が結ってくださいましたの。」
「なっ、何ですって!?ガゼル様が??」
「あの、でも、違うの。魔導課にいらっしゃるレン様がガゼル様と懇意だったみたいで、今日、いらっしゃった時に、急にガゼル様に私の髪を結うようにおっしゃったのよ。
公爵家のレン様に言われたら、ガゼル様も断れないじゃない?上司命令だとおっしゃってたわ。でも、私、男性に髪を結っていただくなんて、流石に恥ずかしくって。」
「まぁ。」
「とても、親切な方でしたわ。」
「まぁぁ。」
「ミア?どうしたの?」
「お嬢様は、恋をなさってるのですね。とても初々しいですわ。」
「ええっ?どうして、そんな事になるの?」
いや、明らかに態度違うじゃないですか。
魔導以外、壊滅的にダメなお嬢様なんですから。
しかも、何でも出来そうなガゼル様になら、マリル様も安心して嫁げそうだわ。
嫁ぎ先にも。絶対お嬢様付きでついて行くわ。伯爵家よりお給金は下がるかもしれないけど、私の将来も安定よっ。