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白兎の従者~一文字で大きく違う異世界転移~  作者: ゆうき
第3章 異世界の森での危険すぎる緊急依頼
25/62

3-7

「今よ、突撃なさい!」


「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」」」」」


「く、気勢を制されたか!だが、我が軍に敗北の二文字なし!進軍!人間どもを駆逐せよ!」


「「「「「「「「「「「ぐぎゃぎゃ!」」」」」」」」」」」」


弛緩した雰囲気を再び壊すように兎が進軍を告げ、武器を構えた人々が咆哮を上げて走り出す。


遅れてはなるものか、とガダブリルも進軍を告げればゴブリンたちも咆哮を上げて駆け出した。


30対100の戦い。


数字の上では完全に人間側が不利な状況を、兎のやつはタイミングを制して出鼻を挫いた。


これだけで3倍以上の差を覆すのは難しいが、上々の滑り出しではないのだろうか。


皆と同じく駆け出そうとした俺を引き留め背負わせた兎の戦術家としての腕前は、悔しいが称賛に価する。


それは敵、ゴブリンを纏める存在であるガダブリルも同じようだった。


「戦意を失いかけていた兵を鼓舞しただけではなく、茶番でこちらの気勢を挫くとは中々の腕前よ。だが、これだけの戦力差をここからどう打ち負かす?」


右手に持っていた剣を地に刺し、腕を組んでこちらを睨み、笑みを浮かべる。


その両脇にはジェネラル級の2体が控えており、まずは兵だけでの戦いを楽しんでいるように見えた。


対する兎も笑みを浮かべて返答する。


「うふふ、逆に問うわ。森の女王である私に、その領域である森で勝てると思っているのかしら。まさか数で押すだけの策しか考えられない残念な思考しかない、と言わないわよね?」


「森の女王だと?ふん、なるほど。貴様が我が策に気付いた者か。兎ながら天晴である。だが所詮は兎、獣風情に我が王道を阻む事叶わずと教えてくれる」


「ゴブリン風情が言うわね。良いわ、どちらが戦術家として優れているか教えて差し上げてよ」


ここで、お前らただの最弱系魔物と齧歯類じゃん、とか、戦場でしかもこの距離でよくお互いの声が聞こえるな、とか言ってはダメなんだろうな。


俺は兎と違って空気を読めるから言わないけれど、戦記物のアニメなんかを見ていて思っていたことだが、リアルで見ても不思議でしかない。


やっぱり異世界だから不思議パワーが働いてるんだろう、と取り敢えず納得しておいた。


兎を背負い、黙って戦況を見つめる俺。


あれ?これって軍師が跨る馬ポジション?






俺が自分の存在意義に疑問を持ちながらも、花畑の戦場は動いていく。


数が多いと言っても武器を持った戦闘集団であるギルドメンバーと自警団員の前に、ただのゴブリンはその数を減らしていく。


ただ、やつらの中でも互角以上の戦いをする者、ゴブリンナイトの存在がこの戦いを不利なものとしていた。


出鼻こそ挫いて有利に進めていた俺たちだが、戦いが進むにつれて、ナイト級に手こずってしまい、普通のゴブリンに押し込まれる。


このまま行けば人間たちは囲まれ、その内蹂躙されるだろうと、予見させた。


現在奮闘中の彼らもその事は解っているようで、どうにかしようとノランと熟練3人組が囲いを破ろうとナイト級を率先して倒している。


だが、それも焼け石に水、そう思える状況だった。


その光景を見ていたガダブリルは笑みを強め、声を上げて笑った。


「ふははははは!このまま行けば我が軍勢が貴様らを駆逐するのも時間の問題。ふん、所詮は獣風情、期待外れだったか」


「おい、さすがにやばいだろ。俺たちも加わった方が良くないか?」


「いえ、私たちはまだ動けないわ。敵将を討つ役目が待ってるもの」


「なっ、あんな化け物ぽいのに俺たちが挑むのかよ。ノランさんに任せるべきだろ、アレの相手は絶対」


「戦力としてのエースはノランよ。でも、彼にはあの巨大なゴブリンをやってもらわないといけないもの」


「こっちのエースは1、相手は3か。確かに厳しいな。だけどこのままならノランさんが相手する前に全滅だぞ、どうするんだ?」


「本当は相手の出方次第で打ちたかったけれども、今使うしかないわね。ノラン、アデル、カテット、ザクル、一旦下がってちょうだい!」


「ちっ、この状況で下がれとか無茶な要求しやがる兎だな!」


「「「ルナさまの仰せのままに!」」」


「お前ら余裕あるじゃないか!」


「ほう、そちらの最高戦力を下げるか。雑兵どもは捨て駒か?悪くはない手だな」


兎の呼び掛けに、目の前のゴブリンたちを薙ぎ払い、周りの仲間がアシストしながら4人は下がってくる。


相手が言うようにノランと熟練3人組、アデル、カテット、ザクルは俺たちの最高戦力だ。


それが抜けた穴は相当きつい様で、今にもゴブリンたちの囲いは完成しようとしている。


下がってきた4人は一息付くように水袋に口を付け、兎の指示を待つ。


そして兎が提示した作戦は単純なもの、両サイドからの挟撃だ。


一騎当千とは行かないでも、彼らはゴブリンどもを蹴散らす実力者。


「「「「おらあああああ、仕返しだ、ゴブリンども!」」」」


「「「「「「「「「「「ぐぎゃぎゃ!?」」」」」」」」」」」」


「今よ、押し返しなさい!」


「「「「「「「「「「「おおおおおおお!」」」」」」」」」」」」


そんな彼らは目の前の敵に集中する、いや、意図的に集中させられたゴブリンたちへの奇襲となって襲い掛かる。


突然背後から攻められ浮足立ったゴブリンたちを蹂躙すべく兎の号令が戦場に響くと、一気に戦況が逆転した。


「くくくく、やるではないか、兎風情。この状況で奇襲の如き戦術を行うとは。否、戦場の気勢を読み、奇襲を行えると同等の状況を作ったわけか」


「大した事はなくてよ、これぐらい」


「これが大した事ではないだと?ふははははは!面白い、貴様、名は何という?」


「そう言えば名乗ってなかったわね。私の名はルナ。森の女王にして戦術家、白き衣を纏いし高貴なる白兎よ!」


「ふ、短い間柄ではあるが、その名覚えておこう」


2人、いや2匹のやり取りを後目にも戦いは続き、完全に人間側が有利に進む。


ノランをはじめ、彼ら全員の奮闘がゴブリンたちの数をどんどん減らしていく。


そして、最後のゴブリンナイトの胸を、自警団の青年の槍が貫いた。


「これで、俺たちの勝ちだ!」


「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」」」」」


全てを出し切り、勝利した彼らの雄叫びが花畑に響く。


その姿は、爪や牙に破かれた衣服、滲む血糊、打撲により赤黒く腫れ上がった肌とボロボロであったが、やり遂げた者のそれだった。


本当に持てる全てを出し切ったのか、その場に立つのは熟練者であるノランたち4人だけで、他は全員座り込んで、しばらく動けそうにない。


後は強敵だが3体のみ、これで勝った、と皆が思った。


いや、人間だけがそう思っていた。


「くくくくく、よくぞ我が軍勢を打ち破ったな、人間。自らを勇者足らんと奮闘する貴様らに敬意を表しよう」


人間ではない、デミゴブリンデーモンであるガダブリルはこの状況でも余裕を失うことなく、泰然として姿勢を崩さず、地面に刺した剣を抜く。


「はっ、やっと大将自らお出ましか。さてお前ら、ここからが本番だぞ。おい、ナオヤとルナ。死ぬんじゃねえぞ」


そしてノランは油断なく、残っていた水を飲み切り、水袋を投げ捨てながら剣を握りしめた。


「解ってますよ、ノランさん。俺たち3人でならジェネラルも何とかやれます」


「ええ、やってやりますよ」


「おう!俺、この戦いに勝ったら10日は休暇取るぜ」


「あのデカイのを相手か。きつそうだがやるしかないな。おい、兎、俺を巻き込むのはやめてくれよ」


これから強敵と戦う雰囲気を俺も味わいながら、背中の兎を下ろそうとしたが、兎は黙って正面を見つめたままだ。


その正面、ガダブリルを見つめる赤い目は、やつを見逃すまいと睨みつけていた。


「おい、どうした?」


「くくくくく、やはり面白いぞ、白兎のルナ。この状況でも一切油断しないか」


「ふう、やっぱりまだ手を隠していたのね」


「どういう事だ、ルナ。このゴブリンはまだ、何かを」


ノランが慌てるようにこちらに振り返ったと同じくして、ガダブリルの背後から多数の人影が現れる。


人影、それは子供ぐらいの背丈の緑褐色の体に尖った耳、大きな口を持つ、ゴブリンたちだ。


その数おおよそ100で、その中には4mはありそうな巨体を持つジェネラルも1体混じっていた。


「ば、馬鹿な!まだ伏兵を隠してやがったのか!」


「ふははははは!まさか、あれだけが我が軍勢だと思っていたのか、人間!なぜお前たちに我の全てを見せなくてはならん。だが、誇るが良いぞ、この我の全てをこの場に出させた事を!」


「くそ、さすがにこれは」


絶対絶命のピンチを凌ぎ打ち破ってみれば、さらに押し寄せる危機的状況。


熟練で近郊でもトップクラスの腕を持つノランでも、この状況は心を折るには十分な光景なのだろう。


いつも自信に満ちていた彼の表情から血の気が引き、その手は下がっている。


ノランほどではないが実力者である3人、アデル、カテット、ザクルも戦意を失ったかのように武器を下している。


もう動けないであろうギルドメンバーと自警団員たちも、絶望によって顔を下に向けている。


もちろんあの時啖呵を切った俺だってこの状況ではさすがに余計な事が考えられず、目の前の光景に目を見開いて固まっていた。


そんな俺たち人間を馬鹿にするように、白い雲がまばらな空を鳥たちが飛び去っていく。


そんな空を見上げ、諦めた目で見る者や地面をただ見つめる者たちの中、1人だけ絶望とは程遠い、自信に満ちた目でゴブリンたちを見据えるやつがいた。


「うふふ、そんなにも隠していたなんてね。あなたもやるわね、ゴブリン」


「ほう、よく余裕があるものだ。この状況に人間どもは心が折れてしまったようだが、獣である貴様はまだ諦めておらぬのか」


「ジェネラル級が3体ね。ならばあなたの眷属の総勢は600弱と言ったところでしょう?」


「ふむ、良い読みだな。確かに貴様が言うように我が眷属はこれで全てだ。まさか500近い数を削られるとは思っていなかったぞ」


「村を落とすのにナイト級を含めて400で攻めようとしていたのね。いえ、400で襲いつつ、あなたが率いる本体が奇襲して落とすつもりだった、違うかしら?」


「くくくく、さすがだな、白兎のルナよ。その通りだ、それがまさか森の中で遭遇するとはな思いもしなかったぞ」


「それはお互いさまよ。でも、100足らずで村を落としたあと、維持できるかしら?」


「ここでお前たちを倒し、村も落とせばすぐにでも数倍の数を用意できる。さて、貴様との語らいもここまでだ。哀れな人間どもに、一思いに止めを刺してくれる」


兎とデミゴブリンデーモンのやり取りを呆然と見ているしかない俺たちをよそに、いよいよ最後が迫っているようだ。


やつは右手に持った剣を真上に掲げてから振り下ろし、死の宣告を告げた。


「さあ、この者どもを殺し、食らい、蹂躙せよ!」


「「「「「「「「「「「ぐぎゃぎゃ!」」」」」」」」」」」」


俺たちを食らおうと迫る100の軍勢。


少しでも抗おうと再び剣を握りしめ、立ち上がる俺たち。


そんな中、兎は俺の背から飛び降りる。


「おい、前衛は俺がやる。お前は後ろから援護しろ」


「いえ、ここは私に任せなさい」


そう言って、兎のやつは前に出た。


「うふふ。やはり戦術家としては私の方が上だったようね」


「この期に及んで何を言う、貴様?」


「勝ちが見えたからと自陣の情報を話してしまうなんて、まだまだよ」


「ふむ、確かにそうであったな。だが、死に逝く者への手向けは欲しかろう?」


「そうね、手向けは必要ね。だから教えてあげるわ、伏兵、奥の手を隠していたのはあなただけではないのよ」


「なんだと?」


兎はその薄い胸を張って両前脚を広げる。


後ろからでは解らないが、この兎はドヤ顔なんじゃないかと、なんとなく思う。


なぜだか今からこの兎が、この絶望を打ち破る奇跡を呼ぶんじゃないかと思えたから。


まるでこの瞬間が、アニメなんかの勇者が逆転の一手を放ち、盛り上がる場面に見えたからだ。


俺と兎の付き合いは短いけれど、その分濃い時間を過ごしてきた。


だから、こいつが今どんな顔をしていて、どんな事を言うのか予想できる。


おそらく、いや、絶対に言うに決まってる、自分がただの齧歯類じゃなく、すごいやつなんだと。


「私の名は白兎のルナ!白き衣を纏いし高貴なる者にして、森の女王!呼び掛けに応え、その姿を私の前に顕現せよ!」


予想通りの兎の台詞と呼応するように、森の中から地響きが聞こえる。


その音はどんどんこちらへ近づいており、振動まで伝わってきた。


音や振動から察するに、かなりの数の何者かがこちら向かって駆けている。


ゴブリンたちにもそれが解ったのか、警戒して歩みを止める。


俺たちも目の前のゴブリンたちだけではなく、この状況に警戒を強める。


この場に居る者全てが警戒する、そんな状況に陥っていた。






どんどん大きくなる地響きと振動は、木々を、藪を突き破り、全てを吹き飛ばすようにその姿を現せる。


立派な角を持つオスシカの群れ、巨体を誇るイノシシたち、そして5mには届こうかという巨躯を誇る隻眼のクマ。


森に棲む獣たち、しかも武器を持った人間でも倒す事が難しい魔物さえ恐れる者たちだった。


「さあ、この愚かなる者たちに森の怒りを知らしめてやりなさい!」


「「「「「「「「「「「きゅいいいいいいい!」」」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「「グアアアアアアアア!」」」」」」」」」」」」


「グルアアアアアアアアアアアア!」

この章はまだ続きます。


第1章と第2章が7話までだったので、ここで終わりと思われたかもしれませんが、ここからが序盤のクライマックスバトル!

熱い戦いはまだまだ続きます!


ファンタジーコメディ成分どこ行った?とちょいちょい挟むも熱い展開に蒸発中です!

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