表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/54

第21話 ロールキャベツ

 

 寒い日が続く。そんな時は温かいものが食べたくなる。


 真理である。





「エヴァ何か食べたいものはあるかい?」


 エヴァに聞いてみよう。あっ、温かいのがいいな。


「えーとねー。むうー」


 腕を組んで難しい顔をするエヴァ。


 そんな顔も可愛いなんて、僕の妹はどんな顔でも最高だ。


「お、お肉……」


 悩んだ末にエヴァの出した答えは漠然としていた。


 うん。良いんだよ。考えることが成長に繋がるんだ。


 さて、どうしよう。


 あぁ、そういえばフレデリクがハンバーグの新作を作ってくれって言ってたな。

 ハンバーグか。ひねりがないな。


 うーん……。


「お兄ちゃん野菜も食べたいなぁ……」


 エヴァが気を使って更なる案を出してくれた。

 うん。野菜か。

 またもや漠然。


 肉、野菜、ハンバーグ……。


 頭でメニューを考える。


 はっ! あるじゃないか。

 肉と野菜を使って、ハンバーグの新作にもなる料理が!



 そう。ロールキャベツだ。


 それにまだ寒い日が続くしなぁ。この季節にはぴったりじゃないか。


 そうと決まればロールキャベツを作ろう。


 だがロールキャベツを作るのも一手間かけなければならない。


 エヴァの笑顔のためでもある頑張ろう。

 エヴァが美味しそうにロールキャベツを食べているのを想像し、モチベーションを高める。





 まずロールキャベツを作るために、コンソメスープを作ろう。


 コンソメスープを作るのはとても手間がかかる。

 半日はかかるだろう。


「エヴァすまない。夜の営業には美味いものを賄いで食べさせてやるからな」


「うん! 楽しみにしてるね!」


 満面の笑みで答えてくれた。

 だが、その笑顔の上を見てやる!


 リットは燃えていた。

 全てはエヴァの笑顔を見るために。



 さあ、極上のスープを作ろうじゃないか。


 まずはブイヨンを作る。


 ブイヨンは、脂肪分の少ない牛すね肉、牛すじ肉、鶏ガラや野菜を水と一緒に煮込む。


 ローリエやタイムなどの香草を入れるのもいい。

 ニンニク、塩コショウなども忘れずに。


 煮込んでいるとアクが出るので、こまめにアクを取る。


 ふはははは! アクよ消えるがいい。世界の破壊者!


 加護の無駄使い、ここに極まれり。



 煮込む時間は三時間程度だろうか。長い。


 だが弱火でじっくりと煮込むのが、透明感のあるブイヨンの作り方なのである。


 煮込み終わったら、それを濾すとブイヨンが出来る。



 一区切りだ。



 長いぞ! 前世で僕はこんな事を新人の頃していたのか!

 まぁ、最近ではたまにしているが、やはり人手がもう少し欲しいところである。


 さぁ、気を取り直していよいよコンソメ作りだ。


 牛の赤身肉、玉ねぎ、ニンジン、トマトをみじん切りにしていく。


 それを鍋に入れて卵白、塩コショウを加えてよく混ぜる。

 しっかり混ぜ合わせないとアクが多くなるので注意。


 混ぜ合わせたものに、作っておいたブイヨンを少しずつ加えながら混ぜる。


 強火で煮始める。沸騰しないところで弱火に切り替える。


 卵白がアクを固め始めたら、鍋の中央に穴を開ける。


 穴を開けるのは煮立たせないため。そうするとスープがキレイに透きとおる


 穴から蒸気を逃しスープが透きとおり始めたら火を止める。


 煮込む時間は二時間ぐらいかかるだろう。


 あとはそれを濾して完成だ。


 様々な食材の旨味が詰まった極上のスープ。



 ぐはぁー! な、長かった。



 コンソメ要員が必要だな。



「リット出来たのか?」


「やっとね」


 そばで仕込みをしていたライオスが話しかけてくる。


「毎度手間のかかることだ」


 ごめんね。仕込みあんまり手伝えなくて。


「気にするな。今日の夜の営業で出すのか?」


「あー、他の料理に使うベースだよ」


 スープ単品でもかなりいいが。その先を見よう。



「何を作るんだ?」


「ロールキャベツだよ」


 ライオスは首を傾げて、頭に?が浮かんでいる。


「簡単に言うとハンバーグのタネをキャベツで包んで煮込んだものだよ」


 ライオスがポンッと、手を叩く。


 わかってくれたようだ。


「手伝おう」


 ありがたい。持つべきものは父親だ。


「わたしもお手伝いするっ!」



 エヴァが両手を広げて厨房に突撃してきた。

 こら。厨房に入る時は手を洗いなさい。


 はーい。と、手を洗いに行くエヴァ。


 準備しますか。


 リットは腕まくりをしてロールキャベツの材料を出していく。


 ライオスもリットに聞いて材料を出す。


「手洗ってきたよー」


 エヴァが戻ってきたようだ。


 さあ、始めようか。


 こうしてリット達は、ロールキャベツ作りを始めるのだった。




 ―――――――――――――――――――――――



 ロールキャベツを、エヴァと父さんと一緒に作ることになった。


 そろそろ営業時間になりそうなので、お試しで店に出してみたいとも思う。


 さあ、急いで作ろう。


 父さん材料準備できた?


「大丈夫だ」


 頼もしい。


 エヴァも大丈夫かい?


「がってん!」


 親指を立ててサムズアップするエヴァ。


 うん。店に来る冒険者にエヴァに変な言葉を教えないよう注意しておこう。


 よし、始めよう。


 二人に指示を出して作業してもらう。


「父さんはキャベツの葉をちぎって、芯を薄く切っておいて、出来たら柔らかくなるまで湯煎してね」


 ライオスは頷いて作業をはじめる。


「エヴァは少し待っててね」


「がってんしょうちのすけ!」


 エヴァは、拳を握って力強く頷いた。


 不覚にもそんなエヴァも可愛いと思ってしまった。


 ふぅ、何だろう。可愛い妹が江戸っ子言葉を使うと、かなり萌える。


 僕だけか? あっ父さんも頷いてる。

 同士よ。


 そんなやりとりをしつつ、下ごしらえを進める。


 豚肉と牛肉を細かく切り合挽肉ににしていく。

 玉ねぎ人参を同様に細かくみじん切りにする。

 ボウルを取り出し食材を入れる。

 さらに、パン粉、牛乳、塩コショウを入れて混ぜる。


 さあ、エヴァ出番だよ。


「どうするの?」


「これを綺麗な手で混ぜてもらえるかな」


「りょ」


 こら、ちゃんと返事なさい。JKか。


「はーい」


 エヴァがロールキャベツのタネを混ぜている間に、父さんを見る。


 ん?キャベツ もう茹で上がってるな。冷ましといて。


「あいよ」


 短い返事をして、他の仕込みを始めるライオス。


 いやー。真面目だよなぁ。見た目ワイルドイケメンなのに。

 母さんはそのギャップにやられたんですね。


「うるさいわよリット」


 居たのか母さん……。


「居たらいけないのかしら?」


 めっそうもない。黒猫亭は母さんの冒険者時代の二つ名から命名されたんでしょう。

 そんな人が居たらいけないなんて、そんな馬鹿な。

 ははは。


「ごまかすな」


 いてっ。

 デコピンされてしまった。


 額をさすりながら、エヴァの方へと向かう。


「エヴァどうだい?」


 そう言ってボウルの中を見る。

 うん。良い感じに粘りが出てるな。


 じゃあそれを分割して、キャベツを巻いていこう。


「かしこまりました。ごしゅじんさま」


 ぶふぅ!?

 エ、エヴァ何を言ってるんだ! そんな俗っぽい言葉を誰から!?


「フレッド様が、こう言ったらお兄ちゃんが喜ぶって」


 フレデリクゥ! 妹に何してくれとんじゃ!


「お兄ちゃん嬉しくなかった……?」


 ぐっふぅ! 嬉しいけど、人前で言わないようにね……。


「わかった。じゃあ二人きりの時だけだね」


 そう言ってエヴァは、はにかんだ。


 可愛すぎて、ツライ。

 フレデリク結果的にはグッジョブ。


 じゃあ、気を取り直して。


「エヴァ、キャベツにさっきの混ぜたタネを包むんだ」


「おー!」


 元気が良くて何よりです。


 キャベツにタネを包んでいく。

 まず一巻きしたら、横に出たキャベツの片方だけを真ん中に畳むようにして、あとはそのまま巻いていく。

 全部巻いたら、もう片方の横に出たキャベツを中に入れ込むようにする。

 そうすれば爪楊枝を刺さなくても形が崩れない。


 出来たものをコンソメスープに入れて、二、三十分煮込む。


 待ってる間にお客さんも来るだろう。


 ▶︎▶︎


 三十分後、店内にはチラホラと客が訪れ始め、忙しくなってきた。


 あれ? 食べる時間なくね?



「エヴァこれ持ってって」


「ルーティ、三番テーブルに料理運んでくれ」


 料理を次々と作り、客に出す。


「はーい」


「すぐ行く」


 エヴァとルーティも忙しなく動いている。


 せっかくロールキャベツを作ったが、こうも忙しいと食べてる暇がないな。

 新作です。と言って、出すのも数が限られているので、人が少ない時に出したい。


 落ち着くまで待つか。








 客足が落ち着いた頃。母さんが話しかけて来た。


「リット、新作出しちゃいなさい。客には私からオススメするから」


 よし。感想を聞かせてもらおうじゃないか。



 ルーティが冒険者達が騒いでいるテーブルで、料理をおすすめする。


「あんた達、新作よ食べなさい。もちろん有料よ」


「姐さんもう少し言い方が……」


「食え」


 有無を言わせねぇー!

 母さん無理強いは良くないよ。


「まぁ、気になりますし。食べますよ」


 そう言って一人の冒険者がロールキャベツを食べることになった。


 ちなみに父さんとエヴァは、今厨房で食べている。


 厨房を覗くと、幸せそうな顔をした二人が黙々とロールキャベツを食べていた。


 僕の分残しといてね……。


 一方、ルーティに無理矢理ロールキャベツを食べさせられている冒険者は。



「うまひぃ」


 恍惚の表情でロールキャベツを食べていた。


 喜んでもらえて嬉しい。


 だが、表情大丈夫か? ヤバくない? モザイクレベルよ。


 その表情を見て、他の冒険者達もロールキャベツを注文する。


「こいつはうまいな。出汁がいい」


 うん。頑張ったんだ。


「味がしっかり染みてるぜ。キャベツと肉の異なる甘さが楽しめるな」


 おっ、いい感想だな。ありがとう。


 ロールキャベツは概ね好評のようだ。また作ろう。

 最初に食べた冒険者は未だ恍惚の表情を浮かべたまま帰ってこない。

 うん。エヴァには見せらんないな。


 さて、それじゃあ僕も食べるとしますか。

 長かった。苦節半日。いざ実食!


 厨房に戻ると、鍋の前でルーティがロールキャベツを頬張っていた。


 母さん行儀悪いよ。


「らっておいひいんらもん(だって美味しいんだもん)」


 口の物飲み込んでから喋りなさい。


「じゃあ僕も」


 そう言って鍋の中を見る。


 空だった。


 母を見る。


 目を逸らされた。


 まだ口がもごもごしている。


 もう一度鍋を見る。


 やっぱり何もない。


 もぐもぐごっくん。

 ルーティが口の中の物を飲み込んだようだ。


 その場にいる。ライオス、ルーティ、エヴァを見る。


 みんな笑顔だ。


 そして口々に感想を言ってくる。



「リット美味しかったわ」


「絶品だな」


「お兄ちゃん美味しくてほっぺが落ちそうになったよ」


 そうか。それは良かった。

 時間をかけて作った甲斐があったよ。

 本当に時間がかかったんだよ。スープももうないね。


「リット」


「息子」


「お兄ちゃん」



「「「ごちそうさまでした!」」」



 うん。それで、僕のは?



作者は料理人ではありませんので、あくまで雑誌やネットの知識を用いています。

作りたい方はキチンと調べてから作りましょう。


なぜ、料理を副題においてしまったのだろう……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ