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白兎の従者~一文字で大きく違う異世界転移~  作者: ゆうき
第1章 それはルイスキャロルのような異世界転移
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1-2

限界を超えて辿り着いたものは、握りしめる鉈、その手に掴んだ幸運、白い毛むくじゃらのモノのはずだった。


「なんでよう、なんで私なのよう。いつもは小生意気な茶色いのとか、いけ好かない灰色なのとかじゃない、なんで私なのよ」


疲労?空腹?それとも今朝食べたキノコが原因なんだろうか、今、三大欲求が1つである食欲を満たすために手にした兎から有りえないモノが聞こえる。


新種ならば問題ない、幻聴ならば多少は問題あるが大丈夫だ。


体長50cmほどの小さな生物である兎が、事もあろうに、そんな馬鹿な話がある


「ものか。ん?と言うか、でかくなってないか?」


今手に収まっている兎は体長50cmなんてものじゃない、80cmぐらいはあるんじゃないか?


そもそも日本の野山に居る二ホンノウサギの体毛は白くない。


正確に言えば腹毛は白いが、それ以外は茶色や灰色が主流である。


ユキウサギと呼ばれる種であれば体毛全てが白いのは解る。


が、夏場で真っ白な兎は、交配された品種か外来種しか存在しないはずだ。


「なんでこんな男が私の初めてなのよ。初めてが人間?ありえないわ、ありえない。しかもこんな冴えない人間のオスだなんてありえない。白き衣を纏いし高貴な兎であ」


「だれが冴えないだ、この齧歯類がっ!」


いや、これはあくまでもちょっと齧った程度の知識なので、日本の野山、夏場にも白い体毛の兎が居てもおかしくない、おかしくないよな?


だが、人語を話す兎とかいる訳ないよな、流石に。


「齧歯類ですって?ええ、確かにそうよ、私は齧歯類、学術的には齧歯目なんだけど、それはあくまでも大きな分類で見たときよ。正確にはウサギ目よ、この冴えない人間のオス」


「また、言いやがったな、この白い毛むくじゃら生物め!」


「いたっ、痛いじゃない!私の高貴なるウサ耳を掴むんじゃないわよ、冴えない人間の、オス!冴えないのは顔だけじゃないようね、レディの扱いも冴えない人間の、オス!」


「冴えないと連呼すんじゃねぇ!てか、だれがレディだ、この白い毛むくじゃら!」


「もちろん、私に決まってるじゃない。この山で唯一春夏秋冬白き衣を纏う事を許された存在、それが私よ!あと、同じ言い回ししかできないなんて、頭も冴えないわね、冴えない人間のオス」


「唯一の存在とか、ただのボッチじゃないか。てか、また言いやがったな、この白い毛むく」


「あら?やっぱり冴えない頭ね、また言いそうになってるわ。本当に残念な頭です事、おほほほほほほ」


「ぐぬぅ。」


この兎め、わざわざ右前足を左頬に当てて高笑いしてやがる。


言動といい、しぐさといい、なんて人間くさい兎なんだ。


ありえないだろ、人語を話す兎とか。


「って、なんで兎がしゃべってんだぁあああああああああああああ」


「いったぁ!急に投げないでよ!そもそもレディを投げるなん、て、きゃああああああああああ、なんで、私の言葉が人間が理解してるのよ、ありえないわ!」


「それは俺の台詞だ!しゃべる動物なんて聞いた事ねえよ!いや、九官鳥とかはしゃべるから居るのか?いやいやいや」


「後オウムもしゃべるわよ。と、言ってもアレは言語を操っての会話ではなく、声真似ね。」


「冷静に解説すんなや。兎だろ、お前?だったらありえないだろ、しゃべる兎とか。どこのアニメの世界だよ」


「お前って、失礼ね、レディに向かって。本来の意味で言ってるなら弁えてるけど、どうせ、意味をしっかり理解せず使ってるんでしょ?」


「くっ、いちいち頭にくるやつだな。えっと、二人称として使う言葉だろ?あなた、とかと同じ意味で」


「はぁ、やれやれですわ。本来の意味は位の高い相手、語源で言うなら神様の前って意味よ。それが王権神授説とかある日本だから、皇族や貴族の前、御前なのよ。だから、相手に対して使う言葉じゃないわ。」


「外人見たいなリアクションするな、むかつく」


「現代で言うなら、同等か目下の者を相手にするときの言葉なのよ、お前って。だから、冴えない人間であるオスのあなたが発するんじゃなく、高貴な私があなたに使う言葉としては正しいのよ」


「人間が兎の下な訳あるかっ!」


「あと、アニメだけじゃく、神話や小説にもしゃべる兎は登場するわね。古事記に載ってるじゃない、因幡の白兎の話が」


「アニメに限定してねえよ!例えだ、例え。フィクションにしか存在しない、って事だよ。」


因幡の白兎の話は古事記に載ってるのか、物知りな兎だな。


「いやいやいやいや、ちょっとまて。ありえない、色々ありないし」


「ありえないのはあなたよ。貧相、冴えない、頭だけじゃなく、なんで私の言ってる言葉を理解してるのよ?」


「罵詈雑言を挟まないと会話できないのか、この毛むく、ぐむ、兎は!」


「ほら、貧相じゃない頭が。でも、そうね、訳が解らないわね。でも、今まで人間と出会ったことがないから、本当は人間って兎言を理解できる生物なのかしら?」


「そんな人間いねえよ!フィクション以外で動物と会話できる人類なんて今までいねえよ!」


「じゃあ、まさか、あなたが特別なの?」


「と、特別?俺が、か?まさか」


「そうよね、あなたみたいな冴えないオスが特別な訳ないわね。それこそフィクションだわ。残念ね、この世界はノンフィクションよ!」


「ぐっ、く」


わざわざ腕を広げて薄い胸を張りやがって、いや、兎に薄いも厚いもないか。


そんな事よりも、なんで野生動物、しかも人里離れた山奥に居るやつが、人間社会の事を理解してるんだ?


言語由来にしてもそうだし、古事記の話とかありえんだろ、常識的に考えて。


しゃべる動物な時点で常識はずれの事だが、それ以上にありえない。


知る要素の無い事まで知ってるのは、さすがに


「ないだろ。いくら何でもおかし過ぎる」


「おかしいのはあなたよ、ないオス」


「変な略し方してんじゃねえよ。外人の名前みたいになってるじゃないか、そこまでいくと」


「あら、そうね。ナイオス、中々の響きだわ、あなたにはもったいない」


「いちいち俺を落とすなよ。それよりも、ありえないだろ、世辞に強くて理路整然としてるとか」


「世辞に詳しいが正解よ」


「そういう処もだよ。ああ、もう、訳解らん!」


「レディですもの、常に情報を求めるものよ、古いも新しいもね」


「どこのレディがそんなことするんだよ!」


「貧相なあなたが知らないだけよ。レディとは微笑みを持ってあらゆるモノを対処する存在なのよ。だから情報は必要なのよ。彼を知り己を知れば百戦殆うからず、と孫子でも言っていたでしょう?」


「どこの戦国武将だ、この兎は!」


「古代の中国、春秋時代の武将よ。厳密には孫武が書いた兵法書が孫子よ。孫武の尊称でもあるから孫子が武将でもけっして間違いじゃないわ」


「ああ、もう、本当に訳が解らん!はぁ、あれか、しゃべる事はそう言う生物を発見したと考えるしかない。でも、この知識はどう解釈する?」


「昔から日本では白いモノは高貴な、神聖なモノとされてきたでしょう?キツネしかり、ヘビしかり。だから、私が高貴なモノ、神聖なモノと言う存在証明ね」


「確かに白いキツネや白いヘビは神の使いとされてきたが。ああ、うん、そんなフィクションは最後の砦だ。兎も角、ノンフィクションで考えたい」


「あら、私を前にして兎も角だなんて、ちょっとはマシになったのかしら、あなたも。ウィットが効いていてよ」


なんてウィットが効いた返し方だ、この兎は!


じゃねえな、しかし、本当にコレはなんなのだ?ありえない、は、もういいや。


俺、空腹と疲労で幻聴、幻覚を見てるか、気絶して夢でも見てると思った方が現実的な気がしてきた。


夢を見てるが現実的とか、普段だったら、一笑に付すところだが、今だったらそれが正しい、いや、思いたい。


あー、益々訳が解らなくなってきた。


やっぱり親父の言う通り、来るんじゃなかったな登山。


「兎を数える単位が匹じゃなくて羽なのは、兎が九官鳥みたいにしゃべる生物だったからなんだな」


「所説あるけど、鳥に似ている、が正解よ。なに、現実逃避?」


「したくもなるわ!」




ああ、なんで俺は人里離れた山奥で、兎と会話してるんだよ、訳が解らねえよ!


「だれか、この状況を何とかしてくれ!」


そう思うのは仕方がない、俺はそんな事を思うのであった。

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