5-15
「ギルドへ手配しました。ですが人手が足りませんので私もそちらに向かいます」
「ああ、そうだな。俺ももちろん行くぞ」
ギルドへ戻った俺たちは早速移民のギルドメンバーへの聞き込みを依頼し、野営場所へ聞き込みに向かった。
移民たちが野営を行っている地点は大きく分けて東と西の二つになり、北と南にはないそうだ。
なぜかと言うとほとんどの移民は西側かから流れてくるし、町の物価から行くと東の方が安いからだ。
基本的に移民はお金がないのでどうしても物価が安いところに集まるし、北や南は東と物価が変わらないとなればわざわざ東から移動しない、それでこういう分布となってるそうだ。
おおよその流れとしては西でまずは仕事を探し、見つからなければ東に流れてくる。
この辺りの事を考えると西に残っている移民というのは移住が成功した人たちだから住処も見つけているだろうし、野営している人たちも悪事に係ったりしないだろう。
そうなると人攫いたちは東で野営しているような生活に困っている人たちを狙うはずだ。
なので東支店では重点的に東側を捜索し、他の支店や衛兵に情報を伝えて警戒してもらう。
そして東側にある夜営場所は数十か所あり、とてもではないが人手が足りず、半ば緊急依頼のような勢いで東支店の全メンバーで当たる事になった。
支店長に代わってほぼこの支店を取り仕切っていると言っても間違いではないキロロの判断で行われたのだが、思いっきりの良い事だ。
俺としては兎とリースが心配だからありがたいんだけどな。
「もし人攫いたちに出会った場合は戦闘もありえるんだが、キロロは大丈夫なのか?」
「魔法が使えますし、護身術も嗜んでいますから問題ありません」
「へえ」
「何ですか?何か問題ありますか?」
「いや、別に馬鹿にしてるとかじゃなくてだな、ギルドの受付嬢ってのは戦闘もできるんだな、と感心したんだよ」
「全員ではありませんよ、一部の受付嬢は嗜んでいます。私の場合は出自の所為ですね」
「総ギルドマスターの関係者だからか?」
「ご存じなのですね。叔父上はこの国の伯爵ですし、私にもその血が流れていますので護身の必要があったのですよ」
「やっぱり貴族だったのか。なんでまた受付嬢なんかを?しかも東支店で」
「それは」
「あ、やっぱいいわ。聞いたら変な事に巻き込まれそうだ。これ以上変な事に巻き込まれたくない」
「そう、ですね。申し訳ありません、巻き込んでしまっています」
「いや、別にあんたを責めてる訳じゃないんだが」
なんというか、数時間前まで険悪だった関係のキロロから素直に謝れると変な気分になってくる。
まあ、キロロは元々黙ってれば美人だし、俺への敵意がなくなれば今までの事は水に流してもいいかな?とか思ってしまう。
だからだな、そんな本当にすまなさそうな表情で謝れたら、こっちが悪い事してるみないな気分になるんだよな。
「と、ところでだな。やっぱり貴族相手に呼び捨てってまずいのか?いや、こんな口調でしゃべってる時点でダメぽい?」
「本来でしたら不敬罪が適用されると思います。ですがこの国はそれほど厳しくありませんし、私は現在貴族位にありませんので」
「そうかそうか、ちょっと安心したな。でも最後の情報は聞きたくなかったなぁ」
「そうですね、また巻き込むところでした」
「キロロって冗談を言えるやつだったんだな。ああ、それと俺とそんなに歳は変わらないだろうし、丁寧にしゃべらなくていいぜ」
「そうですね。ではお言葉に甘えてそうさせてもらいます。ですが私これで普通ですから。ところでナオヤさんはお幾つ何ですか?」
「一応二十歳だよ。こっちの人らにはかなり幼く見られるけどさ」
「あ、年上だったのですか。ちょっと待ってください。私を何歳だと思っていたのですか?」
「え?やり手ぽくて落ち着いてるし二十歳かそこらだと」
「わ、私はまだ十六歳です!本当にナオヤさんは失礼な人ですね!」
「え、キロロってそんなに若かったのか!?」
「どういう意味ですか!」
俺への態度が軟化したのは良いんだけどさ、すっげえ怒らせちまったよ。
やっぱり異世界でも女性は年齢関係はタブーなんだなと理解できた。
うん、キロロとそんな感じで騒いでいる場合ではなかったな今は。
そろそろ一つ目の野営場所に到着するし、ここからは気を引き締めていかないとな。
野営場所を3件ほど回ってみたが今のところ有力な情報はなく、ただ新たな情報として孤児となってしまった移民の子が行方不明なるケースがあるようだ。
俺たちが回った場所ではなく違う場所で起きてたらしく、移民たちの中でも噂になっているらしい。
その件を衛兵などの国に報告しなかった理由は彼らがこの国に不法滞在しているからで、下手に報告しに行けば追い出されるからだ。
国も移民については頭を悩ませているらしいが解決策も出ていないので、彼らの存在を見て見ぬふりをしているのが現状だとキロロが教えてくれた。
そんな者たちだから人攫いの対象になりやすく、また、犯罪者にもなりやすい。
早急にどうにかした方がよいのだろうが、難しい状態だ。
「うーん。やっぱり移民が絡んでそうなんだがな」
「そうですね。ただ、おそらく彼らは真実を語らないでしょう」
「なんでだ?」
「下手にしゃべってしまうと犯罪者の片棒を担ぐ事になりますし、同じ境遇の者を密告するようなものですから」
「なるほどな。だとしたら無駄足が増えるけどしゃべってくれる人を探して回るしかないか」
「そうですね。ナオヤさん、ちょっと隠れてください」
そろそろ次の場所に到着する寸前だったのだが、突然キロロに引っ張られ建物の影に連れ込まれた。
「おい、なんだよ」
「静かにしてください。怪しい動きをしている人がいます」
「え?どれだ?」
「あの集団の中で唯一動き回っている男です」
「あれがか?普通に溶け込んでそうに見えるけど?」
「よく見てください、何か振る舞ってます」
「臨時収入でもあったんじゃ?てか、話し掛けてみればいいんじゃないか?」
「貰い手側が不審がっているように見えますから知り合いではなさそうです。それに話し掛けてもしらを切られるだけかと」
たしかに知り合いに奢ってもらってるようには見えないな。
あれだと偶々やってきた男が酒でも振る舞って話し掛けているようにみえる。
そう考えたら確かにあの男の行動は怪しく感じるな。
「このままあの男性がどう動くのか観察しましょう。もしどこかに移動するなら追跡も」
「それだったら俺が見ておくからキロロはギルドに知らせて来てくれよ」
「一人で行動するのは危険です」
「確かにそうなんだけどさ。お、離れるようだな」
その男はしばらくその集団に話し掛けていたが、用事が済んだのか移動し始めた。
俺とキロロはうなずき合ってから追跡を開始したのだが、どんどんその男は町の南側に移動しているようだ。
こっち側には来たことがなかったのでどんな物があるのかが全く分からない。
もしやつが人攫いの犯人だとしたらそっち側に拠点でもあるのだろうか?
「南側に行ったことがないんだが、どんな場所なんだ?」
「ほとんど農地ですね。ただこちら側は現在休耕地になっていますから人があまり近寄らない、いえ、通過するだけの地域です」
「現在の拠点を作るならピッタリな場所だな。荷馬車なんかに入れて運べば誰も不審に思わないじゃないか」
「そうですね。そこに居るかは分かりませんが、拠点の一つぐらいあっても不思議ではないかと」
「ん?なんだあの建物?」
「たしか脱穀庫ですね。収穫した作物を脱穀したり一時保管する倉庫で、この時期は完全に無人のはずです」
「周りには畑しかないし、多少騒いでもバレないよな。てか、光が漏れてるぞ、そこから」
「そうですね、あそこが拠点になっているのかもしれません」
男は倉庫に近寄り、しばらく入口辺りで止まっていたが扉が開いて中に入っていった。
中からは僅かだが光が漏れていたし、誰か別の男が中から開けたよな、今の。
本来無人であるべき場所に誰かが居る。
しかも夜間にわざわざ入っていくなんて人攫いじゃなくても問題があるよな、絶対。
もしかしたら違うかもしれないが、確認する必要はありそうだ。
「よし、近寄って確認しよう」
ここまで来てふと思ったのだが、兎とリースが人攫いに遭っていたとしてだ。
あの二人をどうやって無力化したんだろうか?
リースの直接戦闘力は低いかもしれないが、兎の雷魔法をどうにかできると思わないのだが。
今まであの魔法に耐えたのって魔族だけだし、普通の人間では対処できないはずだ。
犯人は一体どんなやつなんだ?
お読みくださってありがとうございました。




