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第12話 森から王都へ

 

 ――剣の雨が魔物達に襲いかかる。



 魔物は次々と剣の餌食になって、串刺しになっていく。


 ただの剣ではこうはいかない。魔法を付与してあるのだ。

 料理で肉を切り分ける時によく使う鋭利化(シャープネス)の魔法だ。


 物に魔法を付与することを、魔法付与エンチャントと言う。


 高度な技術で、熟練した魔法使いしか魔法を付与することは出来ないと言うが、リットは加護の力で難なくとそれをやってのけた。

 リットの場合、詠唱などの行程を破棄して付与できる。加護のおかげでイメージのみで出来るからだ。そのかわりいちいち何かを作らなければならないので魔力が人一倍必要になってしまっていた。

 だが、それも神界の修行で魔力上限が上がっていて気にすることはないのだが。




 魔物達の、断末魔の声が響き渡る。




 アルリエル達は放心していたが、少しして状況を理解し始める。



「お、おい。あれ何もないところから剣を出したぞ……」


「それにすごい数だ」


「……それもですけど、魔法付与なんて、あんな小さい子が出来る技術じゃないですよ」




「少年、君は一体何者なんだ……?」



「あれ言いませんでしたっけ? リット・アルジェント。しがない宿屋の息子ですよ」



 リットはそう言って、微笑んだ。



「皆さん怪我をされていますね。これをどうぞ」



 空間収納から、いくつか自作の回復薬ポーションを取り出す。



「ッ! 空間収納だと! 」

「それは加護を持つものしか扱えないはず! なら先程の剣はそこから出したのか」


「すごいものを見てしまいました。まさか最上位の加護持ちに出会えるなんて……」



 ん、剣は即席だったけど。まぁいいか。


 あと空間収納って、最上位の加護なのか。

 派生した能力なんだがな。



「ん? このポーション美味いな」


「本当ですね苦味が全くないどころか甘いです」


「少年これは本当にポーションかい?」



 えっ? ポーションですよ。ポーションって甘い物じゃないんですか?

 蜂蜜とかりんごを入れたせいかな?



「みっ! みなさん! 味より効力を気にしてください!」


 効力? 傷を治すものだろう。現に傷がなくなってるじゃないか。


「効きすぎなんです。普通は擦り傷を治す程度なんですよ。みなさんあんなに傷だらけだったのが、お肌ツルツルになってるじゃないですか! あと魔力も回復してるし!」


「言われてみれば」


「いつもケチってフィリアの回復魔法だったからな」


「私が疲れるんですよ! たまには労ってください! それにしても本当にすごい効果です」



 いやーそんなに褒めてもらえると照れちゃいますね。



「少年これをどこで購入したのだ?」



 ん? リエルさん何をおっしゃっているのですか?



「あの、僕の手作りですが」



「「「「えっ?」」」」



 皆さん本当仲がいいですね。さっきもハモってましたよ。



「少年、金銭を払うので定期的に買わせては貰えないだろうか?」


 本当に気にいってもらえたようだ。

 ただ、原価はほぼゼロなんだよな。


「お店で売られてる定価でいいですよ」


 これぐらいが妥当だろう。ぼったくりと思われたら黒猫亭の評判が下がる。



「これだけの効力となると、ハイポーションよりも高くていいと思うんですけど……。欲のない子ですね」


 いやいや褒めすぎですよ。照れちゃう。ていうかお姉さんも美人さんですね。


「オマケにリップサービスまでしてくれるなんて。アルリエルさん少し高めで大量に買ってあげましょう」



 気分を良くしたフィリアが大量に買うようアルリエルにお願いする。


「そうだな……。少年、とりあえず商談は帰ってからにしよう。流石に疲れてしまってね」


 苦笑しながらアルリエルが帰ることを希望する。


「それでしたら皆さん、是非、黒猫亭にいらして下さい。部屋も二部屋用意しましょう。空いているはずなので」


「わかった。これも何かの縁だ。今とっている宿を引き払って、君の宿に行くとしよう」



 僕の宿ではないですが……。いずれは僕のか。

 ふふふ。次期店主か。悪くない。


 思わずニヤける。




 では、先行しますので帰りましょうか。




 ▶︎▶︎




 無事王都にたどり着いた僕達は、黒猫亭へと向かっていた。


 冒険者ギルドへの報告と宿の解約があるため、ローダスとユリウスはそちらに回ってくれた。



「もうすぐですよ」


「少年はこの区画に住んでいるのだな」


「はい。産まれた時からここに住んでいます」


「わたしスラムに来るのは初めてです」


 スラムじゃねーよ。人が少ないだけだ。

 お客さんそこそこ来るんだぞ。


「失礼だろうフィリア。()()()()()()()()()、言っていい事と悪い事がある」


 アンタもだよ! 濁す気ないよね!


「はーい。反省です」


 敬礼するフィリア。


 くっ! あざとかわいい。



 そんなやりとりをしているうちに黒猫亭に着いた。



「ようこそ黒猫亭へ」




 二人を中へと招くと、ちょうどルーティが机を拭いているところだった。


「リット帰ったの。あら、お客さんかしら? まだ時間には早いけど」


「宿泊希望だよ」


「っ!? でかしたわリット! 最近宿泊客が少なくて困ってたのよ。それに……あら?」


 ルーティが眉をひそめた。


 どうしたんだ母さん?

 まさか部屋埋まってた?


 だがルーティが眉をひそめた理由は、そんな事ではなかった。


「あなたアルじゃない! 」


「やはりルーティか! 久しいな! 」


 二人はガシッと手を組む。


 えっ? 二人とも知り合いなの?



「久しぶりに会って、最初はルーティだとは気づかなかったぞ。老けたな」


「……殴るわよアル。エルフ感覚で言うんじゃないわよ」


「ふふふ、それにしても驚いたぞ。リットはお前の子か」


「そうよ。似てるでしょ」



 嬉しそうに会話する二人。




「お二人は知り合いなんですか?」


 そんな二人にフィリアが問う。



「「……昔いろいろあって」」


 お互い目線を逸らしながら言う。


 なるほど聞くなということか。

 気になる。



「それにしても変わんないわねぇ。いくつになったの?」


 意地悪くルーティが質問する。


 エルフは長命だ。アルリエルもそれなりなのだろう。

 ルーティの言い方で察した。



「私は永遠の十七歳だ」



 唇を尖らせて言う仕草は、本当に十代の若者のようだった。

 アルリエルは美人なので二十代くらいにしかみえないが。


 おっと、女性に年齢のことを言うのはタブーか。



 ただ、アルリエルが美しく可愛いことには違いないな。


「あまり苛めてくれるなよ」


 おや、口に出てしまっていたようだ。

 恥ずかしい。


 顔を赤くするリットにルーティが。


「リットやめときなさい。美人だけど無茶苦茶な女よ。好きになるなら、私みたいな良い女にしなさい」


 無茶苦茶なのか? いや、むしろ無茶苦茶にされたいです!

 あと自分で良い女って言うかね。



「……私なんかを好く男はおらんだろう。それに無茶苦茶なのはお前の息子だ」


「……リットまたなんかやったの?」


 失礼な。いつも問題を起こしてるみたいに言わないでもらいたい。





 その後、今日の出来事をかいつまんで説明した。

 ルーティに呆れられつつ、注意を受け自重する事になった。


「あっ、ポーションは定価の三倍で売るわね」


 搾れるものは搾り取る、したたかな母だった。





 ローダスとユリウスが黒猫亭に到着した。

 荷物などは後日移す事になり、とりあえず食事をしてから休息をとる事にしたらしい。


 僕の出番だな。

 腕によりをかけます。


 料理を作り始めると、チラホラ冒険者達が店に入ってきた。

 アルリエルを見て驚いてるようである。



「嘘だろ……! ありゃ疾風の射手じゃねぇか!」


「……おいおいマジかよ。Sランクの冒険者じゃねーか」


「それにしても噂にたがわぬ美貌と覇気だな。近づくのもはばかられるぜ」



 口々にアルリエルの噂を話している。


 えっ!? リエルさんってSランク冒険者なの!?

 疾風の射手!? なんかカッコイイ!


 新事実に驚愕のリット。


 これは半端なものは出せないぞ。

 そう意気込むリット。



 次々と料理を運んでいく。自信満々だ。



 ()()()()()()()


 そう言うと、四人が吹き出した。


 えっ? 何で?


 アルリエルは笑っている。

 笑った顔も美人だなぁ。


 というか、なぜみなさん笑っているのですか?


 おっとエヴァ居たのかい? 眉が寄って美人が台無しだぞ。


 なぜかエヴァに怒られてしまった。



 四人が、食事をはじめた。疲れていても腹はへる。誰もが一心不乱に料理を口へと運んだ。


「うまいっ!」

「これはっ!?」

「おいしいですぅ!」


 お口に合ったようで何よりです。


「……美味い。見事だな。リット、君に出会えた今日という特別な日に最大の感謝を」



 ははっ、大袈裟ですよ。



 そう言って、リットは恥ずかしそうに頰をかくのだった。



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