第14話 冒険者アルリエル 2
結論から言おう。私達が出会った少年。リット・アルジェントは、規格外の怪物だった。
魔物が全て駆逐された後、私達はその光景に唖然としていた。
だがすぐに、ハッと意識を現実に向けた。
「お、おい。あれ何もないところから剣を出したぞ……」
「それにすごい数だ」
「……それもですけど、魔法付与エンチャントなんて、あんな小さい子が出来る技術じゃないですよ」
魔法使いのフィリアは、驚きもだが、興味も湧いたような顔をしている。
「少年、君は一体何者なんだ……?」
「あれ言いませんでしたっけ? リット・アルジェント。しがない宿屋の息子ですよ」
少年はそう言って、微笑んだ。
いやさっきも聞いたが。そうゆうことではなくてだな。
そう思っていると、少年がおもむろに何かを取り出した。
回復薬のポーションを何もない所から。
「皆さん怪我をされていますね。これをどうぞ」
空間収納! あり得ない! まだ魔法技術はまだそこまで進んでいないぞ!
となると加護持ちか! 先ほどの無数の剣といい何なんだ……。
頭がついていかなくなるアルリエル。
「ッ! 空間収納だと! 」
「それは加護を持つものしか扱えないはず! なら先程の剣はそこから出したのか」
「すごいものを見てしまいました。まさか最上位の加護持ちに出会えるなんて……」
少年は何故かキョトンとしていた。
どうしたのだろう? あっ、ポーションをくれるのか、ありがたくいただこう。
呆けていたら目の前にポーションを出された。
命を救ってもらっただけでなく、このような気配りまでさせてしまうとは、何か礼を考えなければな。
そういえば先ほど私の胸を凝視していたな。
男は子供でも発情するらしい。
うむ。王都に帰った後、機会があれば見せてやろう。
わっ、私とて初めてだが、子供に見られるくらいなら恥ずかしくはないだろう。
だが裸を見せるのはやはり抵抗がある。
下着の着用は許されるだろうか?
いやっ! 何を言っている私は! 命の恩人だぞ!
命の恩人にその程度の礼だと! 私のプライドが許さない!
よし決めた!
少年、君が成人した暁には、私の身を捧げようではないか!
ふふふ、将来有望そうだしな。私好みに育てるとしよう。
顔もなかなか可愛らしいではないか。
身を捧げるとは言ったが、まだ子供だからな、その時までお預けだ。
初めてなので、その時は優しくしてほしい。
あと出来れば責任も取ってもらえると……。いや図々しいか……。
少しトリップしていると、ローダス達が騒ぎ始めた。
「ん? このポーション美味いな」
「本当ですね苦味が全くないどころか甘いです」
なに? 私も飲んでみよう。……あまーい!
あまい! あと甘いのに喉越しスッキリ。
「少年、これは本当にポーションかい?」
当然の疑問だ。普通ポーションは生薬などの苦味のあるものに魔力を注ぎ込み液状にしたものなのだ。なのにこれは甘く飲みやすい
「みっ! みなさん! 味より効力を気にしてください!」
効力? そう言えば体が楽になったような。
「効きすぎなんです。普通は擦り傷を治す程度なんですよ。みなさんあんなに傷だらけだったのが、お肌ツルツルになってるじゃないですか! あと魔力も回復してるし!」
「言われてみれば」
「いつもケチってフィリアの回復魔法だったからな」
「疲れるんですよ! たまには労ってください! それにしても本当にすごい効果です」
フィリアが驚いているので、自分の体を撫でるように確かめる。
すると、先程まであった傷が消えているではないか。
身体中の傷が消えているだとっ!?
しかも昔の古傷も心なしか薄くなっているような……。
「少年これをどこで購入したのだ?」
少年に購入先を聞いてみる。
「あの、僕の手作りですが」
「「「「えっ?」」」」
……なん……だと!
今、手作りと言ったのか!?
この効力のポーションを子供が!?
もし本当だとしたら、ますます気に入った。
よし、定期的に会えるように、ポーションの定期購入をしよう。
「少年、金銭を払うので定期的に買わせては貰えないだろうか?」
ふふふ、逃がさんぞ少年。私の物になってもらおう。
「お店で売られてる定価でいいですよ」
欲がないな。好感は持てるが、それで生きていくには世界は甘くはないぞ。
これからの教育次第か、未熟な果実を育てて食べる。
うん。たまらんな。
「これだけの効力となると、ハイポーションよりも高くていいと思うんですけど……。欲のない子ですね。それにしてもこれは凄まじい効果です……」
本当だな、その内万能霊薬並みのものまで作りそうだ。まぁ、それはエルフにしか作り方が伝わっていないが。
「いやいや褒めすぎですよ。照れちゃう。ていうかお姉さんも美人さんですね」
「オマケにリップサービスまでしてくれるなんて。アルリエルさん少し高めで大量に買ってあげましょう」
フィリアが褒められ、頰を赤く染めている。
なにっ!? フィリア! 横取りは許さんぞ!
話の流れを切らなければ。ライバルは一人でも少ないほうがいい。
「そうだな……。少年、とりあえず商談は帰ってからにしよう。流石に疲れてしまってね」
ふはははははっ! 自然な流れで話の流れを断ち切ったぞ!フィリア貴様の思い通りにはさせん!
ここで少年から思いがけない提案が出される。
「それでしたら皆さん、是非、黒猫亭にいらして下さい。部屋も二部屋用意しましょう。空いているはずなので」
よし行こう! すぐ行こう!
そうと決まれば宿を引き払って荷物を移さなければ。
うむ。ローダス、ユリウス行ってくれるか。
「わかった。これも何かの縁だ。今とっている宿を引き払って、君の宿に行くとしよう」
さぁ、行こう。その場所が今日から君と私の愛の巣になるのだからな。
少年よ詰みだ。
思わずニヤける。
「では、先行しますので帰りましょうか」
少年の案内で王都の黒猫亭へと歩き出した。
▶︎▶︎
王都に無事到着し、今は少年の宿へと向かっている。
「もうすぐですよ」
「少年はこの区画に住んでいるのだな」
「はい。産まれた時からここに住んでいます」
「わたしスラムに来るのは初めてです」
スラムではないだろうが、人が少ないな。
治安が悪く人があまり出歩かないのかもしれない。
「失礼だろうフィリア。たとえ本当の事でも、言っていい事と悪い事がある」
フィリアにやんわりと注意し、まぁ、自分もそう思ったと、暗に伝える
「はーい。反省です」
可愛らしく敬礼するフィリア。
貴様、少年を誘惑するな! 少年がニヤけているではないか!
フィリアを睨んで牽制する。
そんなやりとりをしていたら、少年が足を止めて振り返る。
「ようこそ黒猫亭へ」
どうやら着いたらしい。
中へと案内される。
店内では女性がテーブルを拭いているところだった。
この女性、どこかで……?
ん? もしかして。いや、まさかな。
女性が少年に話しかける。
「リット帰ったの。あら、お客さんかしら? まだ時間には早いけど」
話し方の雰囲気からして、少年の母親なのだろう。
なるほど、つまり私の義母になる女性だな。
「宿泊希望だよ」
「っ!? でかしたわリット! 最近宿泊客が少なくて困ってたのよ。それに……あら?」
女性が眉をひそめた。
こちらを見ている。
うん。よく知っている知り合いだった。
十数年ぶりだろうか。
久しいな。
「あなたアルじゃない! 」
ふぅ。やはりそうか。
「やはりルーティか! 久しいな! 」
私とルーティはガシッと手を組む。
少年とフィリアがキョトンとしている。
「久しぶりに会って、最初はルーティだとは気づかなかったぞ。老けたな」
いやホント、人族って老けるの早い。
だが大丈夫。少年、私は容姿で人を判断するような愚か者ではない。
だから添い遂げることもできよう。
ルーティは今の言葉で怒ったようだな。全く短気なのは変わらないな。変わったのは容姿だけのようだ。
「……殴るわよアル。エルフ感覚で言うんじゃないわよ」
「ふふふ、それにしても驚いたぞ。リットはお前の子か」
ん? 今自然に少年の名前を言えたな。リット、リットか。悪くない。
名前を言えた喜びで、頰が緩むのがわかる。
「そうよ。似てるでしょ」
問題はそれだな。リットの顔を見るたび、お前を思い出してしまいそうだ。
「お二人は知り合いなんですか?」
フィリアが問いかけてきた。
「「……昔いろいろあって」」
お互い目線を逸らしながら言う。
うん。ルーティ、ここは協力しよう。昔の話はちょっとな……。
「それにしても変わんないわねぇ。いくつになったの?」
意地悪くルーティが質問してくる。
……この陰湿猫め。
「私は永遠の十七歳だ」
リットに年増だと思われるだろう。やめてほしい。
私は唇を尖らせた。子供らしい仕草だろうか?
十七歳。人族換算ではその位だろう。
エルフは大体、人族の十倍の寿命があるからな。
そう思案していたら。思いがけない言葉がリットのいる方から聞こえてきた。
「……アルリエルさん可愛いなぁ……」
あうぅ、ふっ、不意打ちは卑怯だぞ!
意識してしまうではないか。
子供のくせに生意気な。
「あまり苛めてくれるなよ」
そう口にしたら、リットの顔が赤くなった。
なんだ口に出ているとは思ってなかったのか。
ふふっ、嬉しいものだな。
可愛らしいなど、言われた事がなかったからな。
顔を赤くするリットにルーティが。
「リットやめときなさい。美人だけど無茶苦茶な女よ。好きになるなら、私みたいな良い女にしなさい」
ルーティめ、牽制のつもりか?
甘いな。話を少し逸らしてやるか。
「……私なんかを好く男はおらんだろう。それに無茶苦茶なのはお前の息子だ」
「……リットまたなんかやったの?」
また? あぁ、いつもあんな規格外の事をしているのか。
リットが今日の出来事をかいつまんで説明している。
ふふっ、ルーティ呆れているな。
ちゃんと注意もするのか。立派に母親をしているのだな。
眩しいな。
かつての仲間の眩しさに、目を細めながら感慨にふけっていると。
「あっ、ポーションは定価の三倍で売るわね」
搾れるものは搾り取る、したたかな元冒険者だった。
ちゃっかりしているなぁ。
子育ては金がかかるらしい。
ローダスとユリウスが黒猫亭に到着した。
荷物などは後日移す事になり、とりあえず食事をしてから休息をとる事にしたらしい。
リットが料理を作ってくれるらしい。楽しみだ。
リット、いい嫁になれるぞ。
「ルーティ、リットを嫁にくれ」
「あ? ふざけんな若作りババァ」
言ってはならないことを言ったなぁ! 表へ出ろ!
ルーティと言い争いをしていると、チラホラ冒険者達が店に入ってきた。
どうやら私を見て驚いてるようである。
「嘘だろ……! ありゃ疾風の射手じゃねぇか!」
「……おいおいマジかよ。Sランクの冒険者じゃねーか」
「それにしても噂にたがわぬ美貌と覇気だな。近づくのもはばかられるぜ」
冒険者達は口々にアルリエルの噂をしている。
ふん。好き放題言ってくれる。
……興が冷めたな。大人しくリットの料理を待つとしよう。
ん? 何故かリットが燃えているな? どうしたんだ?
私のために一生懸命作ってくれているのだな。嬉しいぞ。
料理ができたようだ。
リットが、次々と料理を運んで来る。自信満々だ。
「さぁ召し上がれ」
リットがそう言うと、私達四人は吹き出した。
リットお前、魔物を駆逐した時の言葉を使うなんて。
くくく。やはりお前は面白い。ますます欲しくなった。見ていて飽きないしな。
他の三人も笑っている。
おや? 君は誰だい? 何? リットの妹?
どうして私を睨むんだ?
「お兄ちゃんは渡しません!」
なるほど、可愛らしい事だ。まぁ後二、三年もすれば兄離れするだろう。
それにしても似てない兄妹だな。
そんな事はいいか。さぁ、食事を楽しもうじゃないか!
「うまいっ!」
「これはっ!?」
「おいしいですぅ!」
うまいっ! 天才か! 毎日食べたいくらいに美味いぞ。
あっ、これからは毎日食べれるのか。
「……美味い。見事だな。リット、君に出会えた今日という特別な日に最大の感謝を」
「ははっ、大袈裟ですよ」
そう言って、リットは恥ずかしそうに頰を掻いた。
「そう言えば、何でさっき料理を持って行った時、四人とも笑ったんですか?」
ん、知りたいか?
そうだなお前が大人になったら話してやってもいい。
その頃には他の三人もいい歳になって、過去の笑い話も盛り上がる。お前も酒が飲めるだろう。
酒の肴には良い話になるはずだ。
だから早く大人になれ。早くな。
私が待ちきれなくなって、抑えられなくなる前に。
あまり焦じらさないでくれよ。未来の旦那さん。
ヒロインがどんどん出てきますが、特にメインは決めていません。
皆さんで推しを作ってくださいね。