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第51話 宿屋の息子 vs 伯爵家の執事

皆さま申し訳ございません!

投稿がかなり遅れてしまいました。

変わらず見てくださっている方、ブックマークしていただいている方、ありがとうございます。

忙しい時期は越えたのでまた投稿を再開いたします。

 

「あそこだ!」


 抱きかかえていたフレッドが一つの屋敷を指差した。

 空を駆け移動していたリット達は、目的地のバルト伯爵邸に到着したのだ。


「ゆっくり! ゆっくりだからね!」


 上空ですっかり畏縮してしまったフレッドを無視して、急降下で風を切りながら伯爵邸へと向かう。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 耳元で騒がれるとたまらなくうるさいのだが……。


 ふわっと敷地内に着地した僕らは辺りを見渡す。


「おぇっ……。……どうやら誰もいないようだね、不用心な」


「というより不気味だね」


 誰もいない庭。だが屋敷内からは嫌な気配を感じる。

 それに、今まさに屋敷内からこちらに近づいてくる人物がいる。


 これは、ギーシュ……ではないな。不快な気は感じない。


 ギィ、と扉が開き中から若い執事服を着た男が現れる。

 男の赤い目が僕達をとらえた。


 男は礼をすると慇懃な態度で話し始めた。


「フレデリク・ヴァレリー様に、リット・アルジェント様ですね。お待ちしておりました」


「貴方は確かバルト家の執事の……」


「はい。オズワルドと申します」


 ルーティを一撃で昏倒させ、ライオスに行き先を告げたのはこの男のようだ。


 油断できない相手かもしれないが、エヴァのために僕は先を急ぎたいのだ。

 奥の手を使わせてもらおう。


「申し訳ございませんが、これ以上進ませる訳にはまいりません」


 オズワルドが構える。


 やる気満々だ。やはり奥の手を使わざるを得ないな!


「リット、どうするんだい」


 ふっ、そんなことは決まっている。


 僕はフレッドの肩に手を置いて、澄んだ眼を向け、そしてこう言った。


「ここは君に任せて先に行く」


 グッド ラァックゥ!


 親指を立ててウインクする僕。


「ダサい! 激しくダサいよ! 親友を置いて行く気かい!」


「親友だからこそだ、頼りにしてるぜマイフレンド!」


「ぐあぁ! 鳥肌がぁ!」


 失礼か!

 いつもキミが言ってるようなことじゃないか。


「ひどいよ! 任せないでよ!一緒に連れて行ってくれよ! 散々弄んで用済みになったらポイするのかい!」


 やめれ! 痴情のもつれで揉めるカップルか!


「……二人とも通すつもりはないのですが」


 オズワルドが困ったように目頭を押さえていた。

 この茶番を黙って見ていたあたりかなり真面目な性格のようだ。


「ほらっ! 通さないって! やっぱり二人でいよう。僕達ずっと一緒だよ」


 今度は僕が鳥肌だよ! 気持ち悪いな!


「……私としてはこのままでも良いのですが」


 呆れた面持ちで立ち尽くす執事に目線を移し、指をさす。


「良くない! というわけで通してもらいます!」


 拳を握り相対する。


「本気で参ります、後悔なされませぬよう。子供といえど噂ではかなり腕が立つと聞き及んでいますので」


 こっちも一緒だ。今まで会ったどんな人間、魔物よりも強そうだからな。


「行きます」


 闘いは静かに始まった。

 どちらかともなくゆっくりと自然に歩いて距離を詰めていく。二人の距離がお互いの間合いに入った瞬間に空気が弾けた。


 バチンッ!!


「消えたっ!?」


 フレッドは何かが弾けるような音がした後に二人が消えて驚いている。

 だが居なくなったわけではない。二人はあの一瞬でフレッドの背後に移動し拳を交わし始めていた。


「ふっ!」


「ほっ!」


 拳を交え始めてリットはオズワルドがどのような人間なのかを感じていた。


 実直、真面目、基礎がしっかり固められている武術から彼の人となりが多少なりとも伝わってきた。


 ん〜。ギーシュの家の執事だから嫌な奴かもと思ってたけど逆だな。この人クソ真面目だ。

 理由としては急所を狙ってこないこと、やはり子供だからだろうか? 言っていた通り本気ではあるのだろう。だが、殺す気は無いように思える。良く言えば真面目、悪く言えばあまい、彼の印象はこんな感じだろうか。

 あっ、殺すなって命令されてるのかも、自分がやられるかもしれないのに律儀なことで。


「闘っている最中に考え事など!」


 オズワルドの鋭い突きがリットを襲う。


「ふんっ!」


 リットは胸を張り自らその突きに当たりに行った。


 ガキィィン!

 鈍い音が二人の間に響く。


「なっ!?」


 驚愕の声を上げたのはオズワルドだった。


 オズワルドの渾身の突きはリットの胸元で止められていた。

 魔力を防御に集中させ強力な一撃を防いだのだ。


「効かぬわぁ!」


「くっ!」


 仰け反り後ろに下がるオズワルドは、驚きに身をうち震わせている。


「ありえない。私の本気の突きはドラゴンの鋼の皮膚でさえやすやすと貫けるというのに……」


 信じられないと自分の手を握る。


 いや、そんな物騒な技を子供に使うなよと言いたいが……。


「……ははは」


 笑った。爽やかぁ。いやいかん! イケメンは敵だ!

 ボコボコにして然るべきなのだ!


「こちらも奥の手を出さなければならないようですね」


 紅い目がギラリと光った。


 む、雰囲気が変わった。何かする気だな。

 奥の手、……まさかっ!

 誰かに任せて逃げる気だな!


「……」


 フレッドにジト目で見られてしまった。

 口に出してたっけ?


「ご安心ください。逃げるなど恥でしかありません」


 恥ずかしっ! さっきまでの僕恥ずかしっ!


 それなら彼はどうするというのだろう?


「私の本当の姿をお見せしましょう」


 待て待て待て待て。やめなさい! そりゃフラグだ!

 ラスボスみたいなフリはやめてくれ!

 絶対負けるやつそれ!

 ていうか本当の姿? 人ちゃうかったん!?


 オズワルドが黒い霧に包まれていく。その中からは先ほどとは比べものにならないほどの力の波動を感じる。


「リット、大丈夫なのかい?」


 不安そうにフレッドが近づいてくる。


「わからないよ、フレッドは離れてたほうが良いかもしれないね」


 そういうと急いで離れて行った。

 僕は苦笑してそれを見ていた。


 そろそろかな?


 黒い霧がブワッと霧散した。その中からオズワルドが現れる。

 あまり変わったようには見えないが、先ほどまでとは違い額から紅い角のようなものが生えていた。


 えっ、そんだけ?


 正直ガッカリだったが、後ろからフレッドの慌てた声が聞こえてきた。


「まさかっ!? 魔人族!」


 ふぁっ!? マジで、聞いたことはあったけどこんななの?

 普通の人族と変わんないじゃん。もっと禍々しいかんじかと。

 てか角収納可能って街にいても気づかないって。


「角が出し入れ可能なんて聞いたことがない! あれは魔人族にとっての力の象徴なんだ。折られたりしたら人族となんら変わらない能力になる。それを出し入れ出来るなんて他の種族は喉元にナイフを突きつけられているようなものだ」


「折れてもまた生えてきますがね」


 トカゲの尻尾か!


 本気と言っていたけどさっきまでの状態での本気か、今度はもっと強いのだろう。

 思わず口角が上がる。


 それにしても角の収納が可能なら本気でいたるところに魔人族がいそうだな。


「あまり居ませんよ」


 考えていた事を見透かされたようだ。

 視線を上げてオズワルドの紅い眼を見据える。


「全員ができるとは言えませんが、特殊な体質というわけでもありません。訓練すれば誰でも出来ます。ただ、想像を絶する訓練ですがね」


「そんなことペラペラ喋っても良いのかな?」


「かまいませんよ。あなた方を捕らえれば誰にも言えないでしょう」


 なるほど、死人に口なしというわけか。

 遠回しに言ってるけど捕らえられたらギーシュに殺されるだろうからな。

 まぁ、捕まらないし死なないけど。


「だったら早く捕まえてみろよ」


 挑発するように指を立てる。

 あらお下品。エヴァには見せられないわ。


「いつまでその余裕が持つか……」


 オズワルドが蹴りを放つ。しかしリットとの間にはまだ距離があった。だが、リットは危険を察知して横に跳んだ。


 バシュゥゥ!


 先ほどまでリットがいた場所は、地面がえぐれ周りに土が散っていた。

 魔力をその勢いのまま飛ばしたのだろう。なかなかの威力だ。当たったらかすり傷を負うところだった。


 ふう、危ない危ない。


「ちょ! リットさーん! 大丈夫なの!?」


 だいじょぶだいじょぶ。心配しなさんな。


 拳を握る僕。


 変身して強くなったところ申し訳ないけど、一瞬で決めさせてもらうよ。


「力を解放した私は魔王軍の幹部にも匹敵します。今ならまだ怪我をする前に投降できますよ」


 そうしたところで先に待つのは死だけだが、とオズワルドは同情を禁じえなかった。

 それと同時に、まだ幼くも才気あふれるリットに尊敬にも似たものを感じ始め、もったいないとも思っていた。

 だが、自分は組織に属する身としてやらなければならないことがあるのだと言い聞かせて拳を構えた。


 時間が止まったようだとフレッドは思った。

 静止した二人を見てそう錯覚してしまうほどに静かであったからだ。

 眼を一瞬でも離すまいと見開き、渇くのも無視して二人の動き出す時を待った。


 先に動いたのはオズワルドであった。


「はぁ!」


 魔力を右拳に集中させ地を蹴り一瞬でリットの目の前に肉薄した。

 オズワルドは勝利を確信する。


 が、対するリットは流れるような動作でそれを避けた。

 まるでヒラリと舞う葉のように。


 避けるのと同時に左手でオズワルドの右手を取り、自身の右手を彼の胸部にそっと当てた。


 はぅっ。ふくらみがっ!? あるはずもないか……。


 冗談はさておき。さぁ、喰らってもらおうか。


 ……武神流拳闘術。


封魔浸透掌(ふうましんとうしょう)


「がっふぅ!?」


 肺から空気が強制的に抜かれる。


 封魔浸透掌、身体の外側ではなく内側から破壊する技だ。そして体内の魔力の流れを乱し弱体化させる。


 肺の空気がなくなりオズワルドは苦しそうにしている。


「――!」


 声なき声が耳を掠める。


「はいすってー、はいてー」


「ひゅっ! はっ! はっ! はっ……!」


 呼吸が戻ったようだ。いくら強くても息ができなければ大体の生き物は死んでしまう。


「僕達はもう行きます。追ってきたいならどうぞご勝手に。ただし、追ってきたとしてもまた同じ目に遭うだけです」


「……こ…ろさ…ないので…すか……?」


 息が整いきらない間に話したのでたどたどしくなってしまったが、そんなことはオズワルドにはどうでもよかった。

 彼の妹を連れて来たのは自分だ。恨みはあるだろう。だから覚悟はできている。


「なんで?」


 少年から返ってきた答えは疑問だった。


「貴方は良い人だ。父に行き先を告げ、戦いの最中では僕を必要以上に傷つけまいと()()()()()()してくれた。それに拳を交えれば相手のことは大体わかります。癪ですが師匠に教わったことがこんな形でわかるとは思いませんでしたけどね」


 少年は全部気づいていたらしい。後半は殺意が感じられたが……。


「……完敗です」


 息も整い清々しい気持ちで出た言葉だった。


「では僕達はこれで。フレッド行くよ!」


「あっ! うん!」


 少年達が屋敷に入っていくのを見て、オズワルドは静かに眼を閉じたのだった。



 ――――――――――――――――――――



 場所は変わり城下の大通り。

 現在は避難も進み、人はまばらだ。

 その中でアルリエル達は襲撃者達をひとり、またひとりと戦力を削っていた。


「こいつで最後だな」


 アルリエルが最後の一人を無力化し、周りの状況を確認する。

 まだ潜んでいる可能性がある以上警戒は怠らない。


「アルリエルさんもう大丈夫じゃないですか?」


 近づいて来たのは魔力切れで敵を物理的にボコボコにしていたフィリアだった。

 なかなかシュールな光景であったが、このパーティーにいる以上必要最低限の護身術はアルリエルが教え込んでいた。


「まだだ、家に帰るまでが冒険なのだ」


「子供を諭すみたいに言わないで下さい」


 冗談が言える程度には余裕も出てきた。


 そうこうしているうちに衛兵が襲撃者たちをせっせと連れて行っている。

 それを見たフィリアも手伝いにトコトコと歩いて行った。


 あとは任せるか。


 と、そう思った時だった。


「流石だな」


 声が聞こえバッと後ろを振り返る。


 背後にいたのは、黒いローブを羽織った男だった。


 冷や汗が滴れる。


 この男今まで奴らとは違う……!


 一瞬でそう悟った。

 向き合ってから先ほどまでは感じなかった殺気をひしひしと感じる。肌が焼けるようなプレッシャーであった。


「何者だ!」


「お前は俺を知らなくても、俺はお前をよく知っている」


 くそっ。恨みを買いすぎていて誰か特定できん!


「わからないなら教えてやろう」


 男はローブを剥ぎ取り姿を現した。


 よく鍛えられた身体だ。研鑽が垣間見える。


 顔は………見たことがないな。


 思い出そうとするが全く思い出せない。


 眉間に皺を寄せていると。


「ははは。 無駄だ、俺とお前は直接会ったことはない」


 直接はない? 間接的な恨みか。


「ルーティが世話になったと言えばわかるか?」


 アルリエルは驚いた表情の後に眼を瞑った。


「なるほど、あの時の生き残りか」


「そうだ」


 短く答える男に。


「私達も生きるためだったからな。お前達だってそうだったのだろう?」


 その通りである。アルリエルが言いたいのは覚悟のことなのだろう。

 だが、人を殺すことには慣れていたが、身内を殺されることには慣れていなかった。

 こんなにも苦しいものだとは知らなかった。

 だから……。


「……星の旅人達(おまえたち)を殺してすべてを終わらせる」


 それが何も産み出さないことを知っていたとしても。


 襲撃者リッケルトが両手に剣を構える。

 それに応じてアルリエルも剣を手にした。


「来い」


 もう一つの戦いが始まろうとしていた。


次はアルリエルさんメインです。

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