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白兎の従者~一文字で大きく違う異世界転移~  作者: ゆうき
第5章 やっぱり甘くない異世界の町
54/62

5-13

「今日の依頼は確か」


「王都の学者様との共同研究です」


兎とリースが行方不明と聞いてかなり同様してしばらくフリーズしていたが目の前のキロロもどことなく落ち着かない雰囲気、焦っているのが分かって逆に落ち着けた。


今日兎に入っていた指名依頼は先日も麦の件で、どうやって魔法道具に細工をしたのか、なぜ害虫に作用を及ぼしていたのか、あれが作物にどういう影響を与えるかの研究に協力するものだった。


王都から偉い学者がわざわざ足を運んでやってきているという事で、町の中央まで出かけていたのだが、帰りに別れた後、行方が分からなくなっている。


キロロも行き帰りに同行していたのだが、兎と足代わりのリースは折角中央まで来たのだからと魔法道具や装備を購入の為に別れたらしい。


その後数時間経ってもギルドに現れないので学者の元や中央の道具屋などに聞いてみたが戻ってきておらず、俺のところに来たそうだ。


一応道具屋と武具店には立ち寄ったようで、購入こそしなかったがしゃべる兎が珍しかったので店員もちゃんと覚えていたらしい。


そして最後に確認できたのは町の中央にある広場の露天商だそうだ。


「あの時間帯ならまだ市が立ってますからそこで見て回っていたようですね」


「その後の足取りが分からないのか。一応神殿にも回ってみたか?」


「神殿?なぜでしょう?」


「あいつ白い上にしゃべる獣なんだぜ?あんたも思ったろ、聖獣じゃないかって」


「あ、そうですね。急いで確認しに行きます」


「俺も行くぞ」


「足手まといです」


「うるせえ、解ってるよそんな事。でもチームメンバーの事なんだぞ?寝てられるかよ」


まだ体調は万全じゃないのは自分でも解ってるし、土地勘もない。


それにキロロみたいに顔が利く訳じゃないから聞き込みとか上手くいくとは思ってない。


でもな、いくら気に入らないやつでも兎は仲間なんだよ。


リースだって付き合いは短いがもう仲間なんだ。


俺は今回の事でやっとそのことに気が付いたんだ。


仲間がピンチだったらそれを助けるのは当然じゃないか。


部屋着の上からマントを羽織り、鉈とナイフを佩びて気を引き締めた。


「案内してくれ」


「解りました」




女神教の神殿はこの町でも中央に存在し、そこまでの移動は辻馬車を使った。


ど田舎の村に見えるこの町は、規模だけいえば都市になるのだから町の東側から中央に行くまでに相当時間が掛かる。


入れ違いになってはいけないからギルドに立ち寄って確認してみたがやはり立ち寄ってはおらず、そこから馬車での移動だ。


俺は初めて中央までやってきたのだが、この辺りになると流石に俺が想像する異世界の都市という雰囲気になり、道は土だがしっかり補整されており、建物も石造りな物が多かった。


そういった物を視界に収めつつ、あの二人が居ないか辺りを見回しているがやっぱり見当たらない。


やがて辻馬車は中央広場まで到着した。


すでに夕方近くになっているので市は並んでおらず、人通りもそれほどない、という状況だ。


「ここから少し行ったところに神殿があります」


「そうか。一応不敬になるかもだから先に言っておくが、俺と兎は神殿に近寄るつもりはないからな、本来」


「神殿でそれを言えば本当に不敬ですね」


「プルーフの照明であいつは聖獣じゃないと出ているからな。それなのにあいつがあんなだから女神教にとっては邪魔になるだろ?」


「排除されると考えているのですか?それはあり得ません。女神教は白き獣は聖獣であろうとなかろうと大切にします」


「普段ならそうだろうな。でも今は魔王がいて、勇者が選ばれたんだろ?たしか聖獣は勇者と共に選ばれるだよな?」


「そういう事ですか。害を与えないとしても聖獣として召し抱えるぐらいはしそうですね」


「そっちだったらまだマシなんだがな。あいつは嫌がってからどっちにしろだな」


「勇者様の従者になれる事は名誉な事ですが、なぜ嫌なのでしょう?私には理解できません」


「こっちだってそれが理解できないぜ。なんで魔王との戦争に同行したいんだよ」


「戦争ではなく討伐です」


「あんたは魔族と戦ってないから言えるんだよ、そんな事。あいつらは人間以上に頭が良くて強いんだぜ?」


「一応記録は見させてもらいましたが、大げさですね。こちらは勇者様が居て人が国が連合を組んで戦うのです。魔物たちがどうこうできる訳ありませんね」


「その記録がちゃんとした物だったらだけどな。それであの白いのがそうなのか?」


「記録が正確ではないと?ああ、あれが女神教の神殿です」


馬車では特に会話らしい会話もしなかったが、行きたくなかった神殿に行くのだから情報収集ついでに話をしながら歩いていた先に白い建物が見えた。


全体的に白い、あっちの世界の教会を思わせる建物だ。


一応この世界の唯一存在する宗教である女神教は、神官たちが在中する場所を教会と呼ばずに神殿と呼んでいる。


女神教の総本山とかが神殿と言われたら納得できるのだが、町にあるような神殿って要は布教活動の拠点なんだろ?


それなのに教会と呼ばずに神殿と呼ぶのはちょっと理解できない。


詳しい事は俺も解らないけど、たしか神殿は神が地上に降りる場所だったり仮初の家で、教会は神の教えを人々に広める為の場所だったはず。


そして神官という存在は、神殿では神の家を維持し支える者たちで、教会では神の代わりに人々に教えを説いたり悩みを聞いたりする者たちだった覚えがある。


そういう意味がこの世界でも通用するのなら、町にあるのは教会だと思うのだが、兎の考察だと現世還元される世界だしプルーフみたいな神がいるから神がそこにいるという認識なんだろうと。


じゃあギルドなんかも神殿になるんじゃ?と思わなくもないが、そこは宗教家なのか国家なのかの違いだろういう事だ。


そしてそんな神殿なのだが誰でも自由に出入りできるようで、さっそく神官に声を掛けてみた。


「すみません、ちょっとお聞きしたいのですが」


「何か御用ですか?」


「実は人を探していまして。こちらに兎を連れた子供が来ませんでしたか?ローブ姿で背はこれぐらいなのですが」


兎とリースの組み合わせだと、子供が兎を連れてるように見える。


ローブをすっぽり被った子供というのも怪しいので、絶対忘れないと思う。


そう考えてもあの格好は目立つしやめさせたほうが良いかもしれないな。


ところで、俺が丁寧に接してるからだろうか、キロロがいつも以上に俺をうさん臭い者を見るような目つきで見てくる。


俺も流石に初対面の人間に横柄に対応しようと思わないぞ。


失礼な奴や敵対する奴にはそれなりの対応はするけど、お前にも最初は丁寧だったろうが。


「私は見ていませんね。ちょっと待ってください、他の者に聞いてみます」


「ありがとうございます。ついでに中を拝見しても?」


「よろしいですよ、どうぞ」


神殿の中に入ると、やはり教会と言ったほうがしっくりくる作りになっている。


壁際には沢山の神を模した像が立ち並び、天井には宗教画が描かれている。


この世界のガラス製造技術はそこまで発達していないから、ステンドグラスなんかはないけれど。


そして奥の方には礼拝堂のような場所もあり、ひと際大きな神の像、女神と思われる石像が立っていた。


初めて見たけどこの世界の宗教は偶像崇拝を当たり前としているようで、しかも像もかなりの力作だと解る出来栄えだ。


あまりの出来のよさに、そのまま動き出しそうな雰囲気まであるもんな。


「すごいな、まるで生きてるみたいだ」


「あなたにそんな感性があったのですね」


「言うじゃねえか。良い物は良いと誰だって思うはずだぞ」


「そうですね、獣でもそう思うはずです」


「はっ、人を獣扱いか。やっぱり程度が知れてるな、あんたは」


絡んでくるなら話しかけてくるなよ、うっとうしいなこいつは。


と、思ったあたりでこちらへ近寄ってくる人影が見えた。


俺が声を掛けた神官と明らかに高位だと解る神官、他の神官よりも豪華でしっかりした作りの神官服を身に纏った男だ。


この男はキロロの知り合いのようで俺を一瞥した後、キロロに笑みを浮かべて話しかけた。


「これはこれは、キロロ様。ようこそおいでくださいました」


「お久しぶりです、神官長。いえ、今は司祭長でしたね」


「ご存じでしたか。ご当主様はご健勝ですかな?」


「ここ最近会っておりませんが、便りがありませんので健康ではないかと」


「そうですか、それは何より。ところで人を探しているとか?」


「はい。ギルド員なのですが、どうも行方が解らなくなりまして」


「わざわざキロロ様がお探しに?それほど優秀な人材なのですか」


「指名を頂くほどの方ですので。それに私が斡旋しましたから」


「ほう!キロロ様直々に対応するほどの御仁ですか」


「ええ、とても素晴らしい」


「申し訳ありませんがよろしいですか?」


キロロとこの司祭長だという男のやり取りに気になるところがあるけど、今はそんな場合じゃないし、キロロが余計な事を言う前にこちらの要件をすましたい。


だから声を挟んだのだが、司祭長は一瞥したときと同じようにこちらへ侮蔑交じりの目線を向けてきた。


うん、これだけで女神教が汚職塗れぽい事が見て取れた。


やっぱり接触は避けるべき場所だな、ここは。


「この男はどなたですかな?」


「探しているギルド員のチームメンバーです」


「ほう?」


侮蔑交じりは変わらないが、こちらを値踏みするような目で見まわしてくる。


すげえ気に入らないし、おっさんに見られてもうれしくない。


だからさっさと要件を言っておいた。


「ローブ姿の子供で兎を連れているのですが、ご存じありませんか?昼過ぎ頃から行方が解らなくなっているのです」


「子供ですか?それが優秀な人材と?」


「その者の連れ子です」


「なるほど、主人に代わり探していると」


「ええ、その通りです」


「そうですか。私どもは見ておりませんがキロロ様の頼みです、こちらでも探しておきましょう」


「ありがとうございます」


「司祭長、そこまでして頂くのは」


「なに、お世話になっているキロロ様の為です。お任せください」


「よろしくお願いします。早くご主人様に吉報を届けたいので、私はこれで」


「ええ。できましたら今度その御仁もお連れください」





「なぜあのような嘘を?探すのなら神殿の協力はとても有力です」


司祭長に別れを告げて神殿を後にしたのだが、俺が速足で歩いている後ろからついてきたキロロは不機嫌に声を掛けてきた。


俺が神官に嘘を言ったのが気に入らないらしい。


「俺たちが神殿と係りたくないと言ったよな?」


「それとこれとは話が別です」


「それにリースはエルフだぞ?それなのに兎とリースの事を馬鹿正直に話したら目を付けられるじゃねえか」


「それは」


「あんたはギルドメンバーの隠したい個人情報をばらすやつなのか?事前にちゃんと公にしたくない旨を伝えたはずだぞ?」


「ですが神殿の協力があれば!」


「兎とリースが見つかったとしても今度は神殿があいつらを確保するだろうさ。そうなった時にあんたはそんな事言ってられるのか?」


「神殿は民を傷付けたりしません」


「俺達には目的がある。その目的の為に神殿が協力してくれたとしても、その後を神殿の良いように使われるとしたらごめんなんだよ」


「ですから勇者様と魔王を倒す事は名誉だと言ったはずです。なぜ解らないのですか、あなたは?」


「名誉なんてのはいらないし、俺たちにはそれ以上に重要な物があるんだよ」


「魔王討伐が最優先です!何を言ってるのですか、あなたは」


ああ、やっと解った。


キロロはおそらく支配者階級、この国の貴族とかそんな出自なんだろうな。


総ギルドマスターの血族らしいが、ギルドが国が管理している組織だし、その組織の長が国の関係者なのは当たり前だよな、よく考えたら。


そりゃあ貴族さまだから面子とか国の為とかは当たり前だろうけど、庶民としてはそれよりも生活や家族の方が大事と理解できないんだろう。


魔王を倒さないと魔物が凶暴になるようだし居なくなって欲しいけど、それを自分たちで倒しに行きたい、倒す手伝いがしたいとはまず思わない。


俺や兎だってこの世界の住人じゃないから余計にその傾向は強いし、あっちに帰れるならそっちを優先したいからな。


ただ知り合いが困っていたり生活の為の仕事というなら戦うし、手伝いはするさ。


それにアニメの登場キャラクターみたいにそういうのにちょっと憧れる気持ちもある。


でもな、それよりも仲間の方が大事なんだよ、俺は。


「ふぅ。そっちの話はどうせまた係ってくるから後回しだ。今はあいつらを探さないと」


「納得いきませんがそうですね」


これで手がかり無し、という事が判明した訳だ。


全く無い訳じゃなくて立ち寄った場所と最後の目撃情報はあるんだ、なんとかそこから割り出さないと。


ああ、こんな事なら探偵モノのアニメも見てれば良かった。


正直、この後どうすれば良いかまったく見当がつかないんだが。


どうしたもんかなぁ。

お読みくださってありがとうございました。


久しぶりの連日投稿させて頂きましたが、ちょっと腕が痛いです(

さて、次回の更新ですが書けたら投稿となりますから近日中には!

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