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第29話 ヴァレリー伯爵邸

特殊な方が登場します。

 

 ある日の昼時、僕は黒猫亭にはいなかった。


 忙しい昼時に店に居ないのには理由があった。

 先日ヴァレリー伯爵からの招待状が届いたのだ。

 内容は転生ゲームの生産とハンバーガーの屋台についてだった。

 その説明のために僕はヴァレリー伯の屋敷に向かっている。


 馬車に揺られながら風を感じる……訳ではなく、僕は今酔いに酔っていた。


 うぷぅ、気持ち悪い……。

 馬車ってこんなに揺れるのか、前世の車が恋しいな。

 わがままも言ってられないな。とりあえず深呼吸。

 すぅー、はー、すぅー、うおぇ……。

 無理吐く。リット吐いちゃう。


「リット様、大丈夫でございますか?」


 ヴァレリー家の家令、リチャードさんが心配そうに尋ねてきた。

 黒髪に白髪混じりの壮年の男性だ。渋い。


「だいじょろろろろろろぉぅ……」


 リバース。

 申し訳ない……。



 ――――――――――



 その後何とか無事? にヴァレリー家の屋敷に着いた。


 うおー! でっけー!


 屋敷の大きさに感動していると、リチャードさんが補足してきた。


「当家の屋敷面積は王都でも一二を争うほどでございます」


 マジかよ、フレデリクすげー人の子供だったんだな。

 でもここまで大きくて侯爵とか公爵に睨まれないのか? 屋敷の大きさは権力に比例するんだろう?


「弱み…ゴホンゴホンッ、上位の貴族とも友好関係を築いておりますからな」


 あんた今何言いかけた?


 やっぱりフレデリクの父ちゃんだな。怖いから敵に回さないように気をつけて行動しよう。


 そう心に決めるリットだった。


 リチャードさんの案内で屋敷内に入る。


 うわぁ、門から玄関までが長い。家から出るのも一苦労だな。


 玄関までの長い距離にうんざりしながら歩き始めた。


「リット様は貴族との会談は初めてなのですか?」


 当たり前だろ。ただの宿屋の息子だぞ。


「はじめてで緊張しています」


 とりあえず本音言っとこう。会話の間が持たない。


「会話が持たないとお考えでしょう」


 こわい! エスパーなの? もしくは読心の加護?


「私わたくしそのような能力はございません。強いて言うなら感、でしょうか」


 にしてもすげーよ。


 その後もリチャードさんの巧みな話術により、会話が途切れることはなかった。

 流石一流貴族の使用人だ。


 ようやく玄関にたどり着き、荘厳な扉をヴァレリー家の私兵が開いてくれる。


 中に入り目の前の光景に驚いた。


 中はとても広いホールのような場所だった。

 赤い絨毯が階段の上に続いている。

 正面の壁にはよく分からない魔物の剥製。

 天井には煌めくシャンデリア。


 そして一番驚いたことがこれだ。


「ようこそ。リット・アルジェント様」


 リチャードさんよりもかなり若い家令が出迎えてくれた。大人数のメイドとともに。


『ようこそいらっしゃいました』


 メイドたちの一糸乱れぬ挨拶で背筋がピンと張りつめた。


 メ、メイドがいる。マジで貴族っぽい。


 リットは、はじめて見るメイドに目を輝かせていた。


 メイド服マジ最高。エヴァに着せたい。むふ。


 リットがニヤケていると若い家令に声をかけられた。


「伯爵がお待ちです。こちらへ」


 リチャードさんとはここで別れ。ここからは若い家令の人について行く。


「紹介が遅れました。私わたくしウィリアムと申します。先ほどまで案内していたリチャードの息子でございます」


 へぇ、リチャードさんの息子さんか、似て…ないな。


 リチャードさんが優しそうなおじ様なのに対して、とてもクールで真面目そうな印象だった。


 黒髪の長身で知的なメガネをかけている。

 口元は固く閉ざされ、切れ長の瞳が冷たく感じる。


 ヤバイとっつきにくい………。


「今、少しとっつきにくい奴と思われましたね」


 おいっ、あんたもか、あんたもエスパーなのか。


「こう見えて結構ユーモアのある男ですよ」


 いや初対面だし。緊張をほぐすためにいってくれてるんだろうな

 ただ無表情すぎるだろ。笑えよ。


「無愛想で申し訳ありません」


 だから心を読まないでくれ……。


 そのまま終始無言で広い屋敷内の廊下を歩いて行く。一際大きなドアの前に着くとウィリアムさんの瞳が僕を見据えた。


「リット様、こちらに伯爵がお待ちです。中にはフレデリク様もおいででしょう」


 フレデリクもいるのか、良かった。これで少しだけ安心だな。困ったら助けを求めよう。


「伯爵は普通の貴族とは違い寛容な方ですが、あまり失礼のないようにお願いします。もし何かあれば……」


 ご、ごくり。何かあれば……?


「あなたを裸にひん剥いて、特殊な男性集団の中に放り込みます」


 それはイヤー! 何特殊って!? そっち? そっちの方々なの!?


「冗談です。緊張はほぐれましたか?」


 変な緊張のほぐし方すんじゃねー!

 あんた無表情だから無駄にこわいんだよ!


「緊張はほぐれたようですね。私の冗談もなかなかでしょう」


 本当にリチャードさんの息子さんなのか? コミュニケーション能力の差が激しいぞ。

 でも見ようによっては努力していて健気に見えなくもない。


 もしかしたらヴァレリー伯の屋敷にいる使用人はみんな変人かもしれないな。フレデリクも変だし。


 長い目で見よう。



「では入りますよ」


 ウィリアムがドアノッカーを叩く。

 すると中から。


「入りたまえ」


 威厳のある声が聞こえた。少なくとも僕はこの時そう聞こえた。


 ドアを開けてもらい中へと足を踏み入れる。


 部屋の中にはフレデリクが居た。笑顔で手を振っている。

 緊張感のカケラもない。


 そして奥の方へ視線をやると、そこには金髪をオールバックにしたナイスミドルが椅子に腰掛けていた。

 この方がヴァレリー伯爵その人なのだろう。


 意外と若いな、四十過ぎと聞いていたが、これなら三十と言われてもわからない。



 伯爵の前の机には雑多に書類が積まれている。どうやらここは執務室のようだ。

 僕、入って良かったのかな?


 視線を彷徨わせていると前方から声をかけられた。


「よく来てくれた。私がヴァレリー家当主、クリストフ・ヴァレリーだ。歓迎しよう小さな料理人、リット・アルジェント」


 偉い人に名前が知られている!? なんか鳥肌が……。


 僕も挨拶するべきなのか?

 確か向こうが促すまで喋っちゃいけないんだよな。

 タイミング取りづらいな。


「リット、喋って大丈夫だよ。自己紹介して」


 フレデリクが助けてくれた。

 君のことを今以上に頼もしく感じたことはない。ハンバーガーの新作作ってあげちゃう。


「はっ! お初にお目にかかります。宿屋、黒猫亭のライオス、ルーティが子、リットと申します」


 ふあー! 緊張するぅ。大丈夫か? 今の挨拶。


「ああ、よろしく」


 伯爵がそう言って立ち上がった。

 こちらへと歩いてくる。

 後ずさりたい衝動に駆られたが何故か後ろでウィリアムが支えている。

 背中を撫で回される。


 ゾクゾクッ!?


 何押さえてんのこの人!? それに触り方が怪しいぞ!

 はっ! まさか特殊な男性!?


 戦慄していると伯爵が手を伸ばしてきた。


 あんたもかっ!

 くそっ! 僕の貞操が!


 ごめん。父さん母さん。僕は汚されてしまいます。どうか優しく迎えてください。

 エヴァ、君に会いたい。


「リット、何ボーッとしてるのさ。握手だよ握手」


 えっ、あー、そうだよね。はははっ。


 僕は伯爵の手をとりガッチリと握手を交わした。


 その間も背中に違和感が……。


 うん。いい加減撫で回すのやめてもらっていいですかウィリアムさん。


「失礼。緊張していると思いましたので」


 やり方があるだろ……。


「リットくん、早速で悪いが商品の説明をお願いしてもいいかな?」


「はい。もちろんです」


 僕は伯爵相手に商品の説明を始めるのだった。


 何事もなく終わりますように。




 転生ゲームの方の説明は滞りなく終えることが出来た。


 だが、説明が終わるまでウィリアムさんが終始僕の身体を撫で回していた。


「……はぁ、たまりません」


 うん。あんた黒だ。


 光の失せた目で、ウィリアムを見つめるリットであった。



変態や。

初めて見る方はそう思うでしょう。

えぇ、変態です。

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