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白兎の従者~一文字で大きく違う異世界転移~  作者: ゆうき
第4章 やっぱり甘くない異世界の旅
35/62

4-4

明日投稿予定だった分を前倒しで投稿してます。

みんなは旅をしたことがあるだろうか?


日本に住んでいるなら学校行事での遠足や修学旅行を体験しているだろう。


俺の場合はそれにプラスして趣味は登山だ、と公言できるぐらい幼少期から何度も遠出している。


親父の仕事の都合で住まいを転々としていた経歴もあるので、生まれは関西だが関東や北陸にも転居した事がある。


登山の場合だと電車での移動がほとんどで、転居の際は親父が運転する車だ。


目的が登山や転居なので厳密には旅ではないかもしれないが、長時間の移動を経験しているという点では変わりないので、旅の経験は豊富だと思う。


その長時間の移動だが、みんなは長時間と言われて何時間を想像する?


おそらく1時間と答える人がほとんどで、感覚で物を言う人なら長いと感じたら長時間、と答えると思う。


俺の場合は、飽きた、と思いだしたら長時間と答える。


いきなりこんな事を言い出してるのは、要するに俺は馬での旅をすでに飽き始めているからだ。


「平和だな、マジで」


「そうね、良い事だわ」


「うん、平和も平和。すげえ平和だ」


「はぁ、もうはっきり言えば良いじゃないの、飽きたって」


「お?お前も飽きてたのか?」


旅が始まってすぐに馬を追い掛けるという嫌なイベントに遭遇したが、それ以降何事もなく、温かい日差しに照らされるつつ、森の中に作られた道を走らせている。


俺たちは依頼を含めてエント村の西側へはあまり出かけていなかったので、最初の頃は物珍しく眺めていた。


ただ同じ地域にある森なんだから植生は同じだし、棲んでいる獣たちも大きな差はなく、見渡せど道と森しかない風景に飽きが来てしまったのだ。


兎のやつは馬や近寄ってくる小鳥なんかの小動物と会話してるから飽きてないようだが、会話できない俺はただ見てるだけ。


引っ越しの時に車を運転する親父が暇そうにしてたのが、ものすごく解る状況だ。


子供だった俺は本を読んだりゲームをしたりアニメを見たりと暇を潰す事ができたが、運転をしなくてはならない立場だと暇だからと居眠りもできない。


うん、今まで散々苦労掛けたな親父、と心の中で感謝した。


さておき、兎はそんな感じで暇になる要素もなかったのに俺と同感なのかと疑問がでたのだ。


「そんな事ないわよ。どちらかと言うと忙しいわね」


「ほう?何に忙しいんだ?」


「情報収集よ。この先で休憩に適した場所とか薬草の生えた場所、危険なモノがないかを聞いてるのよ」


「あー、なるほど。しっかし、動物と会話できるってのはやっぱり便利だよな。俺もできれば暇が潰せるし、色々役立てるんだが」


「異種族との会話は本来できないのだから諦めなさいな。人、獣問わず会話できるのは世界で唯一、神が認めた高貴なる存在、そう私にしか許されない特権なのよ」


「はいはい、高貴高貴」


「本当に失礼よ、あなたは。私の従者としての自覚を早く持ちなさい」


「一生持たねえよ!あ、異種族と会話と言えばガダブリルのやつもなぜか会話できたな」


「そうね」


自身の存在を魔族と称したガダブリルは人間に近い容姿をしたゴブリンだった。


ゴブリンとも会話可能で、それだけではなく人間とも会話できた。


更にやつは高度な戦術を用い、人間たちに侵攻を仕掛けてきたのだ。


エント村に居たギルドメンバーや自警団員と協力し、何とかやつが率いるゴブリンの群れを討伐できたが、かなりやばかった。


事前に危機感を募らせていた熟練メンバーのノランと兎の機転で、ゴブリン殲滅作戦とエント村襲撃が重なり、村が襲われる前に倒す事ができた。


あの時警戒もせずに攻め込まれていたら間違いなく村は落とされていただろうし、村人の殆どが殺されていただろう。


もし攻められた時にすぐさま門を閉めて村に籠城していたとしても、ジェネラル級やキング級に柵が壊されて村は蹂躙され、何とかゴブリンを討伐できたとしても被害は凄まじいものになっていたに違いない。


魔族という存在が如何にやっかいだと解る出来事だった。


「異常なほど頭が良くなってたし、瘴気とかの影響で脳みそも含めて変質してたのかもな」


「そうね、そうかもしれないわね」


「じゃあ、お前」


と似たようなものだし、お前も魔族だったりしてな?と軽口を続けようとしたが、できなかった。


真実神が証明した種族は白兎だったが、兎とガダブリルの共通点が多すぎる。


だが、俺が抱きかかえるこの白い兎がそんな存在だと思えない、いや思いたくなかった。


もしそうなら、兎と一緒に日本から転移した俺はいったいどうなんだ?と思ってしまったからだ。


自分の存在にも係る事だ、それ以後この事に付いては一切考えない。


兎からも特に声は掛からなかったので、同じ思いなのかもしれない。




あれからお互いに沈黙したまま町へ向けて道進む。


特に何かイベントがあるわけでもなく、偶に聞こえる小鳥のさえずりと蹄の音だけが響く。


牧歌的と言えばよいのだろうか、そういう雰囲気を味わいながら数時間が過ぎた。


その間ずっと馬を走らせているのだが、この世界の馬はかなりタフなようで、一切休憩を欲しがらない。


馬に付いてまったくと良いほど知らなかったのだが、村人に聞いた限りでは人が食事休憩や睡眠をとる時に同じように食事や休息を取らせばよいそうだ。


日本で馬と言えば競走馬、いわゆるサラブレッドを思いつくが、農耕馬とかは走力よりも体力や持久力が必要だろうしそういう種類の馬なんだろう。


見た目もデカくて黒王号や松風とか名がついてそうな奴らだし、三国志の赤兎馬みたいに1日で400kmとか走りそうだよな。


まあ、それぐらい凄い馬なのだ、こいつ。


俺に対してはすげえ失礼だけれども。


なんて事を思っていたら突然馬が止まりやがった。


「ブルル」


「おっと、いきなりどうしたんだ?」


「この先にゴブリンの群れが居るようなのよ」


「へ?この辺りってゴブリンは居ないんじゃなかったっけ?」


「ガダブリルの影響なのか、魔王の影響なのか分からないけれども、ゴブリンたちの生息地が変わったのではないかしら」


「どっちにしろ定期便とかが通る時には危ないな」


「その前に私たちが危険なのだけれどもね」


「まあ、そうだな。で、道を塞いでたり待ち伏せしてたりするのか?」


「いえ、道の近くの森に居るようね。速度を上げて走り抜けるか、奇襲をかけて殲滅するか、どちらにするか悩んでいたのよ」


「その群れ以外には居ないのか?」


「群れは2つね。ただ距離はそれなりに離れているみたいだわ」


「んー、という事はだ。1つ目の群れを逃げてももう1つの群れと遭遇する可能性があると。そんで下手すると群れが合流なんてのもあり得るのか」


「そういう事よ。あと群れの規模が分からないから奇襲を仕掛けて良いかも判断に迷うところだわ。」


なるほど、確かに悩みどころだ。


もしかすると上位種も居るかもしれないしな。


駆け抜けるにしても戦うにしても決定材料に欠ける状態だ。


そう言えばこの馬はどれぐらいのスピードで駆け抜ける事ができるんだろうか?


村を出てから全速力で走っているところを見ていないのだが、体感だと時速15kmぐらいは出ている。


本気で走れば原付バイク並みの速度は出るんだろうが、その速度で果たして振り切れるかも解らないな。


まあ、解らないなら本人に聞いてみればいいか。


通訳がいるんだしな!


「で、こいつはなんて言ってるんだ?」


「この子は2つとも駆け抜ける自信があるみたいだわ。ただし、かなり揺れるから振り落とされないようにしてほしいそうよ」


「だったらそうする方が良くねえか?」


「そうするとしばらく休まなくてはいけなくなるから移動距離が短くなるわよ?」


「ん、どうせ食事もちゃんと取りたかったし、それでいこうぜ」


「ええ、そうしましょう」


「おう!さあ、全速力でたのむぜ、はいよう!」


「ブルル」


「って、おいおい。ちゃんと走れよ!」


「命令するな、ですって。」


「こ、この駄、いや、うん、走れよ、ちゃんと!」


「うふふ。学習したようね、ちゃんと。この子たちは賢いのよ。言葉は解らなくても何となく何を言わんとしているのかは理解できるもの」


「ぐ、くそ、なんか悔しい!」


「まあ、それよりも行きましょう。さあ、行ってちょうだい」


「ヒヒーン!」


「おのれ、何時か目にもの、って結構速いな。すげえ速えな、いや凄いってものじゃ、速や過ぎるわあああああああああ!」


「ちょ、ちょっとあなたそんなに強くだき、むぎゅ」


馬の野郎は兎の指示に従って駆けだしたのだが、最初は時速10kmぐらいだったがだんだんとスピードが上がっていき、揺れも酷くなっていく。


そしてトップスピードになろう頃には体感で時速60kmオーバーの速度で駆け抜け、もうその衝撃は凄まじいものがある。


正直しがみ付くのがやっとで周りの景色を視れる余裕がない。


途中まで兎が五月蠅く何か言っていたが、今は全く聞こえず風切る音と激しい蹄の音しかしない。


「「「「「グギャギャ!」」」」」


なんかゴブリンらしき姿と声が聞こえた気がするがそれもすぐに遠のき、どんどん道を進む。


だんだんとスピードに慣れてきたので薄目を開けて前を見れば、遥か前方に何かが居るのが見えた。


それは数人の人影に見えたので慌てて止めようと手綱を握るが馬は反応せず、トップスピードを維持したまま駆け続ける。


業腹だが兎に頼むしかないと、舌をかまないよう気を付けつつ声を掛けた。


「おい、前方に人影だ。この馬を止めてくれ。おい、聞いてるのか?おーい!」


のだが兎の反応がない。


風切り音がひどくて聞こえていないのか?と思い兎を見てみれば、返事がない理由が解った。


「って、こいつ気絶してやがる!なんて軟弱な齧歯類だ!このまま捨て、ってええええええ、ひたかんだゃ」


なんて事をしている間にもどんどん人影が大きく、その姿がはっきりしてきた。


そいつらは緑褐色の肌に尖った耳と大きく裂けた口、そうゴブリンだった。


しかも7体も居るようで、そいつらが道の真ん中で円陣を組んで何かしている。


このまま行けば確実にゴブリンの群れに突っ込む。


「やべええ、どょうひたら」


「ヒヒーン!」


俺の心配をよそに馬のやつは蹴散らすぜ!とばかりに嘶き駆け抜ける。


その嘶きもありこちらに気が付いたのかゴブリンたちがこっちを向いた。


「「「「「「「「グギャギャ?」」」」」」」」」


さて、ここで質問です。


あなたが小学生の頃、道路でサッカーとかして遊んでいた時にバイクが突っ込んで来たらどうしますか?


答え、急いで逃げます。


「「「「「「「「グギャアアアアア!?」」」」」」」」」


それはゴブリンたちも同じようで、まるで蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


だが、日本だろうが異世界だろうが関係なく、こういう時にドジなやつはいるもんで、先ほどまで叩いていた獲物をどうするか迷って動かないやつもいた。


まあ、そんな奴がどうなるかと言えば、答えは簡単だよな。


「グギャアアアアア!?」


「ヒヒーン!」


哀れ逃げ遅れたゴブリンは暴走馬に轢き殺され、そのまま背景として消えて行くのでした。


「ああはなりゅたくにゃいな」




そのまま駆け続ける俺たち。


もう完全にゴブリンの群れを振り切った。


のだが馬のやつは止まる気配を見せない。


先ほどから手綱を絞り、腹を蹴っているのだが、一行に速度が変わらない。


まさか、兎が止めるまでこのままなんじゃないだろうな?と不安がよぎる。


「おい、起きろ!そしてこの馬を止めてくれ!」


声を掛けようが揺すろうが完全に気を失っているようで、全然目を覚まさない。


一応生きてはいるようで、ぴくりと耳や髭が反応はする。


だが、このまま夜まで目を覚まさなかったら。


「おい、マジ起きろって!このままだったら、いずれ馬がこけて俺ら死ぬって!おおい、この齧歯類、早く目を覚ましやがれえええええ!」


「ヒヒーン!」


「ちょ、スピード上げるんじゃねーよ!?おい、止まれって!マジ、止まれ!お願いだから止まってくれえええええ!?」


結局馬が速度を緩めたのはそれから10分後の事だった。


マジ落馬しなくてよかったぜ、俺!

今回もお読みくださってありがとうございました。


先日操作ミスで日に2話投稿してしまい、今日繰り上げ前倒し投稿しました。

ちょっと予定が狂いましたが、毎日18時予約投稿で行くつもりですので、よろしくお願いします。


さっさと第4章書き上げなくちゃ(汗

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