第9話 キノコ狩り
少し下品な表現が含まれます。
いい朝だ。
今日は朝からエヴァと一緒にキノコ狩りへ。
そのために、王都の外へ出なければならない。
外に出る時は通行証は欠かせない。また入るときに通行税がかかるからだ。
一度買えば一生使えるものだ。高いので無くさないようにしなければ。
キノコ狩りの場所は王都付近の森。
何やら死神の森という物騒な名前だが、別に死神が居るわけではない。
この森がそう呼ばれているのは多種多様の魔物がおり、新人の冒険者や旅人などが命を落としやすい場所として有名だからだ。
注意喚起で物騒な名前が付けられているらしい。だが熟練した冒険者や騎士たちには、適度に稼げて、訓練にうってつけの場所のようだ。
奥に入ればかなりきついらしいが浅い場所なら問題ないらしい。
余談だが、死神は死の国グウェンデルに行けば会えると噂で聞いた。
行き方を知る者はほとんどいないので、行くことは無いと思うが、一度死んだ身としては気になるところである。
さあ、門の詰所の衛兵に挨拶して外に出よう。
子供だけで外に出れるのかだって?
以前に外へ出かけた時に母さんが衛兵を説得(脅迫)したので僕は見て見ぬ振りをされる。
ちなみにエヴァは、他の人と一緒じゃ無いと出れないように言ってある。
今日もお仕事ご苦労様です。これつまらない物ですがよければ皆さんでどうぞ。 僕が作った弁当です。
あの、仲良く分けてくださいね。
衛兵達が僕の弁当を取り合っている。重箱じゃなくて一人一人が良かったかな? いや、そんな時間はないな。
衛兵達の取り合いを見ていた僕とエヴァだったが、衛兵の取っ組み合いは僕達そっちのけで激しさを増すばかりであった。
……うん。ケンカはやめて。
一人が戦利品を持って近づいて来た。笑いながら話しかけてくる。一応心配してくれているようだ。
あっ、はい。今日はキノコ狩りで。
ははは、気をつけて行ってきます。
挨拶と差し入れ(賄賂)をして王都の外へ。
▶︎▶︎
王都の外へ出た僕とエヴァは、手を繋いで森へと入る。
エヴァは笑顔で、ご機嫌なご様子だ。
かわいい。
場所は本当にすぐそこ、王都のお隣さんといった感じの広大な森。ここで今からキノコ狩りをするのだ。
エヴァが心配なので奥には入らない。
「お兄ちゃん、いっぱいキノコさん取ろうね」
やる気一杯のエヴァに癒されながら、森の中へと歩を進める。
「エヴァ、はぐれないように近くに居るんだよ」
「はーい」
エヴァが迷子にならないように注意して、キノコ探索をはじめる。
この世界の食物は、前世の世界とほとんど変わらないのであまり困らない。
ただ、魔物の肉とかは初めてだったので少し焦った。あとマンドラゴラとかの特殊な素材もだ。
自生してたら取っていこう。高級素材だからな。料理や霊薬に使える。
自作のポーションに混ぜると効果が上がったような気がしたし。
「お兄ちゃーん、キノコさん発見しました!」
そんなことを考えている間に、エヴァ隊員がキノコを見つけたようだ。どれ、見せてみなさい。
エヴァの手の中にあったのは、赤と黒と緑のマーブル模様のキノコだった。
うん。毒キノコ。
左手の鑑定能力を使うまでも無い。
名前はパニックマーブル、食べると少しの間自我を失い発狂する。新人冒険者がたまに食べてパーティーが全滅するやつ。
「エヴァこれは食べれないよ」
「えー、こんなに綺麗なのに……」
綺麗なのかこれは? 女の子の感性はよくわからん。
さて、兄として見本にならなければ。
そう意気込んで探索を始めた。
探し始めてからいくつかのキノコと、スパイスになる植物や種を見つけた。
裏ワザだが植物や種は、万物創造でスパイスに加工することができる。
とっても便利。神様ありがとう。
だが、どんどんキノコや植物を取っていくと荷物がかさばってしまう。
ここで僕の新しい能力!
万物創造の派生だが。最近発現した、物を収納する能力が役に立つ。
空間収納といったところだろう。また加護が成長したらしい。
新しい能力が発現すると、頭の中に能力の情報が詳細に浮かんでくるのだ。
この能力は少しずつ容量が増えるらしく、今は四畳半くらいの容量しかない。(最初は二畳くらいだった)
今の僕には十分過ぎるが。成長したら保存したいものも増えるだろうから、容量拡大に期待だ。ふふふ。
それに、この空間収納に入れた物は時間が止まるらしい。熱々のお弁当がいつでも食べられるのだ、素晴らしい。
欠点として、時の流れという概念がない神界で行なった地獄の修行を思い出してしまう……。
僕が素材探しをしていると、またエヴァがキノコを見つけたようだ。
今度はたくさん持ってきたな。
食べれる物と食べれない物の仕分けをしなくては。
「お兄ちゃんいっぱい見つけてきたよ!」
「よし。見せてごらん」
そう言ってエヴァからキノコを受け取った。
ふむ。
これは、毒キノコ。
これも、毒キノコ。
こっちは、毒キノコ。
こっちも、毒キノコ。
あっちは、毒キノコ。
あっちも、毒キノコ。
……全部、毒キノコ。
……エヴァ言い辛いよ。
もはや才能だ。
「ふふふ、どう? お兄ちゃん?」
エヴァは目を輝かせて、どうだ! と、胸を張っている。
い、言い辛い……。
だが言わねばならぬ。まちがった知識はダメなのだ。このままでは死人が出る。
「エヴァ、言いにくいんだけど、全部毒だね……」
え〜!? と、膝から崩れ落ちるエヴァ。
目の端には涙が溜まっている。
よしよしと、頭を撫でてやる。
心なしか嬉しそうな顔をしているように見えた。
「エヴァ、間違える前に知れて良かったろ。少しずつ覚えていけばいいんだ」
エヴァにそう言ってやると、「むぅ〜」と、僕の胸に頭をグリグリ擦り付けてくる。
かわいいなぁ。かわいいは正義、誰が作った言葉か知らないが、この言葉はエヴァのためにあると思う。
おっと、デレデレしてる場合じゃないな。
「とりあえずエヴァは、僕の手伝いをしてよ。そうしたら覚えやすいでしょ」
「……うん」
エヴァの手を取って森を探索する。
おっ、あれは食べれるキノコだな。
地面から掘り出す。なかなか大きいな。
それをエヴァに見せてあげる。
「エヴァこれは食べられるキノコだよ」
エヴァは目を丸くして「ほわぁ〜」と、言いながら手をパタパタさせている。
うん。可愛すぎて気絶しそう。
「エヴァどうだい?」
感想を求める。
「うん。お兄ちゃんのキノコさんおっきぃ」
若干誤解を招く言い方だね。うん。
「ペロペロしたい」
おやめなさい!
その後もキノコや植物を集めて、エヴァと充実した時間を過ごした。
流石にマンドラゴラは無かったが、十分な収穫だ。
「キノコもたくさん取れたし、そろそろ帰ろうか」
「うん!」
エヴァもいくつか食べられるキノコを見つけられたし、キノコだけじゃなく、エヴァの成長も得られて満足だ。
さぁ、帰るとしよう。
エヴァと一緒に、王都へと戻るため歩き始めた。
エヴァお疲れ様。疲れたろ、帰ったら好きな料理を作ってあげるよ。
食べたいものはあるかい?
今日頑張ったエヴァへのご褒美のため、そんな提案をした。
さてさて、エヴァは何が食べたいのかな?
「お兄ちゃんのキノコさん!」
うん。言い方。