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彼女は書店員
一人の女性が、古めかしいアパートに住んでいる。
名前は園田清子。26歳の社会人だ。
ふちが赤色の眼鏡をいつもかけ、長い黒髪はいつでも艶やかである。
彼女は毎朝自室の前の廊下を掃除することが日課であった。
「おはようございます、清子さん」
「おはようございます」
清子が掃除をしていると隣の部屋から男性が出てきた。数か月前から隣に越してきたのである。茶色のふわふわとした髪は清子に犬を連想させた。
年齢は24。清子よりも二歳年下だがしっかりとした新社会人である。
彼とは出会ってまだ間もないが、その真面目さと人懐っこさに清子はひそかに惹かれていた。
もっとも、清子は元来人見知りをしてしまう性格であったためできる会話は朝の挨拶のみであった。
「今日も1日、頑張りましょうね」
「はい、頑張りましょう」
人懐っこい笑みにかすかに微笑み返す清子。男性は急ぐようにアパートを出て行った。
その後ろ姿を見送った後に清子は自室に戻り自分も出勤するための準備を行った。
ほんの少し高鳴った胸は、いつしかの青春時代を思い出すかのようで、彼女にとってはくすぐったいものであった。