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白兎の従者~一文字で大きく違う異世界転移~  作者: ゆうき
第3章 異世界の森での危険すぎる緊急依頼
21/62

3-3

「確認できました、どうぞナオヤさん。こちらが今回の報酬です」


「ありがとうございます、ミラさん」


「いえいえこちらこそですよ。こうやって魔物を狩ってきてくれると、村に住む私たちが助かります」


「そう言ってもらえると、頑張った甲斐がありますよ」


「ふふふ」


手元の銅貨を満面の笑みで財布に入れ、夕食が並ぶテーブルへ移動する。


あれから2度ほどゴブリンと遭遇し、1体逃げられたが追加で3体倒す事が出来た。


厳密にいえば3度遭遇しているのだが、7体もの集団だった為、襲わずに撤退したのだ。


今日の収入はゴブリン5体と魔石5個、馬小屋清掃、薬草3束納品、合わせて銅貨20枚にもなったのだ。


オスシカの角を除いてまともに稼げた記念日、という事で今日の夕食はちょっと奮発した。


イノシシの肉がたっぷり入ったホワイトシチューと柔らかいパン、そして酒だ。


この世界のパンは基本的に異世界名物とも言える酵母なしの硬い黒パンなのだが、奮発すれば柔らかいパンも入手できる。


そして酒も発酵酒から蒸留酒、葡萄酒などが存在し、質はあっちの世界と比べ物にならないぐらい悪いが飲めなくもない。


と、いうか食事と共にするなら十分な味なので、まったくもって不満はない。


なんとなくしゅわしゅわ感が楽しみたくてエールを頼んで一口飲む。


口に広がるこの感じがたまらなく、思わず出る言葉はおそらくどの世界でも同じではないだろうか?


「くぅ~、沁みる!このために生きていた、と言えるな、この感じ」


「それは良かったわね。でも、飲み過ぎないでよ?私では運べないのだし」


「分かってるよ、言われなくても。でも、今日ぐらい良いじゃないか」


「ほどほどにね」


呆れてモノも言えません、といった感じで首を振り、果実を齧る兎も心なしか楽しそうである。


そりゃそうだ、今日は完全に成功と言っていい戦果なのだから。




そんな浮かれた俺たちの前に1人の男が現れた。


「お、景気がよさそうだな、お二人さん」


「あ、ノランさん、こんばんは。そしてお疲れさまです」


「まあ、今日は仕事してなかったから体は疲れてないがな」


「なるほどね。よかったらどうかしら?1杯奢るわよ、ノラン」


「おい、勝手に。でも、まあ、ノランさんなら良いか。エールで良いですか?」


「お、かなり稼げたようだな。ありがたくエールを頂くぜ」


ノランさんもテーブルに付き、運ばれてきたエールを突き合わせて乾杯する。


かつん、と木製のカップから小気味良い音がして、ますます気持ちが高揚した。


「それで、仕事の成果はどうなのかしら?」


「え?さっきノランさんは仕事してないって言ったじゃないか」


「これは浮かれて気付いてないのか、元々気付ける素養がないのか、どちらかしら?。あなたはどう思う、ノラン」


「どういう意味だ!」


「んー、どっちもじゃないか?」


「ノランさんまで!って、あれ?という事はやっぱり仕事をしてたのですか?」


「確かに仕事、依頼に手を付けちゃないぜ?ただ、やる事があった、という事だな」


「訳が分かりませんよ、それじゃあ」


「あなたにはちょっと難しかったかしら?」


「そう言うなよ、ルナ。気付く方が普通じゃないぜ」


そう言ってノランはエールを飲み干し、カップをテーブルに置いた。


2人だけで会話が成立してるこの雰囲気に、なんだかモヤモヤする。


そんな気持ちが顔に現れたのか、兎はやれやれと首を振り、ノランは苦笑した。


それを見て俺のモヤモヤ感が増していくのを抑えられようか?


否、無理だ!


「隠しても仕方ないから教えるけれど、ノランは森の異常について調べているのよ。おそらく周辺、他の村や町からの情報を集めて精査している、と言ったところかしら」


「お、ほぼ正解だな。やるじゃねえか、ルナ」


「おお、そうなんですか。あれ?でも村人じゃ気が付かないとか言ってなかったけ?」


「狩人の彼が言っていたのは森の違和感に付いてよ。今、森で起きている異常は別に現地でしか感じれない訳じゃないのよ」


「お、おう。なんかよく解らんが解った」


「まああいつなら普段から森に居るからこそ感じれたんだろうな。俺の場合は森そのものじゃなくて、ゴブリンに付いてだよ」


「あら、ゴブリンの何がおかしいのかしら?」


「最近この村に来たお前らだと知らないだろうが、この辺りのゴブリンは先月一斉駆除、壊滅させてるんだよ。その割には出現頻度がやたらと高いんだ」


「なるほどね。普段ならそこまでではなくて、タイミング的に異常なのね」


「あとはまあ、戦闘に関する成長が早すぎるってのもあるな」


「森の異常とゴブリンの異常繁殖ね。これは何かありそう、そう判断するしかないわね」


「そういや森に異常があるような口ぶりだったな。なにかあるのか?」


「ええ。森の動物たちが居なくなってるのよ。とはいえ森の奥まで行けば居るのだけれども」


「ほう、それは異常だな。それに付いて解ってることはないのか?」


「動物たちの話では、森の北側から嫌な気配が流れてくるから離れたそうよ」


「なるほどなぁ。やっぱり動物と話せるのは便利だな」


「うふふ。私にしか出来ない、森の女王の特権ね」


「そりゃ人間は動物と会話出来ないからな、ルナ以外!はっはっはっはっは!」


「うふふ。それで他の場所ではどうなのかしら?」


「ああ、まだ集めてるところなんだが、やっぱりちょっとおかしな事になってるようだな」


「他でもこの森みたいに異常繁殖が起きていたり、分かりやすい異常が報告されてるのね」


「まあな。とは言え各町や村で対処できるレベルらしいから、騒ぎになるほどじゃないな。この村と一緒だ」


「なるほどね。ノランが何を気にして調べているかは分からないのけれど、ゴブリンに付いてはどうにかしないといけないわね」


「そっちは今のところ保留にするしかない案件だ。ルナの言うように、まずは目の前のゴブリンをどうにかする事の方が重要だな」


うん、途中からまったくついて行けなくなったので黙々と食べていたのが、この森でなんだか良くない事が起きているのは解った。


ゴブリンが異常繁殖しているらしいが、そもそもゴブリンは繁殖力が高い魔物で、だからこそ害虫の如く嫌われて駆除される。


集団で行動して武器を扱い、肉から穀物、おおよそ人が食す事が出来るものはなんでも食べる。


先月の事らしいが、そのゴブリンの集落を幾つも潰して大掃除。


そして最近になってゴブリンたちが増えて人里の近くまでやってきている。


俺たち人もそうだが生物は追い詰められると普段以上の能力を発揮する、例えば異常な力とか繁殖力とか。


今回の事は絶滅に瀕したこの森のゴブリンたちが牙を向いてきた、要は人とゴブリンの生存競争が起きているだけだと思うんだがな。


ただ、あれだ、それだとあまりにもリアルで面白くない。


不謹慎だと思うがここは異世界で、ノンフィクションだがフィクションが起きる場所。


だったらアニメみたいに魔王が復活し始めたから魔物たちが活性化しました!という展開の方が熱くないだろうか?


冒険者になってまだ日も経ってない時に、魔物の大群に襲われて大活躍の無双とか憧れる!


なんて酔いが回ってきた頭で考えていた。


「絶対にー、生存競争じゃーないぞー、これはー」


「おい、ナオヤ。酔って何言いだすんだ?」


「はぁ、ほどほどにしなさいとあれほど言ったのに。ん?生存競争ですって?なるほど、そういう事ね!」


「ルナまでどうしたんだ?」


「ヒントは森に沢山あったんだわ。そしてそれは全てゴブリンと繋がっている」


「おいおい、何か解ったのか、もしかして」


「ええ、オオカミよ、オオカミ。あの森で一度も遭遇していないのよ、私たちは」


「は?いやまてよ、そういえばここ最近オオカミが納品されてなかったな。まさか?」


「そういう事よ。オオカミたちはゴブリンの餌になったのだわ」


「異常繁殖の燃料がオオカミか、ありえるな。だがオオカミとゴブリンだとオオカミの方が強いぞ?それに生活圏が全く違う。ゴブリンどもは南側、オオカミたちは北側だぞ?」


「ますます確定的ね。いい?森の動物たちは北から嫌な気配が流れてきていると言っていたのよ?」


「オオカミやゴブリン以上の何かが北に現れたと言うのか?まさか、上位種が現れたのか!」


「やっぱり居るのね、上位個体。おそらくその上位個体の出現で森の勢力バランスが崩れたのね。そしてオオカミたちはゴブリンたちの餌になった」


「まずいぞ、これは。すまん、俺はもう行くぞ!」


「ええ、村長によろしくね」


なんだか朦朧とする意識の中、兎とノランが意見を言い合っていたがよくわからない。


慌ててどこかに行くノランを見送ろうとするも、テーブルが俺を離してくれない。


あー、この頬から伝わる木の感触が心地良い。


取り敢えず、何がどうなってるのかは、明日で良いよな、と俺の意識はそこで途切れた。


だから聞き逃した、兎が俺に言った言葉を。







「よくやったわ。これはあなたの功績よ、ナオヤ」

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