第16話 冒険者ギルドへ行こう
「リット! 俺と手合わせしてくれ!」
ほえ?
昼の営業が終わって食器を片付けている最中に、冒険者のローダスが変な事を言ってきた。
「えっと、僕とですか?」
リットは自分を指差す。
「そう、お前だ」
なぜ急にそんな事を。
「前に助けてもらった時に、一度戦って見たいと思ってな。まぁ腕試しみたいなもんだ」
「止めたんですけどねぇ」
「ローダスさんボコボコにされちゃいますよ〜」
「お前ら好き勝手言いやがって!」
「まぁ、何事も経験だ。リット、相手をしてやってくれ」
今は仕事中だしな。
チラッと、ルーティの方を向く。
「そうね、リットと手合わせしたいなら有料よ。仕事中なんだし当然ね」
うわぁ〜。この人、僕を金儲けに使う気だ。
「かまわねぇよルーティさん。やらせてくれ」
えぇ〜。商談成立しちゃったよ。
「じゃあ一回金貨一枚ね」
高っ! ぼったくりやん!
「流石に高くないか……」
「冗談よ銀貨一枚でいいわ」
通貨の価値は、鉄貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨の順で高くなって行く。
「よし。じゃあ早速」
「ちょっと店の中でやる気? 外もダメよ。邪魔だから」
「じゃあどこで?」
「はぁ、アンタ達は冒険者でしょ。ギルドに行けば訓練場貸してくれるでしょ。場所代もあんた持ちよ」
「あー、忘れてたな」
冒険者ギルドには訓練場があるのか。そういえば、行くのは初めてだな。
行くのが少し楽しみになったリット。
「わたしも行く!」
「エヴァはだめよー。むさ苦しい場所だもの」
頬を膨らませて拗ねるエヴァ。
よしよし。すぐ帰ってくるからな。
大丈夫、心配ないよ。瞬殺さ。ははっ。
「……おいリット。本人の前で言うか普通?」
あっ、居たんですかローダスさん。
「くそー! 絶対泣かす!」
「大人げないですねぇ」
「まぁローダスは負けず嫌いですからね」
さぁさぁ、冒険者ギルドに行きましょうか。
こうしてリットは、はじめて冒険者ギルドに向かうのだった。
▶︎▶︎
ローダス達について行き、冒険者ギルドにたどり着いた。
と、遠い。まさか十五区まで歩かされるとは。一人で走ればすぐなのになぁ。
「疲れたか? すまねぇな。近い場所のギルドは訓練場がねぇえんだよ」
くっ、もう店で関節決めて終わらせればよかった。
あー、夕方の営業時間までに戻れるかな?
「リット、お前は冒険者登録はしないのか?」
アルリエルが興味有り気に聞いてきた。
「へ? 出来るんですか?」
まだ十歳なのだが。
「年齢は関係ない。簡単な試験をして、通れば一つ依頼を受ける。それを達成できれば、晴れて冒険者の仲間入りだ」
意外と簡単なんだな。
興味はあるけど、店があるしな。
「難しく考える必要はない。兼業など普通だ。冒険者になれば、ギルドで素材なんかを割引して買えるぞ」
へぇ、便利なんだな。でも大抵必要なものは万能創造で作れるからなぁ。すぐ壊れるけど。
魅力ゼロだな。
「むぅ。考えておいてくれ」
前向きに検討します。
「お前らいいか? 入るぞ」
冒険者ギルドの扉をローダスさんが開く。
すると中からは、ピリピリとした雰囲気を感じ、これが冒険者ギルドか、と、イメージとは少し違ったが、ワクワクして頬が緩んだ。
「あまり賑やかではないですね」
「いや、見りゃわかる。いつもは賑わってるんだがな。……こりゃなんかあったな」
そう言ってローダスさんが受付へと歩き出す。
「あっ、ローダスさん! いらっしゃい。今日はどうしたの?」
受付には若い女性職員がいた。どうやら顔なじみのようで、歓迎されているようだ。
「依頼の完了報告と、あと訓練場を貸して欲しいんだ」
「依頼達成ですね。流石です。……訓練場は今、貸し切られていて使えないんです。すいません……」
「あー、そうなのか? 貸切ってことはどっかのクランか」
冒険者ギルドは、冒険者達を支援する組合であり、冒険者に仕事を斡旋する場所だ。
対して、ローダスが言ったクランは、同じ志や目的を持った冒険者の集まりである。
「はい。青銅騎士団と鳳凰の爪が少し揉めていまして……先程までここで一触即発の雰囲気だったんですが、所長が決闘でケリをつければいいと、訓練場へ連れて行ったんです」
「なるほど、ピリついているのは両クランのメンバーか」
「……はい。そうですアルリエルさん」
受付嬢が、アルリエルを見て何とも言えない顔をしている。
ん? アルリエルさんに何かあるのか?
それにしても、クランかカッコいい!
なんか憧れるな、まぁ冒険者にはならないが。
「マジかよ……。仕方ねぇな。時間かかりそうか?」
「さっき行ったばかりですからね」
「どっちのクランもマスターは知り合いだ。とりあえず行ってみないか?」
リエルさん、嬉しそうですけど。楽しんでませんか?
ていうか知り合いなんだ。
「クラン同士の決闘だぞ。見なければ損だ。これが全面戦争ならごめんだがな」
「つまりアルリエルは代表同士の一騎討ちだと?」
「まず間違いない。お互い譲れないものもあるし、仲悪いからなあの二人は」
どうやらリエルさんは一騎討ちだと睨んでいるらしい。熱い展開だな。
けど何が原因でトラブったのかな?
「……ローダスさん。気になってたんですけど、そちらのお子さんは? ま、ま、ま、まさかローダスさんの子供?」
「馬鹿ちげぇよ。こいつはリット、最近知り合った宿屋の息子だ。今日はコイツに手合わせしてもらおうと思ってな」
「……あの、何を言ってるんですかローダスさん。子供ですよね。いつから弱い者イジメするようになったんですか」
受付嬢が絶対零度の視線をローダスに向ける。
たまにエヴァもあんな目するよなぁ……。
ローダスが慌てて弁明する。
「いやいや! 子供だけど化物なんだ!」
「こんな可愛い子に化け物だなんて、最低ですよ。見損ないました」
うわぁー、完全に侮蔑する目だよ。
でも確かに化け物扱いは酷いよ。こんな愛くるしい子供を捕まえて。
「いや化け物だぞ」
「化け物ですね」
「子供の皮を被った化け物ですよ」
おい、こらお前ら。人の心がないのかね?
あなた達の方が、心のない化け物なのではありませんか。
「はっはっはっ」
視線を逸らすな!
こっち見ろ!
「そうかリットは私に見つめて欲しかったのか。よし。思う存分見てやるぞ」
やめて! 見ないで恥ずかしい!
いや! 言うてる場合か!
くっ! 思わずノリツッコミしてしまった。
「あの皆さん? 子供ですよね? 可哀想じゃないですか」
そうだそうだ! 言ってやれ!
「大丈夫。リットは罵られたり、傷つけられると興奮する性癖があるんだ」
ないわっ!
あってたまるか!
「その……なんて言っていいか。邪魔してごめんなさい」
信じないで! 憐れんだ目で見ないで下さい!
えっ? 引いてるだけ? 余計やめて!
「……誤解ですから信じないで下さい」
「えっと、大丈夫ですよ。……生きていればいい事もあります」
話を聞いてくれ……。