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第37話 営業開始!

 

 ――昼時。


 冒険者である私は、城下町で店を構えるという未来の夫のために、今日は護衛として城下町に向かっていた。


 いつものパーティメンバーを引き連れて、談笑しながら馬車で移動している。


「アルリエルさん楽しみですね。リットくんの依頼で、城下で出す屋台の護衛だなんて」


「一応仕事なのだぞフィリア」


 ウキウキしているパーティメンバーのフィリアに釘をさす。


 まぁ、はしゃぐのも無理はないか、今までは魔物を狩りに、森や近隣の町にばかり行っていたからな。

 それにこの護衛依頼でフィリアはAランクに昇格する。

 要人の護衛がAランクの昇格に必要なのだ。

 フレデリクが居るから貴族の護衛扱いになる。あまり護衛の依頼がないから助かったな。


 フィリアはこの依頼を楽しみにしていた。昇格抜きにして色々と普段とは違うものが見れるからだ。


 正直に言えば私もこの依頼は少し楽しみだ。

 森と王都の中心では、空気が違い過ぎる。

 久しぶりにゆったりした依頼もわるくない。


 私も、この国の中核に出向くのは久しぶりなので、色々回ってみるつもりでいる。

 もちろん時間内はしっかり仕事させてもらうが。

 だがその後は、ふふふ、リット付き合ってもらうぞ。


 リットと一緒に行動できる事に顔がほころぶ。


 そんな事を考えている間に馬車が止まり。城下に到着した。


 城下にはいつ来ても賑わっている。色々な国を回ってきたが、この国はとりわけ人が多い。


 そんな城下だが、今日は一際賑わっている一角があった。


 人の活気が凄まじく、まるで王都で年に一回開催される聖誕祭のような騒ぎだ。


 衛兵が騒ぎを鎮圧しようとしているが、いかんせん人が多く、軍隊に対して少数で挑んでいるようなものだった。


 あっ、衛兵が弾き飛ばされた。


 うむ、お勤めご苦労。


 仕事熱心な衛兵に敬礼をする。


 この騒ぎに興味はあるが、今日は仕事として来ている。それにあの人がひしめき合う中には正直行きたくない……。


 さて、指定された場所はと……。


 気を取り直し、リットから受け取っていた地図の印の場所を見る。


 なるほど。


 顔を地図から離し、もう一度地図を見る。


 私は目を疑った。


 目を擦る。そして今まさに騒ぎの渦中にある場所を見る。

 人々の熱気が凄まじいな。ははっ。


 もう一度地図の印の場所を確認。


 ふぅ。


 一呼吸入れる。


「どうしたんだよ? 場所わかんねぇのか?」


 パーティ内の剣士ローダスが地図を覗き込む。


「え〜と、ここがこの位置だから、印の場所は…………」


 印の場所を見つけて、指を指し固まるローダス。


 無理もない。


 ローダスは先ほどの騒ぎが起こっている場所を驚いた表情で見ている。


 そう、今まさに騒ぎを起こすその場所こそ、私たちの護衛対象がいる場所なのだ。


「……あの中に入るのか? てか、ぜって〜リットがなんかしたよな」


 半目になり、呆れた表情のローダスの肩を叩く。


 気持ちはわかる。うん。


「……でしょうねぇ」


 フィリアは諦めながらそう呟く。


 もう疲れるのが確定したからな。遊ぶ体力が残らないかもしれない。


「まぁ、依頼なら仕方ありません。お三方行きましょう」


 ユリウスは淡々と私達を促し、騒ぎの方向に視線を移す。


 ふっ、行くか。


 魔物の集団暴走(スタンピード)並みの圧があるその中心へと、冒険者パーティ疾風の狩人は一歩踏み出すのだった。



 リット、お前はどこにいても騒ぎを起こすな。


 おかしくて、つい笑ってしまう。


 ふふっ。まったく、お前といると退屈しないな。



 表情は皆違ったが、この時、四人全員同じことを考えていた。


 リットが居ると、そこには自然と人が集まると。



 ―――――――――――――――――――――



 時はアルリエル達が城下に到着する前にさかのぼる。


「うおーーー!!」


 今僕は、今までにない速さでハンバーガーの調理に没頭していた。


 何故かって?


 それはメイドさん達と一緒にハンバーガー作る練習してたら匂いやらメイドさんやらに惹かれて人が集まって来てしまったんだ。以下略。


 おかげで明後日からの営業を前倒しすることになったんだ。


 営業届けはウィリアムさんが出しに行ってくれたから、取り締まわれる心配はない。


 急だったがウィリアムさんが届け用紙を持っていたので助かった。


 まったく想定外だよこんなの。


 でも、食べたいって言うなら作るよ。

 それが僕の仕事で生き甲斐でもあるから。


 僕が必死にハンバーガーを作るのを他所に、不条理にも人はどんどん集まってくる。


 鉄板が足らねぇ!

 てか、材料もうないんですけど!


 あたふたしていると、人だかりからウィリアムさんの声が聞こえてきた。

 メイドが何人か追従している。どうやらヴァレリー家から連れてきてくれたようだ。


 まじ助かります。後で少しならハグしてあげちゃう。


「本当ですかリット様!」


 心を読むな!


 ウィリアムが道を開けてもらいながら屋台に到着する。


「ウィリアムさんありがとう」


「いえ、これもリット様のためでございます」


 ありがたいが、ヴァレリー家の事も考えなよ。


 ん? そういえば食材は?


「こちらに」


 そう言ってウィリアムは高価そうな鞄を僕の前に差し出す。


「これは?」


 まさかこの中に入ってるなんて言わないだろうな。


「魔法の鞄、マジックバッグでございます。全てこの中に入っております」


 はへ?


 キョトンとしているとウィリアムさんが説明してくれた。


「こちらは特殊な鞄で、有限ではありますが、大容量の物を収納することができます」


 便利っ!


 僕の空間収納と一緒か。

 僕のもかなり容量増えたしな。今度どれくらい入るか試してみよう。


 早速中身を出してもらう。

 中の時間は動き続けるらしく食べ物は普通に腐るらしい。


 僕の空間収納は時間が止まってるっぽいな。だいぶ前に入れた魔物の肉がまだ新鮮だし。


 出してもらった材料を、冷蔵庫に入れられるものは入れて、残りは僕が収納する。


 その行動にメイドさん達、さらに周りにいたお客さんが驚きの声を上げる。


 だが気にしていられない。

 じゃないとハンバーガーの提供ができない。


 ふとバッグに手を突っ込み硬い何かを掴む。

 ん? これは?

 引っ張り出してみるとそれは。


「鉄板だ」


 そう。鉄板が入っていた。

 ちょうど欲しかったところだ。


「リット様、僭越ながら用意させていただきました」


 さらに手を突っ込むと鉄板を乗せる台もあった。


 いや、ウィリアムさん有能過ぎでしょ。

 一家に一台レベルだな。


「ご褒美をいただけますか?」


 目がいやらしく輝いていた。


 一家に一台は、変態でなければの話だったな。


 ウィリアムさんはスルーして、次はパティを作る。空間収納に手を突っ込み、中で万能(ユニヴァース)創造(クリエイト)を発動させて肉を加工する。

 本当はちゃんと調理したいが仕方がない。

 次いでミートソースなども作っていく。


 出来たものを空間収納から取り出し、どんどんハンバーガーを量産する。


 ハンバーガー作りを再開した頃には、周りにいた人達が違う意味で興奮していた。



「あの子さっき何した!?」

「客を引くパフォーマンスか?」

「加護持ち!? 空間収納だって!?」

「やばいあの子すごいよ! それに料理あの子がしてるんだ!?」

「ふわぁ、お母さん凄いよあのお兄ちゃん!」

「そ、そうね。初めて見たわ、空間収納。最上級の加護の一つ……」



 お客さんの反応を他所に、僕は次々とハンバーガーを作っていく。


 メイドさん達も慣れないながらも善戦している。


 オーダーを取っているのはまさかのフレデリク。


 これって不敬じゃないよね?

 自分でやるって言ったし、大丈夫だよね?


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


 歯を見せて爽やかに笑うフレデリク。

 まさか貴族が屋台の注文を取っているとは夢にも思うまい。


 気づいた人はギョッとしているが、概ね好評のようだ。

 特に女性客から………。


 今もキャーキャー騒がれている。


 ケッ、顔がいい奴は特だよなぁ!


 別に悔しくなんかないんだからね!


 フレデリクを睨みつつハンバーガーを捌いていく。


 後から来たメイド達も、調理とオーダーを取る手伝いをしてくれている。


 ウィリアムは自分から列の整理を買って出た。

 何でも衛兵が出動する騒ぎになっているらしい。流石に不味いらしく今は列の整理に勤しんでいる。


 衛兵への説明も頼んだよ。


 だが僕は知っている。そんなものは建前で、本音は列に並んだ子供と触れ合いたいだけだということを。



 慌ただしい中、ハンバーガーが次々出来上がっていく。


「番号札7番でお待ちのお客様」


「あっ、わたしわたし」


「熱いので気をつけてください」


 メイドさんが女性客にハンバーガーを手渡す。


 ハンバーガーにはソースがこぼれないようにするためと、手づかみで食べれるように、紙袋をつけて提供している。


 いくら美味しくても手が汚れたり、ソースがこぼれて火傷したら意味がないからな。


 ただ紙のポイ捨てはやめてね。営業出来なくなっちゃうから。


 女性がハンバーガーに口をつける。

 食べ方は前にいる人に倣ってもらっている。

 わからなそうな人にはちゃんと言うが、大体周りで食べているのでその必要はない。


 カプリと一口。口についたソースを舌でペロリ。


 むぅ、色っぽい。


 女性は頬に手を当て満足そうに咀嚼している。


「……美味しいわぁ」


 周りで食べているお客さん達も皆満足そうに食べ、笑顔を振りまいていた。


 僕が見たかったのはこの光景だ。

 誰しもハンバーガーを食べて笑っている。そこには人種の壁だって存在しない。


 よく見ると亜人種がチラホラといる。男ばかりだが……。


 うん。いい感じだ。



 朝のピークが過ぎたのか、お客さんが少しずつ減っていく。


 よし。もう少しだ。


 そう思った矢先だった。



「リットー! 私がお客さんを連れてきたわよ!」


 イリナが第二波のお客さんを連れてきた。


 おいっ! 流石にキツイぞ!


 悪魔かおのれは!


「はははは! 喜びなさい! 朝の仕事を終えた、お腹を空かせた労働者達よ!」


 ハンバーガーを作りまくっているうちに、いつのまにか昼時になっていたようだ。

 そろそろアルリエルさん達が護衛に来る頃だな。

 本営業からは朝からしてもらおう。手伝ってもらうために!


 イリナめ! 明後日の本営業からはメイド服で列の整理や接客をしてもらうからなぁ!


 あーもうっ! 人手が足んない!


 バタバタと慌ただしさが戻る屋台。


「リット、なんか衛兵が責任者出せだって」


 えっ、衛兵が詰め寄せてきてんの?

 説明は? ウィリアムさぁーん!



「子供がいっぱい♡」



 列の整理をしていたウィリアムは、子供に夢中で仕事を忘れていた。


 それを目視で確認したリットは、こめかみに血管を浮かび上がらせながらもハンバーガーを作っていた。


 だが、心の中では、叫ばずにはいられなかった。


 ウィリアム! あの変態執事がぁー!!


 その叫びは無情にも、誰にも届くことはなかった。


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