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第31話 伯爵とハンバーガー

 

 厨房に案内された僕は、食材の確認を始めた。

 業務用冷蔵庫の中を物色すると事前に言った物が用意されていた。

 フレデリクがちゃんと伝えてくれたようだ。そのほかの食材も使っていいとのことなので、遠慮なく使わせていただく。

 今回は以前に作った試作ではなく、少し凝ったものを作ろうと思う。


 さて作ろうかな。

 フレデリクは伯爵を呼びに行ったことだし。

 仕事をしてから来るらしいので、調理時間は結構ある。


 作り始めようとした瞬間、背後から声をかけられた。


「リット様、お手伝いいたします」


「まだいたんですかウィリアムさん………」


 さっき出てってくれって言ったよな……。


 もう少し強く言うべきだったか、流石に失礼だな。あくまで僕はただの客人だ。ずけずけとモノを言ってはいけないな。


「なら手伝ってもらいましょう」


「なんなりと」


 では、と言いかけて固まる。


「ウィリアムさん離れてください。料理に集中出来ません……」


 ウィリアムはリットを背後から抱きしめていた。

 そっちのけはないとはいえ、男に抱きしめられて冷静ではいられない。


「失礼、あまりにも可愛らしくて」


 僕は男だ! 可愛いとか言わないでくれ。


 はぁ、さっさと作ろう。伯爵がそろそろ食卓に来てしまう。あまり待たせられないからな。

 ウィリアムさんはほっとこう。


「リット様、大丈夫ですか?」


 無視無視。


「リット様、袖が落ちていますよ、まくっていいですか?」


 スルースルー。


「リット様、真剣な顔も素敵でございます」


 シカトシカト。


「リット様のお身体は小さいですねぇ。可愛い、食べてしまいたいです」


 鬱陶しいわ!


 何なんですか!?

 邪魔しないでくださいよ。


「密室空間で可愛い少年と二人きり、正直興奮してしまいました」


 ゾッとするわ! 隅っこにいてください。見てていいから。


「かしこまりました」


 そう言ってウィリアムは厨房の隅に移動した。


 やっと静かになった。視線はひしひし感じるが。


 では、ハンバーガー作りたいと思います。


 今日は先にソース作りから。煮詰める時間が必要だからな。

 それに食材を炒める時間もそこそこかかる。


 作るのはトマトベースのミートソースだ。ハンバーガーに合わないはずがない。


 ニンニクとタマネギとニンジンをみじん切りにして炒めていく(大体20分くらい)。しんなりし始めたら、作ってきた挽肉(自家製)を入れさらに炒める。


 ここにはないものは、全て自分で作って空間収納にしまってきた。


 火が通ったら小麦粉を混ぜ入れて、水、トマトの水煮(自家製)、コンソメスープ(自家製)、ケチャップ(自家製)、果実酒を投入して煮詰めていく。


 ……ウィリアムさんを呼ぶか。


「ウィリアムさん、ソースが煮詰まったら教えてくれます?」


「リット様! かしこまりました!」


 無表情なのに目だけ輝いている。嬉しいんだな。


 さて次は。


 次の作業に移ろうとしたところでフレデリクが伯爵を連れてやってきた。


 直接こっち!? 食卓にいてくれよ。緊張するから……。


「やあリット、美味しそうな匂いがするね」


「ああ、本当にいい香りだ。ウィリアムも手伝っているのか」


 頬を緩ました二人がこちらに来る。正直手とか洗って欲しいがそんな事は言えない。


「すいません。もう少し待っていただけますか?」


「構わないよ。ここで見ていても構わないかな?」


 断れるわけないってわかってるだろうに。


「ええ、もちろんです」


 笑顔でそう応える。


 伯爵に見つめられながら作ることになってしまった。

 緊張するけど、美味しいって言って欲しいからな。


 バンズとパティ(自家製)を焼いていく。


「それは?」


 伯爵が調理内容を質問してくる。


「バンズ、パンと肉を加工したパティを焼いています。バンズはパン屋に頼んでこの形にしてもらいました。パティは肉を細かく刻んで成形したものです」


「あー、すまない調理中に」


 構いませんよ。無言よりはやりやすいですし。


 焼けたバンズにマスタードを塗ってパティを乗せる。

 ここからが試作とは違うぜ!


 パティの上に自家製のマヨネーズを塗る。その上にみじん切りにしたシャキシャキのタマネギを乗せる。


「ウィリアムさんソースはどうですか?」


「問題ありません。行けそうです」


 煮詰まったようだ。あとはそのソースを塩コショウで味を調えて、うん、うまい。


 かけるぜぇ、ソースかけちゃうぜぇ。


 テンションが上がっているが、自分も食べたくて仕方ないのだ。

 おっとヨダレが、じゅるり。


 タマネギの上からミートソースをかける。

 不思議とソースがこぼれないんだよなぁ。うまくできてるよなぁ。


 そしてトマトスライスを乗せ、バンズを被せる。


 出来た!


 某ハンバーガーショップのレシピに似ているが、まぁ異世界だし他に作ってる人いないだろう。


「伯爵、出来上がりました。食卓へ移動しましょう」


「えっ? こんなに美味しそうな匂いがするのにおあずけ…だと……」


 何に戦慄してるんですか……。


「我慢出来ない。ここで食べよう」


 えー、ここ厨房なんだけど、……あとで不敬罪とか言わないだろうな。


「リット大丈夫だよ」


 フレデリクからゴーサイン。


「では伯爵、ハンバーガーでございます。どうぞお召し上がりください」


 僕は伯爵の前にハンバーガーの乗った皿を差し出した。


「いただくよ」


「あっ、食べ方ですが」と、言い切る前に。


「大丈夫、フレデリクからきちんと作法を聞いているよ」


 と言って。両手でハンバーガーを掴んだ。


「伯爵、ソースが垂れると危ないのでナプキンをお使いください」


 マジで火傷するからこれだけは譲れない。


「む、そうか」


 ウィリアムが伯爵にナプキンを渡す。

 どっから出したんだ? 空間収納?


「執事の嗜みでございます」


 変態でも仕事は出来るんだな。フレデリクの言った通りだ。


「では改めて」


 伯爵が口を開きハンバーガーにかぶりつく。


「むほっ!?」


 伯爵の目が驚きにより見開かれる。

 肩を震わせてもう一口。


「う、うまい……」


 恍惚の表情になる伯爵。

 そこからは一心不乱にハンバーガーを食べすすめていった。


 一瞬でハンバーガーを食べ終えた伯爵は、口元をミートソースだらけにしてだらしない表情になっていた。


 威厳のカケラもないな……。


 ウィリアムが伯爵の口元をナプキンで拭う。


 子供か!


 伯爵は以前恍惚の表情を浮かべて放心している。

 気に入ってもらえて光栄です。友人の父親なので少しむずがゆいですが。


「リット! 僕も食べたい!」


 フレデリクがヨダレを垂らして近づいてきた。


 汚いなぁ。ほら、お食べ。


 フレデリクに作っておいたハンバーガーを渡す。


「いただきます!」


 ハンバーガーにかぶりつくフレデリク。かぶりついた後に固まってしまった。


「ってこれ、このあいだと一緒なやつ!」


 チッ、バレたか。


「ひどいよリット! 僕のは! ねぇ!」


 もう成人して子供じゃないんだから我慢しなさい。屋台で食べれるでしょ。


「いやだぁ! 食べるんだぁ!」


 ダダをこねるフレデリクは放っておく。


 ウィリアムさんもすいませんね。また屋台で食べてみてください。


「いえ、構いませんよ。代わりにリット様をいただきますので」


 ウィリアムが距離を詰めてくる。


 ぬぁー! 近寄るな!

 少し優しくしたらこれだよ!


「りっどぉー」


 泣くなよフレデリク鬱陶しいな! 鼻水ふけ! 僕につけるな!


「フレデリク様ズルイです。私も撫で回します」


 違うから! 愛でてるわけじゃないから!


 はっ、僕今変人と変態に挟まれている。なんだこの状況は、混沌とした展開に僕 戦慄。


 伯爵! 助けて!


 必死の呼びかけも虚しく、伯爵は微動だにしなかった。


「リット!」

「リット様」


 フレデリクとウィリアムがリットを押し倒す。


 男二人に押し倒されても嬉しくなーーーーーい!!


 リットの叫びが伯爵邸に響き渡った。


 その悲鳴にも似た叫びを聞いたメイド達が駆けつけた時には、恍惚の表情を浮かべる伯爵と、リットを押し倒すフレデリクとウィリアムがいた。


 後から来たメイド達がどんな事を考えたかは、想像に難くない。


 後日メイドの間で、リットを巡って男同士の争いが起こったと噂になったのは、言うまでもないことだろうか?


 これ以上噂が広がらないようにリットはメイド達を料理で買収するのだった。


「もう絶対に伯爵邸には来ないからなぁ!」


 なんやかんやで、リットは伯爵に気に入られ何度も呼ばれる事になるのだが、それはまた別の話。



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