表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/54

第52話 変貌

 

 アルリエルとリッケルトの剣戟が激しさを増す中、ローダス、ユリウス、フィリアはその激戦を観戦していた。


「おっ、善戦してるぜあのおっさん」


「アルリエルさん相手になかなかやりますね」


「ちょっ!? 二人とも呑気に観戦してないで加勢してあげてくださいよ! それならすぐに終わるでしょう!」


「「無理」」


 おいっ! とツッコンでやりたいが今は真剣な話なのだ。


「どうしてですか! アルリエルさんは連戦で疲れてるんですよ、フェアじゃありません!」


 ポリポリと頬をかくローダス。


「まずレベルが高くて加勢できない」


「んなもん気合いですよ気合い!」


「無茶言え死ぬわ!」


 それに邪魔になるしとローダスは思った。

 そういう雰囲気があの二人の間にはあるのだ。


「フィリア、フェアじゃないと言いましたけど彼も得意分野を捨てて臨んでいますよ」


 キョトンとユリウスを見つめるフィリア。


「あー、あれなローブが投げてあるだろ。あれに暗器が仕込んであんだよ」


 本来なら相手に手札を悟らせずに戦う戦法なのだろう。


「……よくこんな遠目でわかりますね」


「前衛に必要なスキルなんだよ」


 ローダスは得意げに鼻を鳴らした。


「それにしてもかなり強い。ローダスよりも強い」


「喧嘩売っとんのかおのれは」


「いや客観的な目線で」


「つまり喧嘩売ってんだろ」


 つっかかるローダスをのらりくらりと躱すユリウス。

 そんな二人に冷ややかな目線を送るフィリア。

 はぁ、と一つため息をつきアルリエルに心のエールを送る。


 アルリエルさん頑張ってください!

 馬鹿二人の分も私が応援してますからね!


 フィリアは祈るように両手を重ねた。



 ―――――――――――――――――――――



 ガキィィィン!


 激しく鍔迫り合うアルリエルとリッケルト。

 両者共に疲労が見え始めていた。

 鍔迫り合いは少しでも体力を回復させるためだ。


「はぁはぁ、そろそろ終わりにしないか?」


「ぜぇぜぇ、ならば死ね……」


 剣に力を込め突き放すようにお互いが距離を取る。


 長期戦は体力的に無理だと判断したアルリエルは、戦術を変えた。


氷柱(アイシクルピラー)!」


 魔法による撹乱、あわよくばダメージを期待して。


「チッ」


 リッケルトは舌打ちして地面から飛び出してきた氷の柱を避ける。

 だがそれは一本だけではなかった。

 避けるたびに新しい氷柱が襲いかかる。


「鬱陶しい!」


 リッケルトの周りは氷の柱だらけになっていた。

 肌寒さで身体の自由を奪ってから強襲するつもりなのかアルリエルの姿は見えない。


 はぁ、と白い息を吐く。


 いつまでも隠れていられると思うなよ。と魔力探知を始める。


 自身の魔力を周囲に広げて氷柱の死角を調べる。


 探知の範囲は10メートルといったところか。


 近くにはいないようだ……。


 が、違うものが上空から現れた。


「矢か!」


 氷柱の無い上空からの攻撃だ。

 氷柱で時間稼ぎをしている間に新しい武器を用意したらしい。


「向こうも死角のはずだ!」


 なのになぜ場所がわかる!


 矢を剣で弾く。


「……奴の真価は弓か。疾風の射手アルリエル」


 忘れてはいなかったが一騎打ちでは弓は不利であろうと思っていた。


「少し甘かったか。見えない位置から正確に狙ってくるとは」


 そしてリッケルトはハッとした。


 魔力探知か! しまった!


 こちらは自分の魔力を周囲に広げて相手を探している。

 氷柱に流れる魔力はアルリエルのもの、この柱が探知の役割を担っているとすれば、自分の魔力を放出しているリッケルトの場所が手に取るように分かるはずだ。


 高度な技術を、と奥歯を噛み締める。


 そこからは一方的であった。


 矢、矢、矢。

 矢の雨がリッケルトを襲った。



 アルリエルは矢を放ち終わり氷柱の周りの様子を探知し再び剣を抜いた。左手にはそのまま弓を携えたまま。


「ふははは! 逃げ場はないぞ? さぁ、どうする」


 不敵な笑みで氷柱の森へと走り出すアルリエル。


 氷柱の影には疲労したリッケルトの姿があった。

 矢で受けた傷が所々にあり、おぼろげな視線を向けてくる。


 アルリエルは油断しない。矢をつがえて接近する。

 それに気づいたリッケルトはよろめきながら剣を握る。

 矢を放つアルリエル、それを剣で弾くが、すでにアルリエルは目前に迫っていた。


「くそっ……!」


「手向けとして受け取れ!」


 一線。


 アルリエルの剣がリッケルトに致命傷を負わせた。

 肩から袈裟懸けに切られたリッケルトは血を流しながら膝をつく。


「うぐっ!」


 アルリエルは瀕死のリッケルトの喉元に剣をあてがう。


「今ならまだ助かるぞ」


 慈悲を掛けるアルリエルに彼は。


「……最初から勝てるとは思っていなかった」


「ではなぜ勝負を挑んだ!」


「贖罪だ、あの日の」


 怪訝そうな顔をするアルリエル。


「贖罪? お前の仲間を殺したのは私達だろう」


「……あの日、俺は何もできなかった。気づけば周りは仲間の屍の山だった。その惨状を目の当たりにした俺は……俺は逃げたんだ」


 表情は見えない。うつむき肩で息をしている。だが悲痛な思いは受け取る事ができた。


「……このまま一人だけ逃げていては仲間に合わす顔がない!」



 リッケルトの復讐は仲間のためでもあり自分のためでもあったのだ。

 戦士として勝負を挑んだがもはや勝ち目はない。ならば、プライドを捨ててでも光明を得るしかない。


「自分の力でおまえに勝ちたかったが、やはり使わざるを得ないな」



「何を言っている?」


 リッケルトの言葉の意味がわからず戸惑うアルリエル。


「……俺は、俺は人族を辞めるぞ アルリエルッ!!」


 リッケルトが懐から小瓶を取り出した。その中には赤黒い液体が入っている。それはまるで血液のようなものだった。


 それを見た瞬間アルリエルの心臓がドクンと跳ねた。


 アルリエルは咄嗟に剣をリッケルトの喉に向けて突き出した。しかし、彼が出した左手に剣は握られ、喉を突き破ることは叶わなかった。

 手から血が滴る。


 リッケルトは荒い息を無視して、小瓶の中のものを一気に呷った。


 カランカランとリッケルトの手元から小瓶が転がり落ちる。


「うぐぅ!? あがぁぁぁ!」


 突如としてリッケルトが苦しみ始めた。


 一体何が起こっているのか、彼の体からは瘴気のようなものが溢れ出している。


 アルリエルは先ほどから得体の知れない感覚に襲われていた。

 あの小瓶の中に入っていた液体を見てからだ。


 なんだというのだ一体!


 身体の奥底から溢れ出る熱い何かがアルリエルを混乱させる。

 その間にもリッケルトはもがき苦しんでいた。


 2人の身体に何かが起ころうとしていた。


 ――ピシッ――


 先に変化が現れたのはリッケルトの方であった。


 身体の所々がひび割れ、ぼろぼろと皮膚が剥がれ落ちている。

 まるで脱皮して新たな姿に変貌するように。


「うああああああああああああああああああっ!!」


 一際大きな声を上げるとその身体は闇に包まれていった。

 繭のように身体を包むそれは高濃度の魔力だ。

 それが一気に膨らむ。


 アルリエルは混乱の最中で、まずいと魔力で障壁を張った。

 集中できずお粗末なものであったが、これがアルリエルの命を救った。


 膨らんだ繭は急激に収縮していく。


 カッ! っと中から光が溢れると、それは膨張して弾け飛んだ。


 城下の大通りに衝撃波が広がった。


「くっ!」


 一番近いアルリエルは衝撃波をもろに受けてしまい吹き飛ばされる。


「なんだっ!?」

「きゃぁあ!?」


 遠巻きに見ていたローダス達も身をかがめその場から動けずにいた。


「はぁはぁ……」


 アルリエルが剣を杖にして立ち上がる。


「あれは、なんだ……?」


 視線の先には……。


「……はぁぁ、どうやら成功したようだな」


「……その姿は!?」


 リッケルトの姿を確認し、アルリエルの鼓動が激しくなる。


 そこには、額から赤黒いツノが生え、背中からコウモリのような翼をはためかせる1人の男がいた。


「〝魔神の血(デモンブラッド)〟怪しい代物ではあったが、効果は本物だったな」


「その姿、魔人族になったとでもいうのか……?」


「ご名答だ。先ほど俺が飲んだものは本物かどうかは知らないが魔神の血(デモンブラッド)と言うらしい。生物を変質させる効果があるようだ」


 リッケルトはあっけらかんと答える。

 先ほどまでとは違う。あきらかに余裕を感じる。


「これほどまでとは思わなかったがな」


 肩をすくめるリッケルト。


 種族が変わるなどということがあり得るのか?

 アルリエルは胸を押さえながらも考える。


 魔神の血、それに秘密があることは明白だがどこで手に入れたかなど言うはずもない。聞き出すためには勝利するしかない。


 だが、私にできるのか?


 アルリエルは胸の痛みが増す中、冷静に戦況を見ていた。


 可能性は、……いかんな、弱気になっている。

 戦うしかないだろう!


 アルリエルは、これまで魔人族とも幾度となく戦ってきた。だがこの男は今まで戦ってきたもの達よりも強い。

 体力、魔力が完全なら勝負にはなったであろうが、今は連戦で疲れている上に謎の症状に襲われている。


 いや、この症状には心当たりがある。

 だとすると、この男は本物かどうかわからないと言っていたが、魔神の血、アレは本物だったのだろう。


 なぜわかるのか。


 それは……。





「プライドを捨てこんな姿になってしまったが、決着をつけようアルリエル」


 顔を上げ魔人になった男を睨む。


 やるしかない。


「そうだな。卑怯とは言うまい。それもまた貴様の力だ」


「感謝はしない。ただ敬意を評し、痛みを感じさせずに殺してやろう」


「……ずいぶん優しいことだ、なっ!」


 アルリエルは地を踏みしめ加速する。


 胸の痛みはおさまらないが、言い訳にはならない。


 弓は無駄だろう。魔力で強化しただけでは弱い。せめて魔法付与がしていなければ、なら普通に魔法をぶつけた方が遥かに効果がある。


火球(ファイヤボール)!」


 火球がリッケルトに向かって加速していく。


「体に力が満ちる」


 リッケルトは火球を避けるのではなく、手を開き迎え入れる体勢をとった。


 バシュゥゥ!!


 火球が着弾する。


 が、リッケルトは無傷であった。かすかに受け止めた手から煙が上がる程度であった。


「熱いな」


 さしてそうでもないように呟いた。


 アルリエルは臆することなく魔人の懐に飛び込んだ。


「ハァッ!」


 勢いよく剣を振るう。

 加速した剣はリッケルトに吸い込まれるように向かっていく。


 が、


 パシィ!


「……!」


 なんとリッケルトはアルリエルの剣を手で受け止めた。


「悪く思うなよ」


 バキィィン!


 リッケルトが手に力を込めると、耳障りな音を立てて剣が粉々に砕かれた。


「くそっ!」


「これで終わりだ」


 リッケルトがアルリエルに手を向ける。


力の解放(リベレイション)


 闇の波動がアルリエルを包み込んだ。




 ―――――――――――――――――――――




『……リエル』


『アルリエル』



 誰かの声が聞こえる。


 私を呼ぶ声。


 懐かしい声だ。


 これは……。



 闇の中でアルリエルは、走馬灯のようなものを見た。



もう一話アルリエルさんのお話です。

途中から変わるかもですけど……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ