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第36話 想定外

 

 今日も朝から馬車に揺られ、城下へとたどり着いた。


 城下は朝早くだというのに、沢山の人で賑わっている。


 屋台を出す場所にはイリナがすでにスタンバイしていた。


 フレデリクと一緒に来た僕は、屋台を持ってきてくれたヴァレリー家の使用人にお礼を言って、早速準備に取りかかる。


 屋台には昨日は無かった黒猫亭の看板が付いていた。

 何だか嬉しいようなむず痒いような……。


 屋台の中を不備がないか確認し、全員を呼んだ。


 今日はメイドさん達に、仕事の内容を知ってもらうため、一緒にハンバーガーを作ることになっている。

 食材は多めに用意してあり。後から来る護衛の冒険者達の分も作ってあげるためだ。


 ハンバーガーを自分達で提供し、自分達で食べる。

 これで、接客の練習も兼ねるのだ。


 イリナが早くハンバーガーを食べたいようなので、早速作る事となった。


 フレデリクとウィリアムさんには、お客さん役限定で頼もう。

 一緒に作るなどと言い出したら面倒な二人だ。

 友情の押し売りに、片や変態だ。 

 ベタベタ触ってくるに違いない。


「リット様お手伝い致します」

「リット、僕に任せてよ」


 やる気満々の二人。


 だが要らん。メイドを連れて参れ。


 あからさまにシュンとする二人は放っておいて、メイドさんにハンバーガーの調理法を教えていく。


「リット様よろしくお願いします」


 メイドさん達が揃って頭を下げる。


 一糸乱れぬ動きに感動。


「早く始めなさいよ」


 イリナに急かされて調理や接客の仕方を教えていく。


 メイドさん達は物覚えが早く、時間を有意義に使えた。

 接客に至っては、普通の屋台ではあり得ないくらいのクオリティーになってしまった。


 高級レストランか!


 だが、早く覚えてくれたのはいいが、触れ合える時間が少なくて、そこだけは残念だった。


 もっとメイドさんと一緒に触れ合いたい!


 だが、我慢する。昨日エヴァに言われたばかりだからな。

 ふっ、学習するのが出来る男なのさ。


 一通り教え終わると、イリナがこちらに歩み寄ってきた。


「リット、私は?」


 イリナが教えて欲しそうにしていたが、不器用なことを知っているので却下。


 ムスッとするイリナに、ハンバーガーを食べさせてあげると言って機嫌を取り、メイドさんが作った物を出す。


「悔しいけど、おいしい」


 複雑な表情をしながらも、ハンバーガーを評価して食べていた。


「リット、今度こそ僕にも作ってもらうよ!」


 フレデリクがイリナの食べているハンバーガーを見て、僕に催促してくる。


「リット様、私も是非」


 おや、珍しい。ウィリアムさんが、幼児以外に興味を示すとは。


 仕方がない。お客さん役もして貰ったし、それくらいはしてやろう。


 だけど、復習として今度は注文から料理の提供までをメイドさん達と一緒にやってみよう。


「二人とも、もう一度お客さん役をお願いね」


「わかった」

「承知いたしました」


 二人は屋台の前に並ぶ。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


 僕が、フレデリクに注文を聞く。


「ああ、このミートソースバーガーを一つ」


 ミートソースバーガー、伯爵に出したハンバーガーだ。これをメインにやっていく。


「ミートソースバーガーは、只今品切れ中なので、プレーンバーガーになりますね」


 プレーンバーガーとは、試作でフレデリクに作ったハンバーガーの事だ。もったいないので、メニューとして置く事にしたのだ。


「えっ!? ちょっと、リット!」


「プレーンバーガー入りまーす」


 有無を言わさず注文を通す。


「「「かしこまりました!」」」


 メイド達の連携で、ハンバーガーが形を成していく。


「ちがぁーう!」


 フレデリクの叫びも虚しく、プレーンバーガーが出来上がる。


「一緒のやぁーつ! 前に 食べたことあるやぁーつ!」


 ウィリアムの前には、以前食べたのと同じハンバーガーがあった。 


「あんまりだぁ〜!」


 うるさい。ウィリアムさんと変われ。


 うわぁ〜ん。と、泣き叫ぶフレデリク。


 今度はウィリアムさんが注文をする。


「では、私はミートソースバーガーを一つ」


「かしこまりました」


「ミートソースバーガー入りまーす!」


「「「かしこまりました!」」」


「ちょっ!? なんでさ! 僕の時品切れだったろ!」


 フレデリクが突っかかってくる。


「今食材が来ましたので」


「じゃあ僕も!」


「先程ので品切れに」


「ちくしょー!!」


 馬鹿なやり取りをしながら、接客や調理の確認をして、足りない部分はその都度考え、次に生かすようにする。


 さて、これで明後日からの営業に間に合うな。

 やってみたら意外とすんなり段取りが終わったな。

 違うメニューでも考えるか?


 そんな事を考えていると、思いもよらないことが起こった。


 ざわざわ。


 周りが騒がしい。


 どうやら、いつのまにか屋台の周りに人だかりが出来ていたようだ。


「あの執事服の男が食べているものは何だ?」

「パンか? 何か挟まっているようにも見えるが」

「ていうかメイド?」

「おい、あれ。もしかしたらヴァレリー伯爵の息子じゃないか?」

「美味しそうな匂いがするわ」


 騒ぎはどんどん伝播する。


「黒猫亭出張屋台? 聞いたことないな」

「あれって、ヴァレリー家の家紋だよな。てことはヴァレリー家のお墨付きの屋台なのか?」

「だったら食べてみる価値はあるな」

「でも高いんじゃないか」

「メイドいるしな。貴族の娯楽か?」


 何なんだ一体? 人が人を呼んで、騒ぎが拡散しているぞ。


 ていうか屋台にヴァレリー家の家紋入れるなよ……。


「おい、行ってみようぜ」

「珍しい物が食べれそうだ」

「ちょうど朝の労働前だからな、食べてから行くか」

「いくらなんだろうな……」

「見ろよメイドさん可愛いぜ!」

「キャー執事服の人カッコいい!」


 色々言っているが、まだ開店ではないのだが……。


 だがしかし、これはもしかしたらチャンスなのか?

 まだ営業に不安はあるが、呼び込んでみるか?

 いや、食材が足りないし、ここは撤退するか。


 あー! どうしたらいいんだ!


 悩んでいても始まらない。とりあえず落ち着いてもらおう。


 人だかりの前に出て、鎮静化させようとしたら、フレデリクとイリナに腕を掴まれた。


 何だ? どうしたんだ?


「リット! コレはチャンスだ! 思いもよらないところで客が釣れた!」


 えっ!? まさか営業すんのか?

 食材はどうする!?


「リット様、大丈夫です。私が集めてまいりましょう」


 マジか!?

 でも本当に大丈夫か?


「大丈夫、ウィリアムは仕事が出来るって言っただろ」


「わかった。じゃあウィリアムさん、頼みます」


「リット、私もかき集めてくるわ。ついでに人もね」


 人って、手伝いの方だよな?


 イリナはイタズラっぽい笑みを浮かべてこう言った。


「バカね、お客さんに決まってるでしょ」


 はい。パンク確定。


「大丈夫ですリット様。私達もご協力致します」


 メイドさん達が頷き合う。


 腹をくくるしかないのか……。


「はぁ、こんなこと言いたくないけど。……何のためにこんな事してんのよ」


 はっ!


 衝撃が走る。


 そうだ僕は……。


 ありがとうイリナ。目が覚めたよ。


 そう僕が何のためにこんな事をしているのか。それは………。



 ケモ耳っ娘のためだ!! 



 やぁーって やるぜ!!


 さぁ、アグレッシブに行こうか!



 こうして想定外な事に、予定にはなかった、黒猫亭出張屋台の営業が始まるのだった。



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