5-19
遠く離れた西の国の賞金首であるグレンが5年間捕まらなかった理由が今回である程度判明した。
賞金首となった依頼主を殺害する事件の後、グレンは拠点を転々と変えて盗賊として活動していた。
国を変える度に部下も変えるほど用心深かったので、部下に対して長期的な予定を一切話さない男だったようだ。
また拠点を確保するとその国で商売相手を探し、移動するときには相手の連絡役を殺して証拠も出来るだけ消す徹底ぶり。
同じ場所に半年以上留まらないなど、随分知恵の回るやつなのだ。
そして魔剣のグレンという二つ名の元になった魔剣だが体験した通り魔法を無効化する能力を持った短剣であり、それを自在に操れる腕を持っていた。
元々鉄証クラスだったグレンの戦闘力はかなり高く、賞金首狙いのギルドメンバーもかなり返り討ちにしていたそうだ。
そして俺の鉈を弾いた義手がやつの奥の手だったようで、これは賞金首になった後に取り付けた物だった。
俺と同じようにグレンを倒そうとしたやつらはその義手に武器を弾かれ、命を落とす。
これらが理由だ。
だがいくつか判明していない事があり、それらはグレンが死亡した所為で不明のままである。
「賞金首に賭けられていた賞金の授与ですが」
倉庫での戦いから3日後、俺たちはギルドの東支店に訪れていた。
ルナの魔法でほとんどの傷が癒えたとはいえ、俺は瘴気塗れの魔剣の一撃を受けたし、ルナやリースは数時間拘束されていたので丸二日休暇に当てていたのだ。
特にルナの消耗が激しく、あの時かなり魔力を消費して無理をしたので珍しくぐったりしていた。
リースの話ではおそらく魔力切れと呼ばれる、体内に宿る魔力が枯渇寸前まで消費したために起きている症状との事。
命に別状はないらしいが、身体能力を含めた肉体的な疲労感も半端なく襲うのでずっと毛皮に包まって眠っていたのだ。
俺とルナがそんな状況で動けないのでリースが俺たちの世話を二日間してくれたのだが、何というかあの時涙ながらに抱き着かれたのを思い出してしまって恥ずかしくて仕方なかった。
そして俺がそんな状態だから伝染したのだろう、リースはまるでどじっ子のようなミスを連発しまくる。
甲斐かいしくも慌てて世話をするリースはまるでラブコメに登場する美少女に見えて、リースは男なんだと自分に言い聞かせるのがすごく大変な一日だった。
そんな一日が過ぎて翌日の昼前にルナが目覚め、様子見も兼ねてもう一日療養したのちこうしてギルドへやってきたという訳だ。
やってきた理由は今回の事件の顛末を聞くため。
まず人攫いの一味だが、リーダーであったグレンが死亡したため壊滅したのだが数名生き残りが居た為、現在は背後関係などを尋問中らしい。
尋問で現在分かっている事は、この国での活動は5ヵ月前から行っているようですでに20人近い移民の子や孤児を奴隷として売り払ったとの事。
売り払い先はまだ全部吐いていないらしいが判明しているところだけは既に国が対処を行っている。
そして今回ルナたちを売ろうとしていた男爵についてだが、嫡子が勝手にやっていた事らしく、嫡子は色々と余罪があるらしく処刑されることになる。
その男爵家だが爵位を取り上げられ、東側の管理は別の貴族が配属される予定になっているらしい。
人攫いと嫡子の繋がりだが何者かに仲介されたらしく、その辺りは現在調査中でまだ判明していないそうだ。
そう、グレンの件で判明していない事の一つがこの仲介役の存在で、生き残った人攫いによればグレンとは以前から付き合いがあるような感じだったようだ。
仲介役の調査は国だけではなく総合ギルドの総力を挙げて当たっているのだが、全くと言っていいほど情報がないそうだ。
なにせローブ姿の人物で、その時によって男にも女にも聞こえる不思議な声と顔だちだったらしく、おそらく認識阻害魔法の使い手か魔道具を身に着けたと思われるからだ。
国やギルドから賞金が懸けられた賞金首となったそいつは便宜上ノーフェイスと呼ばれる事になった。
人攫いに関してはこれぐらいしか聞けなかったのだが、あの時助けた子供たちは無事に保護され親元にちゃんと返されたらしい。
それについては本当に良かったと安心した。
そこまでを聞いた後、グレンの賞金首の報奨金の話になったのだが。
「そういえば金貨10枚だったわね」
「おおお!それだけあれば暫く依頼を受けなくていいよな!」
「そうですね!折角ですからゆっくりしましょうね、ナオヤさん」
「そうだな!」
「お渡しできません」
「「「え?」」」
何故か貰えないらしい。
「おいおいおい。どういうことだよ、キロロ?」
「そ、そうですよ。ちゃんとナオヤさんが倒しましたよ」
「倒したのは私よ、リース。まあ、そこはよいわね」
「まさかグレンが賞金首じゃなかったとかか?でも、キロロがあいつを賞金首って言ったよな?」
「彼は賞金首である魔剣のグレンで間違いありません。あの魔剣、魔術殺しの刃はグレンが持ち主で間違いありませんし」
「だったら何でだよ?」
「理由が二つあります。まず一つ目ですが証拠の品であるあの魔剣が瘴気を纏っていたというナオヤさんの発言です」
「俺の?」
「はい。瘴気は魔族が発する物ですし、先日の農園の件もありますから王都の学者さまが研究材料として押収されました」
「はぁ!?」
「それはおかしくないかしら?賞金首を倒した場合、その賞金首の持ち物は倒した者が所持する権利を得るのでしょう?なぜ私たちの断りもなく押収されたのか聞かせてほしいわ」
「そうだよ。アレはちょっと使いたくない武器だったけど一応所有権は俺たちにあるよな?」
「その件ですが王命ですから諦めてください」
「「ええ!?」」
「王命ね。どういう事かしら、ちゃんと教えてもらえるのよね?」
「もちろんですよ、ルナさん。瘴気による害虫の変異に関連する事項は最優先で対処するよう王より命が出ています。ですから」
うん、いつも通りルナが主導で話し合いになってしまったな。
そして俺とリースは完全に空気になってて、偶にリアクションするぐらいだ。
いつも通りなんだけど、なんだかなぁ、と思わなくもない。
でも俺たちの中で一番冷静にしかも上手く交渉できるのはルナだからこれは仕方がない。
仲間なんだから得意な事を分担する適材適所な行動だ。
ルナが知能労働、俺が肉体労働、リースは何だろう?
チームで見るとマスコットポジションなんだけど、見た目だけで言えばそのポジションはルナなんだよな。
そう考えるとリースが不憫に思えてきた。
「リースちゃん、強く生きろよ」
「いきなり何を言いだすのですか、ナオヤさん?そういえばナオヤさんとルナさまってお互いに名前で呼び合うようになったのですね。何かあったのですか?」
「リースちゃんも唐突だな。特に何もないよ。まあ、心境の変化かな。仲間なんだから別におかしくないと思うけど?」
「仲間だからですかー、そうですかー」
「ど、どうしたんだよ、リースちゃん?」
「別にー、なんでもありませよー」
突然不機嫌になってしまったのだが、リースは怒っても全然怖くない。
むしろ可愛いぐらいだから美少女はすごい。
あ、リースは男だからエルフはすごい、だったな。
この考えで解ると思うがリースは女じゃなくて男だと無理やり思い込むんじゃなく、リースは男の娘なんだと思うように思考を切り替えた。
そう考えたらなんかすっきりして悩まなくて済むようになったのだ。
本人に話したらすげえ怒りそうだけどな。
などと俺とリースが蚊帳の外状態になっている間もルナがキロロと話し合っていた。
なんだか雰囲気良くないから現実逃避してたわけじゃないぞ?
「そういう事ね。でも先に一言あるべきだわ。信用を失うわよ、ギルドが」
「その事につきましてはギルドは関与していません。いえ、関与できません。それに責任者が説明して頂けるでしょう」
「証拠として提出した先はギルドなのだけれど、まあいいわ。それよりも責任者って誰なのかしら?」
「ファーロン王その人です。ルナさんをはじめナオヤさんとリースさんにも召喚命令が出ています」
「「「え?」」」
「魔剣の魔法無効化を打ち破った魔法の件で確認しましたら魔族を倒したのもその魔法だったとか」
「え?ルナさまは魔族を倒したのですか?」
「他にも高位のギルドメンバーが居たわよ」
「王に今回の事も含めて耳に入ったそうでぜひ直接褒美を渡したい、と仰せです。ですから準備が済み次第王都に向かってもらいます」
「それって強制なのか、キロロ?」
「そういえばナオヤさんは他国の方でしたね。通常王族からの召喚命令を断る方はいませんよ、よっぽどの理由がない限り」
「ほぼ強制じゃないか、それ。うーん、どうするよ?」
「わ、私はナオヤさんに従います」
「正直デメリットの方が高いわね。ところで謁見しないと報奨金は貰えないのかしら?」
「そうですね、報奨金の受け取りを辞退するなら謁見は回避できると思いますが。ただギルドとしては受けて頂きたいですね」
「それはあれね、断ったらギルドは敵に回るという事よね。はぁ、詰んでるじゃない」
「え?別に総合ギルドから別のギルドに移籍すればよくねえか?」
「王の招集を断った者を誰が受け入れてくれるのよ」
「うわぁ、最悪じゃないか。おい、キロロ」
「何でしょう?」
「ハメやがったな?」
「言いがかりですよ、ナオヤさん。正当な評価を受けただけではありませんか。断る理由はありませんよね?」
キロロのやつ、俺がドキっとするぐらいの満面の笑みを見せて頷きやがった、言葉では否定してるけど。
関係改善はされたけど、ある意味前より容赦がなくなった気がする。
こいつ、絶対ドSだろ。
「なんか、ナオヤさんとキロロさんが仲良くなってますね」
仲良くはなってないぞ、リース。
ただお互いに嫌わなくなっただけだぞ?
何でそんなジト目で俺をみるんだよ。
「そうね。二人で行動している間に何かあったのではないかしら」
おいおい、ルナまでそんな目で見るんじゃありません!
一番関係改善したのは俺たちだろうが!
なに、この居た堪れない雰囲気。
俺が何したって言うんだよ!
はぁ、まあ、兎も角、王からの招集という事で俺たちは王都へ向かう事になった。
この町での生活も慣れてきたところなのにもう移動か。
でもここでは碌に情報収集できなかったし王都へ行くのは選択肢としてはありなのか。
そう考えたらちょっとは気分がマシだった。
「解った。準備するから王都へ行こう。王都行きの馬車とかすぐあるのか?」
「乗り合いでしたら定期便が日に2度ありますから昼過ぎでしたら今日出れますよ」
「じゃあ、それで行くか。二人ともそれでいいよな?」
「ええ、私は問題ないわ」
「私もです」
「そういう事だ、キロロ」
「解りました。それでは準備します」
「え?ギルド側でも準備があるのか?」
「私も同行するからです」
「「「え?」」」
「よろしくお願いしますね、ナオヤさん。先日お見せした通り私もそれなりに戦えますからお任せください」
「「「な、なんだってー!?」」」
こうして俺たちは王都へ行くことになったのだが、なぜかキロロもついてくる事になったのだった。
お読みくださってありがとうございました。
この話で第5章が終了となります。
この章はバトルよりも町での生活を主にしてギャグ少な目でシリアス多めにしてましたが、長すぎましたね!
途中で限が良いところで章分けした方が良かったかもしれません。
これで主要メンバー全員揃いましたので、後はゲストキャラクターが入れ替わり登場する感じです。
*あらすじを変更する予定です。
次回は閑話と人物紹介です。
なお、その段階で一旦投稿を休止しまして書き貯めさせていただきます。




