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白兎の従者~一文字で大きく違う異世界転移~  作者: ゆうき
第1章 それはルイスキャロルのような異世界転移
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1-6

「さて、私がどうと言うよりも問題があるわね」


俺が目の前の兎に付いて考え始めると、当の兎はそんな事を言い始めた。


「しゃべる兎以上の問題なんてあるのか?」


「あなたが大好きなアニメで考えてみなさい、この後の展開を」


兎はカウンターの前で話し合うノランたちに視線を向けながらそう続ける。


この後の展開?


一緒に食事をして、俺たちがこの後どうするかと言う話になるだろうな。


そして、所持金0な俺たちには宿代をはじめとした稼ぎが必要になるから


「冒険者としてデビューだな。定番じゃないか」


「本当に馬鹿ね、あなた。確かにその展開も含まれているわ」


「一々と、この兎は!」


「いい?私たちはどうやってこの山に、もっと言えばこの世界に来たの?そしてそういう体験をした存在の確率はどれぐらいだと思うの?」


「え、あ、そういやどうやって転移したんだ?まったく解らないぞ」


「でしょう?私たちは少なくとも正体不明な存在なのよ、会話できる動物という要素以上にね」


「もしかして、その辺も含めてノランさんたちは話し合ってるのか?」


「可能性は否定できないわ。さて、いい?これから即急に決めなくてはならない事があるの」


「なんだよ?」


この白い毛むくじゃらの齧歯類である兎は偉そうにそう語ると、俺の返答でやれやれと言わんばかりのリアクションをとる。


かなりむかついたが、これはお前も考えろ、と言う合図なんだと、今までのこいつとのやり取りでなんとなく解ってしまった。


俺が考え始めたのを察したのか、兎は右前脚でリズムよくテーブルを叩き出し、催促するような雰囲気を醸し出し、俺の考えを待っているようだった。


俺が見て読んできた異世界転移、トリップ系統モノで有りがちなのが、次元の穴に落ちて異世界へ転移、何者かに召喚されての転移が主流だ。


いきなり山に現れ、周りに召喚者と思われる者が居なかったことを考えれば、次元の穴か、召喚の不具合でと言う事になるだろう。


幸いな事に未知の言語を会話読解が可能という状況を鑑みれば、召喚タイプのトリップなのだろう。


そして、出会った後のノランや村の人々の反応から察するに、黒髪の人種はそう珍しくないとも予想できる、東国と言うのも聞いたし。


あと召喚に関しても公表されていない可能性が高い。


もし公表されているのであれば、それらしい人物として聴取されていただろうしな。


さて、ここら辺の事を鑑み、兎の言う問題とは


「俺たちの設定を決める必要がある、だな?」


「ええ、正解よ。さらに言えば今後の事も踏まえた設定ね」


「今後か。大前提として俺たちが元の世界に帰れるか、と言うのもあるよな」


「ええ、そうね。それは今考えても仕方ないわ。帰れる可能性も視野に入れて決めましょう」


「そうだな。まずは生まれ、出身国となぜここに来たのかだな」


「それはあのオスが言っていた東国で良いと思うわ。話しぶりからしてあなたのような人間が住んでいる国のようだし。あと一般市民の学生と言ってしまったから、それも忘れずにね」


「東国出身の学生だな、解った」


「この山に、いえ、この国に来た理由が問題よ。そうね、こうしましょう。あなたはちょっとした事件に巻き込まれて身の危険を感じたから、着の身着のまま出国」


「おお、それらしいな!」


「所持金で何とか食い凌ぎ、近くまでやってきたけどそれも尽きた。衣服が新しいのは、そうね、入国するに際して以前の服は捨てて、取り置いていた貴重な形見を着ているとしましょう」


「確かに金がない。服の事は決めるほど重要なのか?」


「あなたね。まあ、良いわ。解説すると、あのオスの反応とこの村の衣服から考察したら、あなたの衣服はとんでもなく高級なの。たとえ最安値のファストファッションブランドでもね」


「最安値は余計だ。いいじゃねえか、安くて着易いんだから」


「はぁ、あのね。見た感じ中世なのよ?あなたの大好きなアニメでもあるでしょう?化学繊維の衣服が一財産になるって」


「あ、そんな展開もテンプレだな。と、言う事は俺の持ってる装備品なんかもかなり価値がありそうだな」


「そういう事。だから、あなたが一般市民の学生と言ってしまったから、それで通すけど、相手はあなたの事を貴族の嫡子ぐらいに感じてるはずよ」


「うわぁ、マジでか」


「まあ、そこは勘違いさせておきましょう。あとはそうね、あなたのお爺さまの供養を兼ねて、と言うのは、お爺さまがこの山に来たことがあった、と置き換えなさい。初対面だからああ言いましたとね」


「お、おお。しかし、よくそんなにポンポン思いつくな」


「レディの嗜みよ」


「はいはい、レディレディ」


「あなたね、足りないにも程があるわよ。見た目、頭、言動、どこにあなたの良いところが存在するのよ?」


「なんだと、この齧歯類!毛剥いで吊るすぞ、こらあああ!」


「なんですって!」




「取り込み中すまんが、ちょっといいか、ナオヤ?」


俺と兎が言い争いから、殴る蹴る、噛みつくにまで発展したあたりで、ノランが近寄ってきた。


あと、猫耳少女のミラさんも。


「なんですか、ノランさん?」


俺は兎を手で押し返しながらノランに向き直り、覚えておきなさい、と言う言葉は無視して対応することにした。


おそらく話し合いが決着して、俺たちへの対応をしにきたのだろう。


さて、ここを上手く乗り切らないと、とても面倒な事になりそうだ。


「ああ、なんだ。そのナオヤは東国出身でいいんだよな?」


「ええ、まあ、その通りです」


「なんでまた、東国の学生さんがこの国に来たんだ?」


「それは、その」


やばい、こんな大人数に対して嘘の過去話とかすごく緊張する。


よく考えれば有りそうで無さそうな話だけに、いきなりこんな話をしだす馬鹿は居ないと思うんだが。


「ああ、彼にも事情があるのよ。話さなくちゃいけないのかしら?」


「いや、無理にとは言わない。ところで、白い兎さんよ。名前とかないのか?」


「あら、これは失礼。窮地を助けて頂いた方に名乗らないなどとあるまじき事をしていたわ。私はルナよ」


「白兎のルナな、解った。ところでナオヤとルナはどういう関係なんだ?」


「ぐうぜ」


「私たちはちょっとした縁故よ。彼のお爺さまと私の祖父母がね」


そういや、兎の設定や俺との関係性を決めてなかったな。


思わず本当の事を言いそうになったが、兎がインターセプトしやがった。


これは、乗っておいた方がよさそうだ。


おい、齧歯類、俺をそんな目で見るんじゃない。


「そうなのか?」


「ええ、まあ。この山に辿り着いた後初めて出会いましたが」


「と、言う事は、ルナのような兎が他にもいるのか?」


「それはないと思うわ。私の祖父母、厳密に言えば何代も前は白兎だったと聞いているけど、私の両親は茶色い毛並みだったもの」


「動物もそういう会話するんだな、人間と会話できないだけで」


俺が関心して頷くと、兎は、あんたね、と言わんばかりな目で見てくる。


その視線から逃れるようにノランの方を向けば、ミラさんがなんかメモのよなモノを取っている。


おそらく調書でも取っているんだろうが、やはり俺たちは不審人物としてマークされているようだ。


あ、紙は厚いけどそれなりに発達してるんだな。


「俺も初めて聞いたぜ」


「それで、本当は何が聞きたいのかしら、ノランさん?」


「ああ、そうだな、ちょっとまどろっこしいやり取りだった。端的に言うぜ、ナオヤ」


「え、ええ、はい」


「お前何者で、何しにこの国に来たんだ?」


やはりそういう事だったか。


兎が懸念した通りの展開な訳だが、さて、先ほど決めた嘘話をここで披露するのか?


こういう展開になった時の主人公たちが取っていた対応を考えろ、俺。


あいつらはどうしていた?


「何者も何も、ただの旅人で、所持金もない、見たままに貧相で、ただの哀れなオスよ、彼は」


「てめえ、なんてこと言いやがる!」


俺が長考しているのに業を煮やしたのか、毛むくじゃらの齧歯類は俺をディスりやがった。


「実際にそうでしょう?お金もなく、水袋も失うし、着ていた服も破れすぎて着れなくなったから形見にまで袖を通す始末。さらに言えばこの国に伝手もないじゃない」


「確かに服は転ろげ落ちて破いたよ!水袋やその他の荷物もその時に亀裂へおさらばだ!なんか、文句あるのか!」


「ええ、あるわよ。あなたね、私への貢ぎ物はどうしたのよ?私、白き衣を纏いし高貴なる白兎のルナさまなのよ?新鮮でおいしい野菜を提供しなさい!」


「うるせええ!ただの毛むくじゃらが高貴とかあるか、このめろう!」


「お、おい、ナオヤもルナもやめろ、ここで暴れるな!取りあえず、なんとなく解ったから質問は打ち切るから落ち着け、な?」


俺たちが突然暴れだしたので周りはドン引きし、ノランは見かねたのか止めに入ってきた。


俺と兎は取り敢えず一時休戦とばかりに引き下がったが、兎のやつは、にやり、とした表情を作る。


まさか、計算ずくでこのやり取りをしてうやむやにしたのか、この齧歯類?

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