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第2話 転生の提案

 

「転生ですか?」


「さよう、転生じゃ」


 うーん転生かぁ、てかみんな転生できるわけではないのか?


「皆できるわけではないが大抵はできる。君の場合は少し特殊な例じゃな。魂を死後の世界に送る前にここに呼んどるからの」


「それはどうしてでしょうか?」


「条件付きの転生の提案をするためじゃよ」


 条件? と、首をかしげると神様は説明を始めた。


「簡単に言うと記憶を残したままの転生じゃな。君の場合、神をも唸らせる料理人じゃからな。魂だけでは足りない。記憶がなければ違う分野で生きて行く可能性もある」


 そう持ち上げられるとむず痒いな。だが違う分野で生きる事はいけないことなのか?


「いけなくはない。ただ君だってまた料理に携わる仕事をしたいじゃろ。魂に熱がまだ残っておる」


 当たり前だが見抜かれていた。僕はまだ料理を通じて人を幸せにして生きて行きたいと。


 神様、言わせてしまってごめんなさい。本当なら僕からお願いしなきゃあならないのに。


 僕は何様なのだろう。神様相手にお願いだなんて、不敬にも程がある。……だが。


 神様の前に手をついて額を白い地につける。


「神様、僕を転生させてください」


「その言葉をききたかった」


 神様は笑顔でそう言うと、手を取って起き上がらせてくれた。

 恐れ多い。


「君を転生させたいのは儂のわがままなんじゃよ」


 ん? どうゆう事?


「君の料理を食べたことがあると言ったな。神々はそもそも食事なんかせん。完全に娯楽じゃな。君の料理を食べたのは偶然ではない。君を見つけたのは偶然じゃったがな」


 ホッホッホと、髭をさすりながら笑う神様。その仕草が神々しい。

 手を合わせる。


「暇での、人間観察をしておったのじゃ」


 なんか学生時代ボッチで過ごす奴みたいだなぁと思ってしまった。不敬不敬。


「……話を続けるぞい」


 ジト目で見られてしまった……。


「偶然君を観察していたら、ついつい見入ってしまったんじゃ。とても純粋で熱い魂の持ち主じゃったからのう」


 そう言われると照れてしまう。ニヤニヤしていると神様が咳払いした。

 あっ、すいません。続けて下さい。


「気になって仕方なかったから、下界に降りて君の料理を食べにいったのじゃ。出される料理は全て美味であった。そして味だけではなかった。その皿一つ一つに君の魂が、そして熱が移っておった。料理に対する想い。食べる者への想い」


 神様の言葉を聞き、気がついたら涙が出ていた。さっき涙が止まったばかりなのに、また止めどなく溢れてくる。

 嗚咽を漏らす。こんな幸せなことがあって良いのだろうか?


 神様が、僕の事を見てくれていた。理解してくれていた。世界広しと言えど、神様に褒められた人間が幾人いただろうか。


 もう天に召されてもいい。

 あっ、もう召されていた。




 ―――――――――――――――――――――




 涙も止まり晴れやかな気分で転生できるぞ。と、思っていたが、まだ条件があるようだ。


「これが一番の問題なのじゃが。転生する場所は元いた世界ではない」


 なっ、なんですとー!

 それってつまり異世界転生的なアレですかぁ!


「そうじゃ。好きじゃろ」


 そりゃ料理以外の趣味がライトノベル読んだりアニメ観賞したりだからなぁ。やはり知っておられたか。


「ケモ耳っ娘もおるぞ」

「――っ! すぐ行きましょう」


 食い気味に言ってしまった。申し訳ない抑えきれなかったんです。


 神様に僕の趣味を知られていて恥ずかしいが、それ以上に興奮が冷めやまない。僕は燃えていた。


 待っててケモ耳っ娘ちゃん達! すぐに行きます!


「ただ君のいた世界風に言うと、ファンタジー世界になるからの。君が元いた世界とは勝手が違うし危険もいっぱいじゃ」


 魔法、魔法もありますか!


「あるぞ」


 魔法キター!


「じゃが君は身体能力強化の誰でも使える魔法以外は使えないのじゃ。理由は後で話そう」


 僕が膝から崩れ落ちたのは言うまでもないだろう。


「……で、でも身体能力強化の魔法は使えるんですね……」


「正確には魔法ではなく魔力操作の類じゃがの」


 魔法ですらなかったー!


「いやいや便利、便利なんじゃよ。魔法は込める魔力で威力は変わるが、放出した分は戻るまで時間がかかる。対して身体能力強化あー分かりやすく身体能力強化〈ブースト〉としよう。向こうでもそう言われている。改めて〈ブースト〉は身体の中と外側を魔力で強化する物じゃ。常に魔力をまとっているため魔力を失う事はまずない。使い手の技量で強化の幅が大きく変わるのも特徴じゃ」


 なるほど使えば使うほど馴染む。包丁なんかの調理器具と同じか。


「うむ、と言うわけで魔力操作やその他諸々の訓練を始めるぞ」


 はい?


「安心していいプロを呼んであるからの」


 そう言って神様は手を叩いた。


「主神様お呼びですか」


 何もないところから突然人が現れた。


 えっ?何イリュージョン?


 現れたのは筋骨隆々な壮年のナイスミドル、僕を見ると急に笑顔になった。口を歪める感じの。


 ……どうしよう恐怖しかない。


「今からこやつに君を鍛えてもらう。向こうの世界で死なないようにのう。君が鍛えている間に色々と手続きをしてくるでのう。後は頼んだぞ武神よ」


「はっ! かしこまりました。それでは今からお前を鍛える。名は……そうだな武神……いや私のことは師匠と呼ぶように」


 ん? 武神? え? 師匠?


「ん? どうした緊張しているのか? 肩の力を抜け、そして安心しろ、私が鍛えてやるからには、片手で竜種や魔王を屠れるようにしてやろう」


 いや違うんです。そう言う事じゃないんです。頭がついてこないだけであって、時間を、時間を下さい。お願いします。

 あ、あれ今なんて? なんか竜種とか魔王がどうのこうの? ……ん?


 この後すぐに、僕は地獄を見る羽目になったのだった。



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