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第35話 エヴァの嫉妬

 

 屋台の設営を手伝い始めた僕は、内装を考えることにした。

 はじめは自分が主体になって営業するので、自分好みで内装を決める。調理希望者が出てきたらその都度変えていこう。


 ふと、メイド達の方を見る。

 楽しそうにお喋りしながら作業している。


 くっ、メイドさんの手伝いがしたいが仕方がない。早めに終わらせてティータイムと洒落込もう。


 そんな事を考えていたら、またイリナに尻を蹴られた。


 ひゃん! エッチ!


「何鼻の下伸ばしてんのよ」


 考えている事が顔に出ていただと……。いかんな、気を引き締めなければ。キリッ。


「私がキッチリ見てあげるからサボってメイドさんと遊べるとは思わないことね」


 悪魔かっ!


 的確に考えている事を当てられて、黙って仕事に取り組むことにした。


 終われば問題ないだろう?

 ふふふ、待っててメイドさん達。すぐ行きます!


「早く働け」


 はい。すいません。


 イリナに監視されながらしぶしぶ働く。


「……少しくらい私を見なさいよ。ほんとバカなんだから」


 ん? 今なんか言ったか?


「なんでもないわよ!」


 今日もイリナはプリプリしてるなぁ。

 触らぬ神には何とやらだ、黙って作業を続ける。


 それにしても城下には初めて来たが人が多いな。

 特にこの通りは人の出入りが多い気がする。

 馬車の中から死に物狂いで外を見たがここほどではなかった。


 こんなに良い場所だ。場所代もかかるだろう。ヴァレリー家とルノール商会には感謝だな。


 さて、この場所を選んだのが吉と出るか凶と出るか。


 僕はなるべく良い方向に進めるように最善を尽くすだけだ。


 内装の配置を大体終えて、外側から見てみる。


 うん。屋台の中めっちゃ見られるな、まぁいいか。

 真似されても食文化が少し良くなるし。イリナあたりは怒るかもしれないが。


「終わったの?」


 僕が屋台の外観を見ていると、イリナが声をかけてきた。


「後は食材を入れるだけだね」


「なら明日は実際にこの屋台でハンバーガーってやつを作ってもらうわ。私まだ食べてないし」


 そういえばそうだったな。よしきた。


「楽しみにしてるわ」


 そう言って微笑むと、フレデリクのところに何か報告に行った。

 きっと明日の段取りだろう。明日明後日は実際に誰かをお客さんに見立ててロープレだな。

 仕事内容もメイドさん達教えなきゃだし。


 この日、黒猫亭出張屋台が完成し、後は店を出すまでに営業をどのようにするかを決めるだけとなった。

 明日はそこのところを詰めていこう。


 ちなみにメイドさん達とのティータイムはウィリアムさんが来たことにより、断念せざるを得なくなった。


 もちろん精神的な理由で。



 ―――――――――――――――――――――



 ――その日の夜。



「ただいまぁ」


 城下から黒猫亭に戻り、扉をくぐるといつものように店は満員御礼状態だった。


「おかえり。疲れてるとこ悪いけど営業手伝ってくれる。ライオスがパンクしてるの」


 屋台の設営をして疲れていたが、メインはここなのである。喜んでお手伝いしよう。


 だがその疲れも店の中を見て吹き飛んだ。


 ふふふ、ウチにメイドがいるぞぉ!

 うぉーー!


 ヴァレリー家から手伝いに来ているメイドが黒猫亭で働いている。


 テンションが上がる僕。だがそんなことは微塵も顔にださない。

 クールに行こう。

 それが、モテる秘訣さ。(キリッ)


「父さん手伝うよ」


 なるべく良い声を出して厨房へ入る。

 厨房の中にもメイドさんがいるからだ。

 忙しなく働いていて、スカートがヒラヒラと揺れる。


 たまらん!

 いい匂いがする!

 1日の疲れが吹き飛ぶぜ!


 メイドさんを見ながら注文をさばいていると。


「お兄ちゃん注文!」


 エヴァが不機嫌そうに注文を取ってきた。


 どうした? お客さんに何か言われたのか?


「違うもん! それより注文!」


 頰を膨らませて怒りながら注文を僕に伝える。


 一体何に怒っているんだ?

 女の子は難しいな。


 さぁ、注文を聞こうか。


「一番卓にハンバーグ3皿野菜炒め2皿コンソメスープ4皿、三番卓にロールキャベツ1皿ハンバーグ2皿、五番卓に牛ステーキ5皿ミートソースパスタ5皿フレッシュサラダ5皿唐揚げ3皿、七番卓にポークソテー2皿、カウンター二番にロールキャベツ1皿、カウンター三番に唐揚げ1皿お願い。飲み物はこっちでするから」


「あいよ」


 そう言って片っ端から注文をさばく。


「これお願いします」


「はーい」


 メイドさんに頼んで運んでもらう。


 うん。いいね。


 なんか理想の料理屋だよなこれって。

 これがしばらく続くのかぁ。仕事が楽しくて仕方ないな。むふ。


「お兄ちゃん! 早くして!」


 あっ、ごめんごめん。


 ほんと今日はエヴァの機嫌が悪いな。

 今日一日城下で仕事してたからな、寂しかったのかもしれない。可愛い妹だ。

 よし、寝る前に少し遊んでやるか。



 その日はいつもよりもみんなが疲れていた。初めての経験で気を張っていたのだろう。


 応援に来てくれたメイドも、ぐったりしている。


「甘く見ていました。まさかこんなに忙しいとは」


「昼も大概でしたが、夜はお酒を飲む方が増えてホールの仕事が倍増しました」


「明日からも頑張ります。なのでリット様、私達にも美味しい賄いをお願いします」


 もちろん喜んで。


 メイド達と楽しく談笑している間もエヴァだけはつまらなそうにしていた。

 まずいな。今わかったが、これは嫉妬だな。

 やばい。そう思ったら急に愛おしくなってきた。



 メイド達の迎えが来て、それを見送ってから、寝る前にエヴァの部屋に行ってみた。


「エヴァ起きてるかい」


 ………。


 返事がない。まるで誰もいないようだ。

 だが、中にエヴァが居るのはわかっている。どうしよう?


 エヴァのご機嫌をとる作戦に変えよう。


「エヴァ、今日はキミの顔が見れなくてとても寂しかったんだ。良かったらエヴァの可愛い顔を見せてくれないかな?」


 ガタゴトッ。


 部屋で何かが動く音が聞こえる。

 よし。この調子。


「あーあ、エヴァの顔を見ないと1日の疲れが取れなくてつらいなぁ〜。でも、もう寝ないと。明日も朝から城下に行かないといけないしなぁ。エヴァと会う時間が限られてきちゃうなぁ」


 暗に今会わないと明日も一緒にいる時間が少なくなると伝える。


 ガタガタガタッ!


 中で動く音が大きくなる。


 よし。あとひと押し。


 ここで、エヴァが嫉妬しているであろう案件に触れる。


「エヴァがダメなら明日はメイドさんに癒してもらおう」


 どうだ?


 ………。


 反応は……ない!?


 えっ、うそっ!?


 まずいぞ、選択肢を間違えたか?


 そう思っていると。


 ギィィ。


 部屋のドアがゆっくりと開いていき、中からエヴァが顔を半分だけ覗かせた。


 何それ可愛い!


 エヴァのその愛らしい仕草に心を奪われてしまった。


「……浮気した」


 エヴァがそんな発言をした。


 どこで覚えたんだその言葉……。


「どうゆうことだい?」


 とりあえず聞いてみよう。


「朝早くから出かけてメイドさんとイチャイチャしてたんでしょ?」


 なぜ向こうにもメイドがいたことを知っている!?

 いや、こっちに来たメイドさんに聞いたのか。


「帰ってきてからもメイドさんばっかり見てたし……」


 頰を膨らませながらドアを開ききり、僕の手を掴んでぶんぶんと、振り回す。


 駄々っ子がよくやるやつ。


「ごめんねエヴァ、メイドさんがちょっと珍しくてはしゃいじゃったんだ」


「ふんっ」


 そっぽを向くエヴァ。


 そんなエヴァがたまらなく可愛くて思わず抱きしめる僕。


 たしかに浮気だな。こんなに可愛い妹がいるのに僕って奴は。

 これからはエヴァを1番に考えるよ。次にケモ耳っ娘。次いでメイド。


 うん。そうしよう。

 これで解決。


「エヴァを寂しくさせた代わりに、何かお詫びをさせてくれないかな」


 エヴァは僕の胸に顔を押しつけながら首を縦に振ると、顔を胸から離し、潤んだ瞳の上目使いで僕を見た。


 ズキューン!


 破壊力パない!

 可愛すぎる!


「それじゃあね。今日一日寂しかったから……。一緒に寝よ?」


 はい。喜んで!


「えへへ〜」


 エヴァがいつもの笑顔に戻ってくれた。


 やっぱりエヴァは笑ってたほうが可愛いな。


「もう、お兄ちゃんったら!」


 エヴァは顔を赤くしながら照れて、つい怒ったような口調になっていた。


 そんなエヴァが微笑ましくて、僕も笑顔になっていた。


 エヴァには人を笑顔にする才能があるな。


 兄馬鹿かな?


 なんと言われようが構わない。


 僕はエヴァの笑顔を、これからも守っていくだけだ。


 エヴァが微笑み、僕の手を引いて部屋の中へと招いてくれた。


「じゃあ寝よっか」


 明日も早いしな。


「うん!」


 満面の笑みで僕に抱きつくエヴァ。

 そのまま抱き抱え、ベットへ運ぶ。


 二人でベットに横になり、僕はエヴァが寝るまで、彼女の頭を優しく撫で続けるのだった。


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