第17話 冒険者ギルドへ行こう 2
誤解を解くのに時間が掛かったが、僕達は訓練場へと向かう事になった。
訓練場はギルドの地下にありかなり広いらしい。
そこを貸しきるのはお金がかかるし、他の冒険者からあまりいい顔はされない。
青銅騎士団と鳳凰の爪は、中規模な戦闘系クランらしく。人数は数十人で、大規模クランは百人を超えるところもあるらしい。
二つのクランがリスクを負ってまで譲れない物とは何なのか、少し気になるところである。
きっと、お互いの信念を賭けたものなのだろう。
受付嬢の案内で訓練場の前にたどり着いた。
受付嬢の名前はアメリアと言うらしい。
「えーと、本当に入るんですか?」
心配そうに尋ねるアメリア。
「問題ない。さぁ野次馬しに行こう」
言い切るんだこの人……。
逆に清々しい。
訓練場の扉をアメリアが開く。
扉の先には広大な部屋があり、そこに数十人程度の冒険者が二手に分かれて牽制し合っていた。
そしてその中心には三人の男が居た。
「ここの所長と両クランのマスターだな」
ほほう、あれが。
一人は青い鎧を身に着けており、もう一人は軽装に赤いマントを羽織っている。
なるほど青い鎧が青銅騎士団のマスターで、赤いマントが鳳凰の爪のマスターか。分かりやすいな、逆だったら困るが。
二人の間に立つように中年の男性が腕を組んでいる。冒険者ギルドの所長と思われる。
「二人共少し離れろ。もう少し話をしよう」
冒険者ギルドの所長が二人に話しかける。
二人を説得しようと頑張っているのだろう。
まぁ、二人共睨み合って聞く耳を持っているかは怪しいが……。
「野蛮人め。今日こそ引導を渡してくれる」
「それはこっちのセリフだ。偽善者め。騎士になりたいのなら国に従属すれば良い」
「我々は、騎士だ。だが国に従属すればその国の人々を守ることになる。我々は全ての人々を守りたいのだよ」
「口でならなんとでも言える。なら他の国へ行ってくれないか? 全てを守りたいなら、ここだけに留まることは出来ないだろう」
うん。罵り合いが始まりましたね。険悪だなぁ。
「クライムさんとヒュンメルさんは、大体いつもあんな感じですよぅ」
青銅騎士団のマスターはクライム、鳳凰の爪のマスターはヒュンメルという名前らしい。
「そうだな。私がいる時は睨み合う程度なんだがな」
なるほどリエルさんに萎縮してる感じですか。
「あの二人はAランクだからな。それもあるかもしれん」
「ん〜言いにくい……」
何やらアメリアが難しい顔をしている。
どうしたんだ?
「おい。アメリア原因知ってるのか?」
ローダスがアメリアに質問する。
そう聞かれたアメリアは、困った顔でアルリエルをチラチラみている。
一体どうしたんだ? リエルさんを見ているようだけど。
アメリアが口を開いた。
「……あのこんな時にアレですけどローダスさんとアルリエルさんってお付き合いされてるんでしょうか?」
えっ? そうなの?
仲が良いとは思っていたが。そうなのだろうか?
二人を見ると、お互いに目を合わせてキョトンとしている。
「「私(俺)とこいつが?いやいやないない」」
ぶんぶん手を横に振る二人。
「そうなんですか!」
目を見開いて二人に詰め寄るアメリア。
心なし嬉しそうに見える。
「あ、ああ。」
答えるローダスにさらに詰め寄る。
「本当の本当に!?」
「本当だって、なぁ」
「あぁ、私が愛しているのはリットだけだぞ」
真顔で爆弾を投下するアルリエル。
こんな時に、からかわないでください。
「そうなんだぁ。えへへ」
アメリアには聞こえていないようだ。
花が咲きそうなくらい笑顔になるアメリア。
何がそんなに嬉しいのだろう?
「リットくんは鈍感ですねぇ」
僕が鈍感? いやいやそれなりに俊敏に動けますよ。
「そう言う事じゃなくて……」
何故かフィリアに呆れられてしまった。
解せん……。
「落ち着けアメリア、で、それがなんか関係あるのか?」
「あっ、はい。実はあの二人が険悪な理由ってアルリエルさんなんですよ」
「私が?」
アルリエルは怪訝そうな顔をする。
「私は二人に友好的に接していたぞ」
「それが原因なんですよ」
「……なるほど、そうゆう事ですか」
フィリアが何か気づいたようだ。
フィリアが続けて口を開こうとする。
だがその時だった。
「もう我慢ならん! 成敗してやる!」
「望むところだ! かかって来い!」
どうやら二人の限界が来たらしい。
「アルリエルさんは私の物だ!」
「黙れ! アルリエルさんに相応しいのは俺だ!」
二人共アルリエルの事を求めているようだ。
えっ? まさか二人が争っている原因って。
アルリエルの方を見るリット。ローダス達も見ている。
「ふぅ。モテる女はつらいな」
髪をかきあげる仕草が妙に似合っていて、逆にイラっとした。
「……いや、止めてくださいよ」
あんたが止めれば一発だろう。
あんたに恋煩ってるんだから。
「あの二人がいがみ合ってる理由はわかったが、じゃあ何で他のクランメンバーもピリピリしてるんだ? 完全に個人的な問題じゃねぇか」
もっともな疑問だ。
もしかして全員リエルさんに惚れているのか?
「流石に違いますよ。負けた方はアルリエルさんから身を引くのが条件なのと、もう一つあって、負けたらクランを解散する事になってるんです」
……何だか大事になってる。
「美しいというのは罪なものだな……」
しみじみ言ってるけど、ニヤけてますよ。嬉しいんでしょ。
「アルリエルさんって、美人なんですけどモテないんですよねぇ。だから単純に好意が嬉しいんですよ」
「まぁ本人の実績と武勇伝が邪魔してモテないんだけどね」
フィリアとユリウスが教えてくれた。
「ふぅ、だがこのままでは本当に大事になりかねん。止めてこよう」
リエルさんは僕の方を向き、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
何か考えがあるのか?
「二人共争いをやめるんだ!」
「アルリエルさん!」
「どうしてここに!?」
「罪な女だ……。私を巡って争いが起きるなんて」
……ノリノリっすね。
呆れるリット達。
「だがしかし二人が争う必要はない! 」
「どういう事ですか!?」
「説明してください!? ……もしかして、もうどっちか決めているんですか!?」
期待の眼差しを向ける二人に、アルリエルは爆弾を投下した。
「ああ、決めてある。お前達二人ではないがな」
そう言って、僕の方を悪い顔で見るリエルさん。
……おい。やめろ。まさかあんた。
「私が愛しているのは、ここに居るリット・アルジェントただ一人!」
言いやがったぁー!
悪魔かアンタ!
ヘイトがこっちに集まるだろうが!
「ははは、何を言っているんですか? 」
「本当ですよ。子供じゃないですか」
さっきまでいがみ合っていたとは思えないほど、意見が一致する二人。
二人の言葉を聞いたリエルさんが僕に近づいてくる。
何て悪い顔だ。美人が台無しですよー。
「これを見てもそれが言えるかな」
そう言ってアルリエルはリットに近づいていき。
ちゅっ。
リットの頰に甘い衝撃が走る。
唇を色っぽくなぞるアルリエル。
「な、な、な、な、な、な」
何をするんですかー!
頬を押さえて飛び上がるリット。
アルリエルは顔を赤くしながら悪戯が成功したように笑っている。
「愛してるぞリット♡」
クソ可愛いな!
顔が熱い。悪女め……覚えてろ。
ジト目でアルリエルを見つめる。
「そんなに熱い目で見るな。照れるじゃないか」
モジモジしながら、顔を手で覆うアルリエル。
「いや、お前らイチャついてる場合じゃないぞ……」
ローダスにそう言われて我に帰る。
はっ! ペースに乗せられていた!
「えっ、ローダスさんこの二人って……えっ?」
オロオロするアメリアにローダスが。
「温かい目で見てやってくれ……」
優しい冒険者ローダスであった。
しばらく沈黙が続いたが、クライムとヒュンメルが沈黙からハッと息を吹き返した。
「認めませんよ! こんな子供とだなんて!」
「そうですよ! こんなガキに負けられません!」
そうですよね。こんなぽっと出のやつには渡せませんよね。
「そんなに私が欲しいなら実力を示してみろ!」
「くっ、女性には剣を振るえません」
「いや、それ以前に実力差がある……だが、俺はやるぞ!」
「……騎士の矜持に反しますが、騎士であると同時に男でもあるのです! 私もやりましょう」
二人はやる気満々だ。
そこにアルリエルが余計なことを言う。
「待て待て。戦うのは私じゃない。リットだ」
おいっ! これ以上巻き込むな!
「なるほど、それなら女性に剣を向けなくてすむ。それに……」
「それに、ガキが相手なら負ける事はねぇ。あとは……」
「「単純にお前が気に食わない!!」」
息ぴったり! 本当は仲良いの!?
ていうか、 どうゆう展開!?
「二人の男が、愛する乙女を得るために怪物に立ち向かう。王道だな」
それだと僕が怪物になるのですが……。
「違うのか?」
違うわ!
「イチャつきやがって! 殺してやる!」
「私の剣のサビになりなさい!」
やだ怖いわ!
目が血走ってる。本気か!?
二人が一斉に襲いかかってくる。
子供相手に二人がかりって……。
「斬空剣!」
「光翼刃!」
何それかっこいい!?
鋭い剣閃がリットに襲いかかる。
リットは動かない。
二人は勝利を確信する。こんな子供が冒険者の剣に反応出来るわけがないと。
剣は怪我をさせないよう、余裕を持って引くつもりだった。
だが。
「遅い」
リットはまるで呼吸をするかのように、二人の剣を、左右の手で受け止めた。
「なっ!?」
「そんな!?」
驚愕する二人にリットがたたみかけた。
剣を掴んだ手に力を込める。
バキンッ!
鈍い音と共に二本の剣が折れて、二人は驚き後ずさる。
「そこは前に出ないと僕は隙だらけなのに」
そう言って離れた距離を一瞬で詰める。
足に魔力をためて移動する。師匠直伝の神速歩法だ。
「速い!」
「嘘だろ!」
戦慄するクライムとヒュンメル。
そのまま相手の鳩尾辺りに拳を叩き込む。
「グェッ!?」
「ゴブゥ!?」
奇妙な声を出しながら吹き飛んでいく二人。訓練場の端までバウンドして壁にぶつかりようやく止まる。
周りにいた冒険者達がポカンと口を開けている。
ローダス達は苦笑い。
アルリエルだけは満面の笑みで「どーだ!」と、胸を張っている。
揺れてます。リエルさん。眼福です。
飛ばされた二人を見ると。
鎧を着ていたクライムは、鎧が砕け泡を吹いている。
軽装だったヒュンメルには、かなり手加減しているが、同じように泡を吹いて気絶している。
「「「「「「 えー!!! 」」」」」」
その場にいた冒険者達が遅れて反応した。
まぁ、二人共負けという事なので、アルリエルさんは諦めてもらって、クランの解散もなしって事でいいですよね。
「そ、そうゆうことになるな……」
冒険者ギルドの所長さんが証人になってくれた。
これにて一件落着。
「えーと、何事も平和的解決が一番ですね」
「殴った奴が言うな。てゆーか俺との手合わせのはずが……」
「暴力的解決ですね」
ローダスとユリウスにつっこまれた。
「さすが私のリットだ」
リエルさんアンタは後で説教だ。
「何故だ!?」
この後めちゃくちゃ説教した。
面白半分に話をややこしくした罰だ。
▶︎▶︎
その後、二人はアルリエルを諦め。クランを解散させることもなく冒険者業に戻ったようだ。
だが、最近また二人に想い人ができたようだ。
「アメリアさん好きだ! 君の仕事熱心な姿に惚れた! デートしよう!」
「貴様ふざけるなよ! アメリアちゃん、今度俺とデートしよう。美味しいレストランを見つけたんだ」
今度は受付嬢のアメリアに恋をしていた。
また同じ相手とは……。
懲りない二人であった。
アメリアは困ったような顔を一瞬だけして、急に笑顔になる。
そして、こう言い放った。
「あっ、私ローダスさんと今度デートするんですよ♡」
「「ローダスゥ!!」」
怒りの咆哮が、冒険者ギルドに響き渡った。
頑張れローダスさん。
もちろん二つの意味で。
皆さんローダスさんを応援してあげてくださいね。