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第22話 ケモ耳っ娘を求めて

 

 転生して宿屋の息子になれたのは幸運だったと思う。もしかしたら神様が気を利かせて、料理が作れる環境に行けるようにしてくれたのかもしれない。もしそうだとしたら感謝してもし尽くせない。


 神様ありがとうございます。


 さて、転生してからそれなりに歳月が流れていったが、この世界にも慣れてきた。


 神様に説明された通り、この世界は剣と魔法のファンタジー世界と言うのがしっくりくるだろう。


 どうやら定番の魔王や勇者、ドラゴンや魔物、依頼を受けて魔物を狩ったり、要人の護衛などをする冒険者達がいるようだ。


 他にも王族や貴族、商人や奴隷、それに様々な種族の亜人がいる。



 だがしかし、未だにケモ耳っ娘には会えていない。

 獣人のおっさん冒険者はよく店に来るというのに。


 十年以上だぞ! 流石におかしい。

 ウチは黒猫亭なのになぜ猫耳っ娘がこないんだ。

 犬耳でも可。


 何か理由があるのかもしれない。よし、聞いてみよう。


「父さん聞きたいことがあるんだけれど」


 僕は父さんに聞いてみることにした。仕込中申し訳ない。


「どうしたリット? 新作のことか?」


「いや違うよ。うちって獣人のお客さんもよく来るよね」


「あぁそうだな。うちは別段気にしてないからな。差別している奴もいるが、もしかしておまえ差別意識でもあるのか?」


 険しい顔で問うライオスに。


「違うよ!」


 慌てて弁明する僕。


 この世界でも、前の世界でも差別は存在する。


 中でも多いのが、人間が亜人種を差別するパターンである。


 悲しいことに、人間は傲慢な生き物らしい。

 亜人種とカテゴライズしている段階で差別だと思うのだが、やはり見た目は違うので、名称はあった方がわかりやすいのだろう。


 今でこそ人間と亜人種である魔人族でしか戦争はしていないが、昔は様々な種族が入り乱れて争いが行われていたようだ。



「本当に違うんだよ。むしろ好きだよ!」


「じゃあ聞きたいことって何だ?」


「いや男の獣人族はよく見るけど、女の人は見たことがないんだよ」


「あーなるほどなぁ。そういえばあまり見たことがないな。というかどの種族の女も、客として来る数は少ないな」


 うちが冒険者ばかり集まる宿屋になっているからだろうか?


「それもあるな。だが全く来ないわけじゃあないだろう」


「そうだけど。本当に女の獣人さん来ないよねぇ」


 そう言うとライオスはニヤニヤしながら、リットをからかった。


「リットの趣味が少しわかったな。このマセガキめ」


「……悪いかよ」


 リットは顔を赤くして反論した。




「まぁ冗談は置いといて、リットには女の客が少ない理由を教えてもいいだろう。おまえは賢いし、しっかりしてるからな」


「急に褒めてはぐらかしてもダメだよ」


「そういうとこは、まだまだ子供だな。じゃあちょっと真面目な話するぞー」


 僕はそう言われて身構えた。

 バッチコーイ!


「なんだそりゃ? まぁいいか。おまえが生まれる前に、この辺りで奴隷商が出入りするようになったんだ」


「奴隷商が? 見たことないけど」


「もう居ないからな」


「じゃあなんでケモ耳っ娘は来ないのさ」


「おまえもう隠すつもりもないな……」


 ライオスは苦笑いしながらも話をつづける。


「居なくなったって言っても、居たっていう事実はかわらねぇさ。おまえだって元々奴隷商がいたって場所にエヴァを連れて行けるか?」


 うーむ。無理だなエヴァをそんな場所には連れていけない。


「なん年前に居なくなったの?」


「おまえが産まれて間も無くだな。居た期間は短かったが、その間に悪どいことをやっていたらしい。実際に奴隷商が来てから行方知れずになった奴が増えたんだ。亜人種、それも特に獣人がな」


 奴隷で特に多いのが獣人だ。理由は安さと体力と力だ。それに獣人の女性はエルフと同じくらい美人が多いらしい。以下略。


 なるほど知らないわけだ。だが居た期間が短いのにここまで影響があるとは、それ程に悪いことをしてきたんだな。


「普通の奴隷商は許可を得て営業するんだが、許可もなく貴族に奴隷を売っていたらしいからな。それに奴隷をここいらから誘拐して売ってたんだ。治安が悪くなって、その頃は商売あがったりだったな。」


 そうだったのか、誘拐されなくて良かった。


「流石に赤ん坊は誘拐しないな。育てるのが大変だろう。奴隷は体力があって力が強い奴が人気なのさ。あとはまぁあれだ、……おまえにはまだ早い」


「大体わかるから濁さなくてもいーよ」


「そっ、そうか、てかおまえはどこでそんな知識を……」


「え〜と、冒険者さん達から」


「今度ルーティにシメてもらおう」



 やばっ、当店ご利用の冒険者の皆様、苦し紛れに言った一言で地獄を見せることになりそうです。すいません。




 ―――――――――――――――――――――




 ケモ耳っ娘に来てもらうには、この店ひいては、この区画のイメージアップをしないといけないことが判明した。


 黒猫亭のイメージアップは、料理や接客の質の向上、それにエヴァの可愛さで何とかなるが、この区画全域となると難しくなって来る。


 いや、エヴァの可愛さがあればいけるのか……最終手段に取っておこう。


 僕一人で出来ることなんてたかが知れている。思いつくことなんてゴミ拾いぐらいだしな。

 それに僕だけが頑張ったところで意味はないだろう。

 人を動かせる大きな後ろ盾が必要だ。


 そう思っていると『カランコロン』と、店の入り口が開きベルが鳴った。


 まだ昼の営業まで時間があるが、朝出かけた冒険者の宿泊客が戻って来たのだろうか?


 視線を開いた入り口に向けると、そこには一人の少女が立っていた。


 明るく茶色い髪のショートカットが、活発で勝気な印象を与える、リットと同じくらいの歳の女の子。


「リット居るかしら? 私が来てあげたわよ!」


 誰だよっ!と、つっこもうかとも思ったが、知っている顔だったので、父との会話を中断して席に案内する。


「いらっしゃいイリナの嬢ちゃん」

「まだお昼には早いよイリナ」


 彼女の名前はイリナ・ルノール。

 この国有数の大商会、ルノール商会の会長の娘だ。


 イリナは髪をかきあげながらリットを睨む。


「何? 文句あるわけ?」


 ないです。はい。


「ないなら注文よ。とりあえず美味しいもの」


 あの〜、もうちょっと具体的に……。


「お客様が求める物を瞬時に察するのも、料理人の仕事の内よ」


 んな無茶な……。

 だがイリナの無茶振りにも慣れたものだ。


 彼女がはじめてここに訪れたのは五年前。父親に連れられて、市場調査に来ている時だった。

 イリナに料理を作って、気に入られて以来、頻繁に足を運んでくれている。

 遠いのにありがたいことだ。家の場所知らないけど。ちなみに父親のオーランドさんも時々来てくれている。


 そんなこんなで腐れ縁、これって俗に言う幼馴染というやつなのだろうか?

 注文を聞きながらそんなことを考える。



 さて、憎たらしい幼馴染?に料理を作ってあげる。

 これが逆なら萌えるシチュエーションだ。

 イリナには期待……出来ないか。



 今日は何にしよう。


 そういえば試作で唐揚げ作ろうと思って、タレに鶏肉漬け込んでたな。もう染みたかな?


 揚げてみよう。



 手際よく鶏肉に、片栗粉と薄力粉をまぶして、油の中に投入する。


 ジュー、パチパチ……。


 そろそろかな。


 菜箸で唐揚げを鍋の網の上に乗せていく。

 一つとって切れ目を入れる。

 よし火は通ってるな。


 確認して、用意してあったキャベツの千切りとプチトマトが乗った皿に盛り付けていく。


 ふと視線を感じると、ライオスとイリナが興味深そうに見ていた。


 イリナいつのまにカウンターまで来てたんだ?


「二人ともどうしたの?」


「いや、いつもながら変なもん作ってるなと」


 イリナも頷いている。

 変なものとは失礼な。あげないぞ。


「鳥の唐揚げだよ」


「「からあげ?」」


 なるほど、この世界には食べ物を揚げるという調理法がないのか。今まで作らなかったからな。大量に油使うし。


 できた唐揚げを、父さんにもいくつかあげて、イリナが座っていた場所に持っていく。

 慌てて席に戻ったイリナは、期待の眼差しで唐揚げを見ている。


「食べてもいいかしら?」


「召し上がれ」


 そう言うと、フォークで唐揚げを刺しゆっくりと口に運んでいく。小さい口に大きな唐揚げを頬張る姿はとても微笑ましい。


「はふはふっ。りっふぉおっひくてくひにはいりひらないおぉ。(リット大っきくて口に入りきらないよ)

 ふぉれに、とっってもあふいの(それに、とっても熱いの)」


 口にものを入れながら喋るんじゃない。あと、わざとじゃないだろうが、誤解を招きそうな言い方をするな。

 味の感想を言いなさい味の。


「もぐもぐ、ごっくん、ふぅまぁまぁね……」


 嘘つけ顔がニヤついてるぞ。美味かったんだろ。


 皿から一つ唐揚げをつまむ。


「ちょっと! 私のよ!」


 ふむ、もう少し味が濃くてもいけるか、うちは冒険者の客が多いからな、味付けは濃い方が喜ばれるし。


 イリナの隣に座り、もう一ついただく。

 実は僕の大好物。


「あー!」


「いけるじゃないか、嘘は良くないよ」


「むぅ」


 頬を膨らませるイリナ。

 少しかわいいと思ってしまったのは内緒だ。



「そういえばリット、おじさまと何か話していたようだけれど? 何かあったのかしら?」


「ああ、まぁ大した話じゃないよ。この辺りの治安を良くして、と言うよりは信用を取り戻して、活気のある場所にしたいんだ」


 ケモ耳っ娘の為に。


「別にそこまで治安が悪いわけじゃないでしょ。あぁ乱暴な冒険者もいるだろうしねぇ」


 やめろよ。うちは冒険者達から収入を得ているようなものなんだぞ。まぁ乱暴な奴はいるけど。


「違う違う。昔ここら辺に奴隷商がいたって話」


「なるほどね。それならパパも考えてるみたいよ。この区画の担当者はパパの部下だし」


 えっ? 考えてたの?

 それじゃあ問題解決?


「まぁ少しずつは良くなってくるんじゃないの? あと十年以上かかるとは言ってたけど」


 ん? 十年以上だって?


 なるほどなるほど、十年待てばケモ耳っ娘がこの辺りに住み始めるかもしれないんだな。

 そうかそうか。


 って!そんなに待てるかぁー!!



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