第20話 夫婦の日常
ライオスとルーティの夫婦回です。
今年一番の寒波が王都を襲った。
吹雪である。
視界が悪く、外に出ることも出来ない。
黒猫亭に宿泊している冒険者や行商人は、仕事にならないので部屋で待機している。
稼げないので、お金が少し心配と言っている。
早く冬が過ぎるといい。
冬の寒波は黒猫亭の営業にも大きな打撃を与えた。
「この時期はつらいわぁ」
ルーティがカウンターに頬杖をついて、帳簿と睨めっこしている。
「しょうがないだろ。この雪だ、あと二、三日は続くだろう」
ライオスが愚痴るルーティに言葉をかけた。
「それにしたって、ここ数年は売上伸びてるのよ。この流れを断ち切りたくないのよ」
「それは分かるが天気はどうにもならんだろ」
はぁ。と、深いため息をつくルーティ。
「リットはいいとしても、エヴァには学校に行って色々学んで欲しいのよ……」
ルーティはエヴァを学校に行かせたいと思っており、そのために売上を少しでも良くしたかった。
今でも十分だが、老後のためもある。
リットは何故か、読み書き計算はできるので、あまり学校に行く必要はないと考えているルーティ。
「確かにな。エヴァは友達も少ない。それこそ知り合いが冒険者連中ばかりだからな。同年代の友人を作って欲しくはあるな」
「周りが年上ばかりで、あの子もストレスが溜まるでしょ。今は良いかもしれないけど、今後あの子が大人になった時、同じ目線であの子の相談に乗ってくれる人物が必要になってくるわ」
心配そうな表情で、エヴァを思うルーティ。
「そうだな。だが……、男は許さん!」
鬼の形相のライオス。
「……あんたね。リットと一緒じゃない」
対して、ルーティは呆れ顔だ。
「俺は父親だ。兄ではない。俺には俺の、リットにはリットの教育方針がある」
「どう違うのよ?」
わかりきったことを聞いてしまう。
「俺はエヴァを嫁には出さん。対してリットは、嫁に出す気はあるが、自分に勝てる男にしかエヴァを渡さん」
それって教育方針じゃなくて、あんたの願望でしょ? と、思いながらも言葉を返す。
「つまり一緒ね。リットに勝てるのなんて古龍クラスか魔王くらいじゃない? 嫁に出すつもりないってことよね?」
ライオスが笑顔で頷いた。
それを見てルーティは苦笑する。
「娘離れしなさいよ」
「やだ」
子供のわがままではないかとルーティは笑う。
「でもいずれはその時が来るわ」
「ぐぬぅ……」
苦虫を潰したような顔でライオスが唸った。
「……俺の事は置いておこう。本当に心配なのはリットとエヴァだ」
あのシスコンの兄と、ブラコンの妹である。
リットはエヴァを猫可愛がりしている。エヴァの事になると、我を忘れることもしばしばあり、少し心配だ。
エヴァはリットを慕っている。いや、愛しているのだろう。たまに見せる嫉妬は、感情が表に出て若干怖い。
エヴァに関してはリットに依存し過ぎている感じがする。
一番近くにいて、歳も近いのだから頼るのも分かるが、本当にベタベタである。
一年程前、二人の部屋を分けた時はエヴァが癇癪を起こして酷かった。
たまにリットのベットに潜り込んでいるようだが。このままでは二人の将来が心配だ。
「そうね。それはあるかも」
ルーティも、それは思っていた事だった。
だがルーティはそれでも良いと思い始めていた。
「でもまぁ、仲が悪いよりは良いし。それにその方があんた的にも願いが叶って良いんじゃない?」
「願い?」
「嫁に出したくないんでしょ?」
ニヤニヤしながらそう言うルーティ。
「そうだな。だが……やっぱり俺はエヴァが幸せならそれで良いな」
先ほどとは打って変わり、自分の願望よりエヴァの幸せを考える父親。
ルーティは笑って。
「ふふっ、何よあんた、さっきまではあんなにエヴァは嫁に出さないって言ってたのに」
「娘の幸せを考えるのが父親ってもんだ」
その優しい眼差しにルーティは嫉妬する。
「私の幸せも考えてる?」
少し意地悪そうにルーティが尋ねる。
「もちろんさ」
二人で微笑み合う。
「ならみんな幸せな方がいいわよね?」
「そうだな?」
こういうのはどうかしら? と、ルーティが提案する。
ルーティのした提案に。
「ははっ、そいつは良いな。みんな幸せだ」
その提案はとても魅力的で、ライオスは思わず満面の笑みになるのだった。
ルーティも、つられて笑っている。
夫婦はいつまでも楽しそうに笑っていた。
そこには、どこにでもある夫婦の日常があった。
――こうして寒い日は過ぎていく。
どんなに冬が寒くても、誰もが幸せにすごすなら。
そこは暖かく、笑顔があふれる場所になる。
子供いないから親の気持ちがわかりませんが自分なりに考えてこれからも書いていきますね。