第18話 流派?
今僕は、冒険者のローダスさんと冒険者ギルドの訓練場にいる。
何故僕がまた冒険者ギルドにいるかと言うと。
「リットこの間はうやむやになったが、今日は相手をしてもらうぜ」
と言うことだ。
忘れていて欲しかった。めんどくさい。
「面倒だって顔に書いてあんぞ……」
実際そうですし。
まぁ、パパッと終わらせよう。
「それはダメだ。手加減しろ」
「ローダスさんプライドは?」
「そんなもん犬に食わせておけ」
はぁ、早く帰ってエヴァと遊びたい。
ローダスはやる気満々で素振りを始めた。
「ローダスさん頑張って♡」
声援を送るのはアメリアだ。
最近ローダスといい感じらしい。
ペッ! リア充が!
それを見てリットもやる気を出す。
歪んだやる気ではあるが……。
ふっ、アメリアさんの前で無様な姿を晒すがいい。
ふははははは!
「……おい。声に出てんぞ」
はっ!? つい本音が!
「……隠す気もねぇのか、まぁいい始めんぞ」
「僕素手なんですけど……」
ローダスは何を言っているんだ? という顔をしている。
「怪物が何を?」
おいっ、いい加減人として扱え。
「冗談だ。リットは剣とか使えないのか?」
「一通り使えますよ。師匠に習ったのは、柔術、剣術、槍術、弓術、暗殺術などその他諸々の武術全般ですね」
「すごいなお前の師匠……てか暗殺術って……」
頬を引きつらせるローダス。
いやー本当馬鹿みたいに鍛えられましたからねぇ。
「勝ったことあんのか?」
「ないっす。今まで一撃も与えたことがありません」
「……怪物の師匠は怪物だったか……じゃあそのうち勝てるといいな」
「ははは、それが死ぬまで会えないんですよね」
一応神様ですし。
「ッ! すまねぇリット。変なこと言っちまったな……」
何か勘違いしてないか? まぁいいか別に。会うわけでもない。
「いえ、構いませんよ」
「本当に気にしてなさそうだなお前、仲悪かったのか?」
仲は悪くはないけど……。
「とりあえずボコボコにしてやりたいとは何時も思ってましたよ。あのクソヤローは頭がおかしいんです。とにかく意識を失うまで走らせる。筋トレをさせる。殴る蹴る斬りつける。何度精神的に死ぬかと思ったか。」
まぁ、肉体的には元々死んでいたが。
「……そうか。何だろうお前の強さの根源を垣間見た気がする」
遠い目をして、そう語るローダス。
戻ってきて、僕は今幸せだから。
「でも師匠のおかげで強くなれたことは確かですね。今まで困ったことはありませんし」
「そうかよ。でもそれだけの武術だ。当たり前かもな。……そういえば流派の名前は何だ? さぞ有名な流派じゃないのか?」
えっ? 流派の名前?
いや、あるけどなんか言うのは嫌なんだよなぁ。
師匠の地獄の修行を思い出すから………。
なんか思い出したら腹が立ってきたな。
よし。この流派を広めてやろう。全く違う名前でな!
そうすれば師匠は神界で悶え苦しむに違いない!
ふははは! 思い知るがいい。弟子の苦悩を!
師匠の流派は自分で作ったもの、その名もそのまま〝武神流〟なんのひねりもない。つまらん!
それにシンプルで若干かっこいい……。
だめだ! だめだ! もっと師匠の性格が現れるような名前でないと。
ふふふ、奴にぴったりのイメージがあるではないか。
「ローダスさんよくぞ聞いてくれました」
「おっ、やっぱあんのか」
「私も気になります」
ローダスとアメリアが食いついた。
ふっ、しかと聞け!
我が流派は!
「流派!〝 傍若武神流〟!!」
奴の傍若無人な態度からつけた名だ。
ナイスネーミング! 僕は天才か!
ふぅ、奴を貶めるつもりが、少しかっこよくなってしまったな。
自分の才能が恐ろしい。
「「何かダサい!!」」
二人が声を揃えてそう言った。
あれ? 僕は結構かっこいいと思うんだけど。
この後、ローダスと剣術で手合わせし、一瞬で勝負を決める事となった。
「いくぞぉ! リットォォ! 死にさらせやぁ!」
なんて掛け声なんだ、僕になんの恨みがあるんだか。
向かって来たローダスの剣を弾いて胴に木剣を叩きつける。
「グハァ! ウオェ!」
呻きながらその場にうずくまるローダス。
「ローダスさん大丈夫ですか!?」
「あぁ、大丈夫だ……」
ローダスを介抱するアメリア、甲斐甲斐しくてこちらが恥ずかしくなる。
「ローダスさんカッコ良かったですよ」
「おいおい。俺は負けたんだぞ」
「例えどんな姿でも好きな人はかっこよく見えるんです」
「アメリア……」
「……ローダスさん」
二人は見つめ合い。徐々に顔を近づけていく。
ねぇ! 僕いるよ! ねぇ! いるってば!
二人は完全に自分たちの世界に入っていた。
「見せつけてんじゃねぇー!!」
リットの咆哮が訓練場に響き渡った。
▶︎▶︎
――神界にて。
「いやー、彼を見ておると飽きんのう」
主神があご髭をさすりながら笑っている。
「……ええ、飽きませんね。本当に」
一方、武神は頰を引きつらせて、拳をブルブル震わせていた。
「ほっほっほっ、〝傍若武神流〟!」
主神が武神をからかうようにそう言った。
「ぬぅぅぅん! リットォ! あの馬鹿弟子がぁ!!」
武神の咆哮が神界に響き渡った。