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第3話 準備して転生

 

 僕は料理を作れればいいわけで、別に魔王を倒したいわけではないのですが?


 そんなこと知ったことかと言うように、あれよあれよと武神、もとい師匠に鍛えられている。ここでは時間が流れないからとやりたい放題だ。数百年たったと言われても不思議ではないほどに鍛え続けられている。


 そろそろやめません?



「だいぶ型になってきたようだな」


「はいっ! ありがとうございます師匠、もう大丈夫です転生しましょう!」


「まだまだぁ!」


 ……何回繰り返したやりとりだろう。




 ▶︎▶︎




 そんなやりとりにもようやく終わりがやってきた。




「まだ教えたりないが主神様がお呼びになられている」


 終わったー! なんだこの清々しい気分は、まるで数年ぶりに入った風呂上がりのような清々しさだ!

 例えが汚いか。



「お久しぶりです神様」


「ほんの瞬きの間じゃったよ」


 神様基準で言われても困る。

 僕にとっては永遠とも呼べる時間であった。


 ハハハハッ、じゃあないんですよ神様! 神界? 地獄ですよここは……。


「うむ、仕上がっておるようじゃの」


「及第点といったところでしょう。まだまだです」


「おぬしは厳しいの」


 勘弁してくれ。

 頰が引きつった。


「きみが鍛えている間に色々と手続きしてきたよ」


「ありがとうございます」


「これで君を向こうに送ることが出来そうじゃ」


 ようやく異世界に転生できる。長かった。時間という概念がない場所だが本当に長かった。


「その前に君が魔法を使えない理由を話しておこうかのぅ」


 そういえば理由があるとか言っていたな。


「君をこちらに呼んだ時に、この場所にとどまれるように儂の加護を与えたのが原因なのじゃ」


「それは悪いものなのですか?」


 横から思い切り師匠に殴られた。


「きさまこの馬鹿弟子がぁ!」


 ぶっ飛ぶ僕、神様は僕の言葉と師匠の行動で苦笑いしていた。


「主神様の加護だぞ! 人には過ぎたものということを知れ!」


 知るかぁ! 勝手に渡されてるんだぞ!


「この加護は外すことは出来ないのですか?」


 また師匠の拳が飛んできた。痛い。


「アクセサリーじゃあないんだ! 付けたり外したり出来るわけがあるかぁ!」


 ……謝るから許して。


「すまんのぅ。悪いものではもちろんない。加護の容量が大きくて魔法が使えなくなっておるのじゃ」


「つまり魔法は使えないが加護は使えると」


「簡単に言うとそうなる」


「加護があると何が出来るのですか?」


 疑問をぶつけてみた。

 師匠は、うん。大丈夫みたいだ。


「うむ。儂の加護で出来ることは、破壊と創造じゃ」


 破壊と創造? なんだか凄そうだな。てか神様はなんの神様なのだろう?師匠は武神、武の神だけど、神様は主神様って言われるくらいだからな。


「ん、儂か? 儂は言った通り破壊と創造の神じゃよ。全ての神々と世界を創りその全てを破壊できる神じゃ」


 一番偉い人だったぁー。

 薄々気づいてたけど。ビッグなお方だったのね。



「それで加護で何が出来るかじゃが。左手を出してみぃ」


 神様の前に左手を出す。


「何でもいいから頭で物を想像して、出ろと念じてみなさい」


 言われるがままにしてみる。頭で包丁を思い浮かべる。すると。


 ポンっと左手に包丁が現れた。


 おおっ! これは凄い。しかも見たこともないくらい素晴らしい業物だ。


「次は右手じゃの。その包丁を右手で握って、滅べとか消えろとかそう言う類のことを念じるといい」


 物騒すぎるだろ。まぁやるけど。


 右手に集中する。消えろ!

 そう念じると右手の包丁が跡形もなく消えた。

 こわっ! もしかして何でも消せるのか?


「それは無理じゃの。右手も左手も同じで、右手は生物には効果が無いし、左手も生物を生み出すことは出来ない……はずじゃ」


 煮え切らない言い方をしないでください。

 そこまで万能だったら怖くて逆に要らない……。


 まぁ、とりあえずどんな加護かはわかった。

 破壊の右手に、創造の左手か……。

 力に溺れないようにしないとな。



「それともう一つ、この種を君にあげよう」


「ありがとうございます。何の種ですか?」


「魔法が使えるようになる種じゃ」


 ひったくるように奪い、間髪入れずに飲んだ。


「こらぁ!」


 ぐふぅ!

 師匠に殴られた。


「よいよい」


 なだめる神様。

 僕が悪いですが、遅いです……。


「ただし使えると言っても限定的にじゃ」


 限定的と言うと、どう言った場合に限られるのだろう? 料理中だけとか?


「その種は今、君の魂と溶け合って一つになっている。加護も然りじゃ」


 ほうほう、つまりどう言うことなんだ?


「つまり魂も加護も種も、全て一つに統合されている。さっきのタネの効果が加護に追加されるわけじゃな。そうなると左手の能力で物を創造した時、造った物に魔法を付与することができるようになっておる。と言うわけじゃ」


 よくわからないけどわかりました。つまり加護がパワーアップしたと言う事ですね。


「その通りじゃ」


 やってみよう。まず左手で包丁を出して……ん?

 うん、なるほど。


「……神様、まず魔法がわかりません」


 魔法の講義が必要なようだ。


 魔法の講義が必要な僕は、神様に聞いてみた。


「魔法もイメージでだいたい何とかなるぞい」


 うわぁ、適当だなぁ。

 ビシィッ! あぅ! ローキック⁉︎

 新パターンかっ!

 師匠もっと優しく! 痛いんだから。


 とりあえずイメージしてやってみる。オーソドックスに炎かな、焼死した身では皮肉でしかないが。

 包丁に炎を纏わせるイメージだ。

 イメージ、イメージ、イメージ。


 スゥっと、手の平に包丁が現れた。特に変わった所はない。炎を纏うイメージをしてみる。


 ボゥッ! と炎が燃え上がり、包丁が炎を纏った。

 おおっ! カッコいい!包丁なのがシュールだけど。


 何度か繰り返してコツを掴んだ。

 他にも水や風、電気なども包丁に纏わせることができた。包丁なのはイメージしやすいから。


「大丈夫そうじゃのう」


「はいっ! 魔法が使えて感激です! ありがとうございます」


 僕は眼を輝かせて神様に感謝した。


「魔法や加護は、当人の工夫次第で色々と応用できるからの。また試してみなさい」


「分かりました」


「おっと、君の加護について大切な事を忘れていた」


 おや? 何だろう?


「もう一度加護で何か作ってもらえるかの?」


 理由は分からないが左手に集中してフライパンを作った。

 うむ。焦げ付き防止機能は魔法で付与出来るだろうか?

 欲が出たが後回しだ。神様に作ったフライパンを見せる。


「作りましたが、大切な事とは?」


「うむ、今作って貰ったが、これには魔力を消費する。加護も魔法の延長と考えてくれ」


「魔法の上だな、上位にあたるものが加護となる」


 そう師匠が付け足した。


 なるほど、大変なものをいただきました。


「それでなのじゃが、作った物は魔力を源に創り出されている。作る物の種類、大きさ、重さなどで消費する魔力が増減するのじゃ」


 ここまでいいかの? と、神様は確認して。


「もう一つ、形あるものはいつかは壊れる」


 急に哲学?


 神様は一つ咳払いをして話を続けた。


「君の加護は絶対ではないということじゃ。ほれ、このフライパンの時を進めるぞい」


 はい? ここは時の流れが……。


 ぼろっ。


「フライパンが朽ちた!?」


 はやっ! 朽ちるの早いよ!

 もっと頑張ろうよ!


「このように時が経てば朽ち果てる。君の加護で無から作った物はすぐに朽ちてしまうだろう」


 やっぱりそこまで完璧じゃないか、でも十分ですよ神様。


「そう思ってくれるならありがたい。君の加護が君に合わせて成長していけば時間も伸びるはずじゃ。」


 加護って成長するの?


「君と一緒に成長していくだろう。さっき食べた種のもう一つの効果じゃよ」


 神様、そっちの方が大切なのでは?


 髭をさすりながら笑う神様に呆れながらも、僕はかなり転生を楽しみにしていた。


 早く色々試したい!


「魔法も良いが、武術も忘れるなよ」


 師匠が釘を刺してくる。

 大丈夫です師匠、忘れたくても忘れられない。あの地獄の時間は。



「ふぅ、これで君を転生させる準備がととのったのう。儂にまだ何か聞きたいことがあるかの?」


「いえ、大丈夫です神様、準備万端です」


 うん、早くしないと師匠がまた修行を始めかねない。善は急げだ。

 あっ、師匠素振りを始めないでください。僕もう行くんで、ははっ、拗ねないでくださいよ。死んだらまた会えます。

 縁起でもなかったですね。師匠に鍛えて貰えたので、大抵のことでは死にませんよ。だから早く寿命がくれば良いのにとか言わない。


「では神様、師匠、本当にお世話になりました。この御恩は決して忘れません」


 だから師匠泣かないでください。何故か僕も涙が止まらないんです。何故ですかね?


 神様、また僕の料理を食べに来てくださいね。僕が死ぬまでに一回でもいいので、絶対ですよ。約束しましたからね。


 涙を拭う。

 旅立ちには涙よりも笑顔が合ってる。

 二人とも笑顔で僕を見ている。師匠は涙と鼻水で顔がグシャグシャだが頑張って笑顔を見せている。


 神様が僕に触れる。

 触れた瞬間、僕の身体を光が包んだ。


 転生か、いったいどんな場所に生まれ変わるのだろう。

 不安もあるが、正直なところ期待が大きい。

 どんな世界でも、僕は僕らしく生きていこう。


 そう心に誓った。





 それでは神様、師匠。





「行ってきます」







 ――――――――――――――――――――





























 暗い、何も見えない、これは恐怖だ。ここはどこだ?

 あれ身体が動かないぞ? どうゆう事だ?

 パニック。  


「うぇ〜んうぇ〜ん!」


 赤ん坊の泣き声? ふむ、近い。

 赤ん坊の泣き声は、徐々に大きくなる。

 親は何をしているんだ。全く。


 泣き声はさらに大きくなっていく。


「ライオス! ごめんリットが泣いてる、あやして来て!」

「ルーティ! 今俺も手が離せねぇよ! やっぱり人を雇おう!」

「ウチにそんな余裕あるわけないでしょ! 私が行くわよ!」


 おいおい子供が家庭不和の原因になっているじゃないか。子供を産む時はちゃんと計画的にだなぁ。


 ざわざわ。喧騒が聞こえる。


 それにしても騒がしいな、人が大勢いる感じがするぞ。

 などと思っていると、突然浮遊感が身体を襲う。


 うわぁ! なっ、なんだぁ!?


「ごめんねリット遅くなっちゃって、お乳かな? それともオシメかな〜?」


 この浮遊感、今僕は抱き上げられている。

 そして気づいてしまった。



 赤ん坊、僕じゃね。




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