1痩せっぽち文官の恋
かなり以前に書いていたお話の放出ですので、粗が目立つと思いますが。暇つぶしな気持ちで暖かく見守って下さい。
6話連投します。
「ごめんなさい。貴方は、とても優しくていい方なんですが。私には、貴方の奥様は務まりそうにないのです。本当にごめんなさい。」
ああ。もう、一体、何度目のオコトワリだろう。確か、17回目だったような?
正直、疲れる。結婚したくない訳じゃない。だが、どうしてもしたい訳でもない。
友人達は、20代で、あっという間に妻帯者になった。子供がいる者も多い。気がついたら、僕は32歳になっていた。
ガゼル・リドラー
32歳、独身 都市課勤務。主任。
姉が3人(全員既婚)
両親健在。父は財務局、局長補佐。子爵家。
性格、温厚。人当たりが良い。人脈多し。
いい物件だと思わないか?僕。
だが、しかし。
既婚といえど、公爵家や、金持ち伯爵家、隣国の王の第3妃なんていう、超絶美人の姉が3人もいて、長男。
普通の女性は、引いてしまうらしい。
結構、いいところまで行くんだ。なのに、いざ、となるとオコトワリ。
もう、むしろ、1人でいたい。見合いとか、持ってこないでほしい。
わかってるよ。ここ、1週間、西部地区の豪雨による橋の補修でてんてこ舞いで、彼女なんてかまってなかったし。
職場の上司から打ち上げに誘われ、掃除のおばちゃん連中から、昼ごはん誘われて、最近出来た健康食の昼ご飯食べに行ったよ。
その健康食の店が、超話題で、昼のランチデートコースになりつつあるとか、知らなかったんだよ。
つーか。グルメなおばちゃん達の、友達ツテの美味しい物を食べよう会、に、ヒョロヒョロの僕にお肉を食べさせよう会(掃除主任命名)が引っ付いただけなんだってば。
なんで、「お友達が、貴方が沢山のおば様方に可愛がってもらってたのを見てましたの。」
なんて事になるのさ。
あーもう。ちょっと、好きになってたのに。
わかってるよ。女性は、君だけを愛し、見つめているよ。他の女性なんて、石ころと変わらないよ、何て言えるような男じゃないと、安心出来ないんだろ。
正直、めんどくさいよな。仕事なんだよ。仕事上のお付き合い、なんだよ。
付き合いが良すぎるのも、自分でわかってるよ。
これで、僕の顔でも良ければ、苦労しなかったろうに。冴えない普通の容姿の父に、美人の母が嫁に来たのが、政略だったとして、その美貌は、全部姉に持って行かれて、父似の普通の顔に、母の華奢さを受け継いだんだから。
いわゆる。存在感のない、ひょろひょろ文官の僕が出来上がった。
頭の良さは。まあまあだと思うよ。何たって、学院は入学から卒業まで首席だし。
なのに、どうして、この存在感の無さ。
次席のライズは、近衛騎士副隊長だ。クッソ。新婚生活を冷やかしに行くか。手土産は・・・。ダメだ。
冷やかし前に、精神的にダメージくらう。
ドンッ!!
バサバサバサーッ。
ハラハラ。
「すみません!!」
しまった。王城に、報告上げ終わって、気が緩んでた。
白いフードの女性魔導師が書類?をブチまけ、尻餅をついている。
曲がり角で、知らない女性とぶつかってしまった。
珍しいな。フードが聖魔導師なのに、まだ、17〜18歳くらいに見える。
「お怪我はありませんか?」
手を差し出すと、「よっこいしょ」って、小さい声が聞こえた。
よっこいしょ?
ヨッコイショ?
この女の子が???
とりあえず、疑問はさておき、書類を拾おう。何なんだよ、一体??
つか、うわー。何か魔道言語で書いてあるから、全然わからないし。ページって書いてあるのか?
ともかく、拾って、「これ・・・」と、手渡すと、あからさまに、大きなため息をつかれた。
「ごめんね。大丈夫ですか?」
「いや、いいんです。私もボーッとしてて、すみません。」
ちょっとフラフラした足取りで、歩いて行く。
いやいや、危なっかしいから。
「あの。お詫びと言っちゃなんですが、書類、お運びします。」
「ん。じゃあ、お願いします。」
枚数、少なく見えていたのに、書類がズシリと重い。重たい書類を、持ってあげたはずなのに、少女は、フラフラと歩いて行く。
「どこまで運びますか?」
「魔導1課。特捜班。」
1課特捜??エリートじゃないか??
そういや、今期、魔導の血筋、バトー伯爵家の末っ子が魔力量が多くて、1課配属って、話題だったな。見には行かなかったけど。
この子が??
それにしても、危なっかしいなぁ。
何でそんなにフラフラ歩くわけ?体調悪いの?寝てないの?
「あっ・・・」
「オイっ!!??」
急に後ろに倒れこむものだから、慌てて抱きとめた。
「ちょっ?君?」
慌てる僕に、
「もう、無理」
の一言で、彼女は意識を手放した。
ちょっと待てよ、おい。僕がいくらお人好しで温厚だとして、何だよ、これ。
つか、寝てるだろ??彼女。
1課特捜まで、あと5歩で着いただろう!!!
なぜ、もうちょっと頑張らない!!!
何なんだ彼女は??
彼女を、支える為に、書類がまた、バサバサと床に落ちる。
キイッ
と、目の前の扉が開いて、黒ローブの、主席魔導官が出てきた。
「うちのが、迷惑かけたようだな。」
もう、幾つか知らないが、魔導課長官!ジイさんが威圧感半端ない。
いや、僕は何もしてないし!!
全力で心の中で否定する。
長官が、右手を上げると、書類がヒラヒラと空中を舞い、特捜室内へ飛んで行って、机の上に収まる。
マジか。すげー。
「ほれ、しっかり抱いて、奥に仮眠室があるから、運べ。若造。」
「わかりました。」
特捜班の部屋は机と、書物で、とにかく狭かった。机の合間を、縫うように、彼女の足をぶつけたりしないように注意して、奥の部屋まで運ぶ。
2段ベッドが4つ。何だここ?男子学生寮かよ?って感じだな。
1番手前の下の段を指されて、彼女を寝かせる。
「大丈夫なんですか?ずいぶんフラフラしてましたが。」
「ただの魔力の使い過ぎだ。しばらくすると起きるだろうよ。」
「そうなんですね。よかった。庭園課の前の角で、出会い頭にぶつかってしまいまして。
こちらも申し訳ありませんでした。それでは、私は失礼致します。」
営業用笑顔キリッ!
ついてないなー。フラれるし。
彼女、軽かったけど、地味に手がダルいし。
筋肉もうちょっと必要かも。
なんて、とりとめのない事を思いながら、魔導課を後にしたのだった。