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白兎の従者~一文字で大きく違う異世界転移~  作者: ゆうき
第2章 現実はそんなに甘くない冒険者生活
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2-2

危険を伴う討伐依頼だが、大まかに分けると二種類存在する。


1つ目は、何時までに、どれを、何体、倒してくる、という通常依頼。


2つ目は、何時でも、どれを、倒してくる、という常駐依頼だ。


1つ目の場合は、その魔物から取れる貴重な素材が必要になったから、と個人もしくは団体が依頼を出す場合が多い。


2つ目の場合は、その魔物が何かしらの脅威となるので駆除して欲しいと、団体が依頼を出す場合が多い。


どちらが危険か、と言われたら1つ目の通常依頼の方が圧倒的に多く難易度も高くなる。


だからと言って2つ目の常駐依頼は簡単かと言えば、魔物を相手にする時点で危険な依頼には変わりなかった。


「で、俺たちは当然常駐依頼の方を受けるんだよな?この村だと人が襲われる可能性のある相手って、オオカミかゴブリンしかいないけどよ」


そう、異世界ファンタジー定番の雑魚モンスターのゴブリンがこの村付近でも現れるのだ。


先輩ギルドメンバーであるノランによれば、子供ほどの背丈で若干素早いが力も弱く、武器を持てば素人な村人でも複数人で挑めば倒せるらしい。


見た目はアニメなんかで出てくるやつらとそう違わない、聞いた限りでは。


だが、フィクションでたまにある設定の女性をさらってなんちゃら、はなく、ただ畑を荒らし、家畜を襲う、繁殖力がやたらと高い生き物との事だ。


肉を含め何でも食う雑食という事もあり、まずくて食えず、でも放置してたら大群になって村を襲う厄介な魔物、それがゴブリンだ。


ではオオカミの方だが、これは日本と同じように群れをなす肉食動物で、あっちの世界との違いは、こっちの世界のオオカミの方が大きいようだ。


俊敏かつ常に群れで行動するので、人が襲われたらひとたまりもなく、初心者殺しの異名を持つ凶暴な生物なのである。


肉食ゆえにそれほど美味しくないのだが、毛皮が高く売れるのだ、こいつら。


防寒具としても、防具としても優秀な素材なので、駆除対象としてだけではなく素材目的でも依頼が出されている。


ただゴブリンとは違い、態々人里に近寄ってこないので、狙うなら奥の方まで行く必要があるのが最大のネックだ。


引き際を誤ると、初心者を脱した銅証ブロンズやベテランである鉄証アイアンでも返り討ちに遭う恐ろしいやつらなのだ。


あ、魔物と動物の違いだが、魔石を体内に持っているかいないかの違いしかない。


生態系はほぼ一緒で、魔力を持っているかの違いでしかないそうだ。


魔石や魔力もフィクションによくある設定なので、この説明を、兎が例の便利な言い訳、兎だから知らない、を駆使して聞いたとき、俺はテンションが上がりまくって兎に蹴られた。


いいじゃねえか、心躍るだろ、アニメの世界住人になったみたいでさ。


まあ、その後現実を突き付けられて膝を屈したのは言うまでもないよな?


「そうね、もちろん狙って行きたいけどオオカミはだめよ。森のオオカミには関わらない方が身の為ね。こっちがやられてしまうだけだもの」


「鼻も利いて、耳も良く、発見し難い上に、集団で行動するものな。どこの忍者集団だ、ほんと」


「そういう事よ。なので私たちが狙うのは通常依頼であるシカを狙いましょう。あとはゴブリンもついでにね」


「シカなんか倒せるか?俺、弓なんて使えないぞ?」


「馬鹿ね、私が居るじゃない」


「兎がシカに勝てねえだろ」


「ただの兎ではなく、白き衣を纏いし高貴なる白兎なのよ、私は。あなたと違って魔法が使えるね、あなたと違って」


「態々二度も言うな、齧歯類の分際でえええええ!」


「「「ヒヒーン!」」」


「ぎゃああああああああああああああ」


「おほほほほほ」


馬小屋はすでに白い毛むくじゃらの齧歯類のテリトリーと化しているため、連戦連敗の日々が続く。


おい、そこのあんた。


いつものオチとか言うんじゃねえよ!




「なんで俺がお前を背負わなくちゃならん」


一悶着、圧倒的な俺の敗北で終わった馬小屋のバトルを終え、装備を整えて村を出て森の中にやってきた。


俺の装備はあっちの世界から持ってきた鉈とナイフで、それらを腰に佩び、服装は一張羅の私服だ。


1週間ずっと着ている、ちゃんと洗濯もしてるが、のでそろそろ他の服が欲しいところだが、金がないので仕方がない。


後は何とかお金を出して購入した布製の肩掛け鞄が、今の俺の装備である。


ああ、兎に関しては天然の毛皮があるから要らないだろう?と言ったら、またバトルが始まったのだが、信者と化した村人である村唯一の雑貨屋の主人が布のベストをプレゼントしてくれた。


と、いう訳で、異世界に来て最初に現地の衣服を手に入れたのは兎の方が先だった。


実に遺憾である。


「こっちの方が早く移動できるでしょう?」


「いや、兎なんだから速いだろ、足。あっちでも中々追い付けなかったしな」


「兎である私に追い付ける人間が居た事に、あの時は気が動転してしまったわ」


「途中からなんか普段以上の力が出たんだよなぁ。そういやこっち来てからなんか身体能力上がったんだが、やっぱり召喚の影響か?くふっ」


「気持ち悪いからやめなさい」


「うるせえよ!」


「ほら、大声出したら魔物が寄ってきて奇襲されるわよ。黙って歩きなさい」


「ぐ、この」


魔法こそ使えないが、やっぱり異世界召喚モノの手番である身体能力向上のチートが俺にもあるのか!と、色々試した結果、若干上がっているようだった。


ようだった、という言い回しになってしまったのは、大学生ともなると体育の授業があるわけでもないので、身体能力を計る機会がそうそうなかったので比べるのが難しいからだ。


それでも若干は、と言えるのが、前より疲れにくくなっている点である。


前だったら村の雑用依頼をこなし、村周辺での採取、馬小屋の清掃なんてしたら確実に倒れていたに違いない。


それが、ああ、今日も疲れたなぁ、と思う程度で済んでいるからだ。


筋肉痛にもなってないし、翌日に疲れも持ち越さない、と来れば、チートと言うほどではないが、身体能力が向上したんだろう、若干。


これも異世界召喚さまさまだぜ!と喜んで何が悪いんだ、マジで。


そんな事をブツブツ言いながら歩き続け、シカが目撃される地域までやってきた。


あ、兎を背負ったままだったじゃねえか、チクショウ!


「さて、この辺りからシカがでるんだよな。罠でも設置するか?」


「あなた、罠を扱えるの?」


「まあな。爺さんに連れられて登山や山籠もりしてるときに教わった。実際にそれでシカとか野兎を狩った事もあるんだぞ」


「あなたは私の敵のようね?まあ、今は従者だけれども」


「従者じゃねえよ!」


「声が大きいわ」


「ぐ、このめろう」


「さて置き、この近辺はやめておきましょう。移動した方がよさそうだわ」


「本当にむかつく兎だな。で、なんでダメなんだ?」


「よく見ていなさい。あそことあそこに罠が仕掛けてあるわ」


「え?マジ?」


兎が右前足で示した2ヵ所に目を向け、よく見てみると、本当に罠が仕掛けてあった。


言われて見たから気が付けたのだが、そうじゃなければまず見つけれないほどに巧妙な罠だった。


「すげえ、爺さんレベルの罠じゃねえか。しかし、よく発見できたな」


「うふふ。私は白き衣を纏いし高貴なる兎のルナよ、当然の事だわ」


「素直に関心できねえ」


「さあ、場所を移しましょう。私が誘導するから静かに歩くのよ」


「ああ、わかったよ」


おそらく村のベテラン狩人が仕掛けたであろう罠を避け、道無き道、森なのだから当然だが、を静かに、できるだけ足音を立てずに進んでいく。


この歩行方法も爺さんから学んだもので、まさか実生活において役に立つ日が来るとは思ってもみなかった。


登山や山籠もりを経験済みというプロフィールはやっぱり普通じゃない、と感じていたが、やはり普通じゃなかったのである。


そう言えば、爺さんから学んだ技術はこの歩行方法や罠の設置方法だけじゃなく、ライターを用いない火の熾し方や動物の解体方法、食べれる植物の見分け方、飲める水の判別方法などなど、多岐に渡る。


鉈やナイフの使い方ももちろん習ったし、危険な野生動物の対処方法も教え込まれた。


オオカミと遭遇した事はないが、イノシシや野犬なら対峙した事がある。


イノシシに付いては、猟銃で何度も撃たれた後だった為、俺に接近する前に事切れた。


野犬については群れに襲われ、これも習得済みだった木登り技術を駆使して難を逃れた。


爺さんから教わった危険な野生動物と対峙する方法はただ1つ、身の安全を確保するために逃げる事。


鉈やナイフで戦う?そんなの馬鹿のすることだ、と爺さんはよく言っていたが、どうやら、その教えを破る日が来たようだ。


そんな思いに反応したのか無意識に右手が鉈の柄へと延びていた。

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