第49話 走れリット!
明けましておめでとうございます!
遅れて申し訳ありません!
今年もよろしくお願いします。
では、新年初投稿です。
家族の身に起きた事を知るため、僕とフレデリクは黒猫亭を目指して走っていた。
が。
「フレデリクおそい!」
「無茶言わないでくれ! 付いて行けもしないよ!」
むぅ、軟弱者め。
フレデリクは僕の速度についてこれずに息を切らしていた。
地面に四つん這いになり汗をダラダラながしている。
仕方ない。不本意ではあるが背に腹は代えられない。
僕はフレデリクのそばに駆け寄ると首根っこを掴んで宙に放り投げた。
「うあぁ!」
宙に放り出されたフレデリクは驚きの声を上げる。
リットは宙から落ちてくるフレデリクを両の手を広げて受け止めた。俗に言うお姫様抱っこと言うやつだ。
「リット! 恥ずかしい!」
「我慢してよ。このまま行くからね」
リットは脚に魔力を集中させて王都を駆けた。
しばらく走り続けると異様な人物と通りすがった。
黒いローブを着ている。以前にも何処かであったような既視感を覚える。
かなりの速度で走っていたので、向こうはびっくりしたようだ。黒いローブを着ていて表情は読めないが。身体が反応していた。
僕はいつぞや、ギーシュと一緒に馬車に乗っていた従者を思い出した。
多分同一人物だろう。
単独行動しているので、何かギーシュに言われて動いているのかもしれない。
もしかすると黒猫亭に何が起こっているのか知っているかも……。
そう思った僕は立ち止まり、ローブを着た人物に声をかける。
「前に城下で会いましたよね?」
ナンパじゃない、これ、絶対。
「………ああ」
ローブの人物は短くそう答えた。低い音が耳に心地よかった。声からしてやはり男性のようだ。ローブ越しでも分かるほど大きな身体をしている。
「あなたの主人は今どこに?」
フレデリクが僕に抱えられたままで質問する。
いささか締まりが無いが、フレデリクはキリリとした表情で男を見据えている。
「今頃お前の家に居るはずだ、リット・アルジェント」
えっ? ダメ元だったけどえらい簡単に教えてくれるな。
何か裏が?
「では、貴方は何故ここに? 主人の元に居なくても良いのですか?」
うん、そうだよね。気になる。
一体何を企んでいるんだ?
「……野暮用だ。お前達、早く行かないと家族が大変だぞ」
おっと、確かにそうだ。何か企んでそうだけど今は早く黒猫亭に戻った方がいいだろう。
「どうも、親切にありがとう!」
男に自然と感謝してしまった。
何か考えがあって僕達を騙しているだけかもしれないが、何故だろう? この人が嘘を言っているようにも聞こえなかったのだ。
不思議な感覚にとらわれつつも、男を背にし再び走り出す。
「リット、いいのかい?」
フレデリクの言いたい事はわかるが、戦意を交わすつもりは向こうには無かったように思う。
何か戦意とは違う、覚悟のようなものを感じた。それに……。
「……悲しげだったんだ」
僕はあの人の姿を見て、何故かはわからないが、そう思わずにはいられなかった。
リットの姿が見えなくなった後も、リッケルトは目を細めてその方向を見ていた。
「……リットか、ルーティがつけたんだろう? いい名前だ」
ふと呟いたその声はとても優しく、リット達に嫌がらせをしているギーシュの部下とはとても思えなかった。
「あの人の名前から取ったんだな」
父と慕った人物の、今は自分が使っている名前を考えて目をつむる。
今から自分がする事は、ルーティとリットを悲しませてしまう。気分が良い訳はない。
だが、もう決めてしまっている。自分が選んだのはこの道で、もう引き返せない。
表情は厳しいものへと変わり、自らの願望を叶えるために城下へと歩き出す。
そう、これは復讐への道なのだ。
―――――――――――――――――――――――
ローブの男と別れたリットとフレデリクは、しばらく走り黒猫亭へと無事に到着していた。
「……うえっぷ」
フレデリクが口を押さえて嗚咽を漏らしている。
「汚い、早く行くよ」
「少しは労ってよ! 君のせいなんだからね。近道するとか言って家の屋根をピョンピョン飛び移って移動し始めた時なんかもう……」
ぐったりしている貴族の嫡男を置いて扉に手をかける。
扉を開くとそこには。
「父さん! 母さん!」
床に伏した両親を見つけた。周りには常連の客達が居て店の掃除をしている。
よく見れば店の中は荒れ放題であった。
「リット戻ったのか」
常連の一人が近づいてきたので、何があったのか事情を聞くことにした。
「――なるほど、そんな事が……。くそっ!」
話を聞いた僕は拳を握りしめて肩を震わせた。
「ああ、エヴァは攫われちまったよ」
「どこに!」
居ても立っても居られない。早くエヴァの側に行ってやりたい。
僕は常連さんの首を締めながら言葉を待つ。
「えっぐ、ぐるじぃ……」
「リット! 死んじゃうから離してあげて! それじゃ喋りたくても喋れないよ!」
「むぅ」
はやる気持ちを押し殺して手を離す。
ゴホゴホと咳をして距離を取る常連さん。
「殺す気か!?」
めっそうもない。妹が心配でつい。
「俺はあいつらがどこに行ったかは知らねーが、名前だけは聞いたぜ」
「それはギーシュという名前ではありませんか?」
フレデリクがそう尋ねる。
「おうよ、そう呼ばれてたぜ」
やはりか、なら行き先は……。
「バルト伯爵邸だ」
横からそんな声が聞こえた。
「父さん!」
いててて、と身体をゆっくりと起こしながらライオスが目覚めたのだ。
「いつのまにか気を失ってたみたいだな。あー、リット、すまねぇな。エヴァを連れていかれた」
「いいから寝てなよ」
横になるように促したが、ライオスは首を振った。
「こんな時にいつまでも寝てられるか。すぐにでもエヴァを助けに行く」
「待ってくださいライオスさん、貴族の家に押し入る気ですか? そうなればその場で処刑されてもおかしくないんですよ」
ならどうすればいいんだと、フレデリクを睨んだ。
「僕が交渉しましょう」
「交渉に応じるとは思えないな」
「それにそれだとエヴァを長い時間放置することになる。僕は嫌だね、今すぐ彼女の元へ向かうよ」
「よく言った! さすが俺の息子だ!」
「話を聞いてくれよ! この国に居れなくなってしまうかもしれないんだよ!」
「「構うか!」」
リットとライオスの意志は固かった。フレデリクは真っ直ぐに見据えられて顔を伏せる。
「僕が嫌なんだよ……。リット達が居なくなったら寂しいじゃないか。時間をかければなんとかなるかもしれないだろ」
「うん。でも、なんとかならないかもしれない。それにフレッド、エヴァは今助けを求めているんだ」
その言葉にフレデリクは奥歯を噛み締めて黙るしかなかった。
「ごめんフレッド、僕にとってエヴァは一番大切な人なんだ」
「馬鹿だよリットは、あと悔しいな。僕も一番になってみたいよ」
呆れたようにフレデリクが呟いた。
それを聞いたリットは、ため息をついて彼の胸に人差し指を立てた。
「なにいってるの? 一番の親友だろ」
ウインクしながら言うリットに。
「……ずるいなぁ」
と、苦笑いでこぼすのだった。
「こう見えて、僕は意外と欲張りなんだ。ギーシュはぶっ飛ばす、君は僕達がこの国に居れるように頑張ってよ」
「無茶言うなぁ。でも、一番の親友だからね」
リットが人差し指を畳んで拳をつくる。フレデリクはそれに自分の拳をコツンと合わせた。
「……なんか、友達っぽい」
ほんのり頰を染めるフレデリクを見て。
「フレッドは本当にボッチだったんだね」
「……リットお前言っていい事と悪い事があるぞ。まぁ、聞いてないっぽいからいいか」
自分の世界に入り込んでいるフレデリクを見て、あまり気にしないことにする。
「それより父さん、何でバルト伯爵邸に行ったって知ってるの?」
「あー、なんかエヴァを連れ去った奴がそう言ってたんだよ」
へ? ギーシュが?
「いや、オズワルドって言ってたな。めっぽう強いやつで、あのルーティがこの様だ」
そう言ってルーティの方に目配せをする。
ルーティはう〜んと唸って難しい表情をしていた。
「母さんを倒した? 元Sクラス冒険者の?」
「不意打ちだったけどな、一撃だ」
素直に驚いてしまった。いつも荒くれ者相手に一歩も引かない、いや、逆に前に出てボコボコにするような人をいとも簡単に倒してしまうだなんて。
「ああ、そいつが去り際に呟いたんだよ、バルト伯爵邸ってな」
引っかかるな? さっき会ったローブの人も親切してくれたし、なんでだ?
「バルト伯爵邸、行ってみないことには何もわからないな」
「だな」
決意を固くし、いざ伯爵邸へと突撃しようと思った時だった。
「う〜ん。……いたた、あぁまさか私が真っ先に倒れるなんて……」
ルーティが腹部を押さえながら立ち上がった。
まだふらふらしていて危なっかしい。
「おいっ! 危ないぞ」
ライオスが慌てて彼女の身体を支える。
「……ありがとライオス」
ライオスの身体にもたれかかって恥ずかしいのか、ルーティが顔を赤くしている。
おや? なんだか甘い雰囲気が。これは邪魔できない。
ふぅ、しょうがないなぁ僕だけで行きますよ。最初からそうゆう予定だったし。怪我人を連れて行くわけにもいかない。
「リット、とりあえず伯爵邸に向かおう」
「そうだね。父さん母さん行ってくるからお店の片付けお願いね」
「待て待て俺も一緒に……」
「足手まといよ私達は」
イチャイチャモードに入っているかと思ったが、話はきっちり聞いていたようだ。
しかも母さんは、自分達の状況を冷静に判断しているようだ。その決断力は冒険者時代に培ったものだろう。
「私達は行かないけどエヴァの事頼んだわよ」
「最悪エヴァだけでも無事ならいい」
おいっ! 息子は、ねぇリット君は無事じゃなくてもいいの!?
「男だろ」
便利な言葉!
僕が伯爵邸に乗り込むという話を聞いて店の客達が声をかけてくれた。
いい人達やぁ。どっかのバカ親とは大違い。
「リットすまねぇな。俺達も一緒に行きてぇが、力不足だ。ここでお前とエヴァが帰ってくるのを待ってるぜ」
「無事帰ってこれたら宴会しましょう。フレッド持ちで」
「何それ!? 何のとばっちり!?」
笑いが起こる黒猫亭、だけど足りない。
一つでも欠けちゃいけないんだ。
わかってる。必ず奪い返す。
「リット、帰って来たら話があるわ」
真剣な顔をする母を見て、一つうなずく。
「だから、さっさとぶっ飛ばして来なさい」
親指を立てるルーティ。その顔はどこか安心しているように見えた。
「行ってこい。宴会の準備して待ってるぞ。あ、早く戻ってこいよ、一人じゃ間に合わん」
おい、台無しかよ。
「はいはい。とりあえずまかせてよ。迷子の妹を連れて帰るのはお兄ちゃんの仕事だからね」
「道案内は任せてくれ、行くよリット」
フレデリクに促され、黒猫亭から出る。
よし、行くか。フレッド、どっちだい?
「とりあえず城下に向かえばいい。あとはそのとなりの貴族街にはいればすぐだ」
ガッテンだ。
僕はフレッドを持ち上げて再びお姫様抱っこ。
「ちょっ!? また!?」
うるさい。舌を噛むよ。
リットは空に向かって脚を進める。
バルト伯爵邸へと向けて、文字通り空を駆けた。
魔力操作の極致、空気中の魔力を足場に宙を走り出したのである。
空中飛翔の魔法とは違い小回りが利いて使い勝手がいいのだが、そんな事をリット以外、他に誰ができるであろう?
「アアァァァァァァァァァァァァァァァ!?!?」
フレデリクの絶叫が王都にこだました。
更新していない間も地味にブックマークが増えて、400件に達しました。
これも読者様のお陰でございます。
今年も更新して行きたいと思いますので、これからもこの作品共々よろしくお願いします。