間話~従者の疑問~
ルナとリースがどうやって攫われたのか?を解説する話
間話ですがナオヤも登場します。
ルナとリースがどうやって攫われたのか?
高い知能を有し、戦術眼まで持ち合わせた識者。
相手を感電させて行動を封じる電撃の魔法を使い、怪我を治す回復魔法まで行使する。
動物であればほとんどのモノを従わせる能力を持った存在。
それがルナというこの世界で唯一しゃべる兎だ。
そして同行していたのは森の民エルフという種族の生まれであるリース。
不完全ながらも精霊魔法や妖精魔法を使用でき、森で狩人をしていたので気配を読み隠す事に慣れた者。
身体能力こそ高くないがその辺りの人にむざむざ捕まったりする訳がない。
だからこそナオヤは疑問、どうやって攫い、拘束し続けているのかが解らなかったのだ。
その疑問を解消すべくナオヤはその時の様子を聞いたのだが、ありがちな話でありながらも随分考えさせられるものだった。
事件のあった当日、町の中央広場では市が並んでおり、物珍しさもあってルナとリースは屋台や露店を練り歩いていた。
お互いに森育ちだし、町に来たことがあるリースも小さな子供だった為、すごく興奮していた。
ルナにしてもなぜか知識としては知っているが実際に見るのは初めての市の活気に飲まれ、浮かれていた。
だから彼女らを狙う存在に気が付けなかったのだ。
「すごいですね、いろんな物がありますよ」
「そうね。あれは何かしら?」
ローブ姿の怪しい子供に見えるリースは目立っていた。
その恰好自体目立つ要素になるのだが、それよりも肩に背負う存在、ルナを肩車して歩いているがゆえにとても目立っていた。
二人はこの辺りで出歩くのが初めてだったので、この辺りをよく利用する人や露天商たちは愛らしい白い兎を初めて見る。
この世界では白い獣は全て聖獣と思われている節があるので、それはもう目立っていた。
しかも聞き耳を立てればその白い兎がしゃべっているようだし、まるで人の様な仕草までする。
目立つ要素満載な二人だった。
立ち寄った店先では兎がしゃべる事に驚いて大きな声を上げる人々。
愛くるしい見た目にやられて表情を緩める女性や子供たち。
中にはルナの事を知っている者が居て、まるで神の御使いを相手にするように下手に出る。
それでなくとも騒がしい中央広場の市は今日だけお祭りのように盛り上がっていた。
「おっと、ごめんよ」
だから人とぶつかる事もあり、リースはルナを肩車しておいてよかったと思っていた。
いくら通常の兎よりも一回り大きいとはいえルナは人の幼児ほどの全長しかない。
もしルナが地を歩いていたら蹴り飛ばされていただろうから。
そして先ほどぶつかった男の子はリースよりもちょっと小さい程度の身長の子だった。
服装があまりにもみすぼらしい恰好だったのでなんとなく行方を見送った。
「はい、どうぞ。銅貨2枚だ」
「あ、ありがとうございます」
「店主さん。さっきの子供は何かしら?」
「ああ、あれか。移民崩れの孤児だろうな」
「移民崩れ?」
「そうだぜ、兎さん。ここ数年多いんだよ。隣国の経済が立ち行かなくなってるらしくてな、この国に移住してくる奴らが多いんだ」
「なるほどね。最初の頃は良くても何年も続けばそれを受ける皿が不足している、という事かしら。そして子供だけが残って、国も対処できない子が増えていくのね」
「そういう事だ。しかしすげえな、兎さん。すぐに理解しちまうなんて」
「誰か面倒みる人はいないのですか?」
「孤児院は基本的にはこの国出身の子だけしか救わないんだよ。まあ、国はよくやってくれてるしこれ以上望むのはなぁ」
「生活があるものね、手を差し伸べたくても出せないのが普通よ。ところでリース、お代を出して頂戴」
「あ、そうですね、すみません」
「おう、生活為だから貰わないとな」
「あれ?財布どこにやったんだろう?あれれ?」
「あー、もしかしたらさっきのガキに掏られたのかもな」
「ええ!?ど、どうしましょう?」
「取り敢えず今日のところはお代はいいや。次来た時にでも払ってくれ」
「そう?ではツケておくわね、ありがとう」
「本当に変わった獣だな、兎さんは」
窃盗行為をしなければならない事情には同情するけど取られた財布には少ないながらもお金が入っている。
だから取り返そうと思って二人は先ほどの子供を追いかけた。
追い付くのはとても簡単だった。
なぜならルナが近くに居た小鳥や野良猫などの獣に呼びかけたし、リースが屋外であればどこにでもいる風の精霊に聞いたからだ。
その男の子は中央広場から十分ほど歩いた裏路地に居て、誰かと話し込んでいるようだ。
気配を消して近寄ると、相手はガラの悪そうな大人だった。
「おい、ロン。お前抜いただろ」
「はぁ?やってねえよ。掏ったまま持ってきたよ、その財布」
「銅貨が4枚しか入ってないんだよ。市だぞ、市。あそこに買いに来るようなやつがそれだけしか持ってない訳ないだろ!」
「し、知らねえよ、そんなの!」
「嘘つくんじゃねえ!」
「がっ!?」
「やっぱり持ってるじゃねえか。1、2、ふん、10枚か。まあまあか、これだと」
「か、返せよ!それは俺んだぞ!」
「うるせえ!」
「がっ!?」
「ふん、お前の妹がどうなってもいいのか、ロン?」
「そ、それは!」
どうやらあの男の子は妹を人質に取られて掏りなんてやっているらしい。
ルナとリースは顔を見合わせて頷いた。
「ほら、もう一回行ってこい」
「ちょっと待ってもらえるかしら?」
「何もんだ?」
「お、お前らは!」
「財布とお金を返して欲しいのだけれど、ってどうしたのよ?」
「「しゃ」」
「しゃ?」
「「兎がしゃべってるううううううううう!?」」
「五月蠅いわよ、サンダーボルト!」
「ま、魔法!?な、何者なんだ、お前は!」
「そういえば名乗ってないわね。私は」
「きゃ!?」
「リースどうし」
「おっと動くなよ、兎。あと魔法を撃とうとしたらこいつを殺すぜ?」
いつの間にか背後に迫っていた男はリースを腕を押さえ、首に禍々しい短剣を突き付けていた。
「それで抵抗せずに捕まったわけか」
「そういう事よ」
「あの時は油断してすみませんでした」
「仕方ないわ、相手が悪かったもの。5年も逃げ続けた賞金首だから隠形も得意だったのでしょうね」
「それに魔法を撃っても打ち消されただろうし、ちょっときつかったろうな」
「そうね」
「それであのアジトへはどうやって連れて行かれたんだ?」
「あの人攫いたち、農民を装ってるのまでいたのよ。荷馬車なんて持ってきてそれで運ばれたわ、荷物みたいにね」
「徹底してるなぁ。しかし途中で暴れたりしなかったのか?隙ぐらいありそうなもんだけど」
「あの子がいたし、捕まっている子たちも助けようと思っていたのよ。だから大人しく連れて行かれたわ」
「なるほどな。アジトまで行ってから魔法でやっちまおうとしてたのか」
「そういう事よ。でもまさかあんな首輪があるなんて思わなかったし、リースもね」
「リースちゃんがどうしたんだ?」
「そ、その、屋内で魔法がほとんど使えないって伝えてませんでしたから」
「ああ、リースちゃんは魔法使えないとアレだもんな」
「アレってどういう意味ですか、ナオヤさん?」
「いやいや、深い意味はないよ?そ、それより何もされてなくてよかったよ」
「誤魔化したわね」
「誤魔化しましたね」
「そ、そんな事ねえし!本当に心配だったんだよなー、変な事をされてないか、とか!」
「変な事ねえ?何を想像してたのやら、厭らしい」
「厭らしくねえよ!な、なに言ってるんだよ、そんな訳ねえよ!勘違いするなよな!」
「何をそんなに必死になって否定してるのよ」
「ど、どんな事を想像したのですか、ナオヤさん!?ま、まさか!」
「リースちゃんも何言いだすんだよ!?」
「ちょっと揶揄うつもりだったのだけれど、やっぱりナオヤの性癖は」
「それ以上言うんじゃねえ!?いい加減にしろよ、ルナ!そうじゃないとお前の毛を全部剥いじまうぞ、こらぁああ!」
まあ兎も角、無事に救出できて幸いである。
でも騒ぐのはそれぐらいにして大人しく寝てろよな、お前ら。
隣の部屋に泊まった人たちに迷惑だぞ?




