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白兎の従者~一文字で大きく違う異世界転移~  作者: ゆうき
第2章 現実はそんなに甘くない冒険者生活
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2-1

「みんな大好き憧れの冒険者、のはずだったんだがなぁ」


俺たちが冒険者、厳密に言えば総合ギルドの登録者、通称"ギルドメンバー"になってから一週間が経つ。


みんなが想像する冒険者は、魔物を討伐したり、薬草を採取したり、小さな女の子のお願いを叶えたり、だと思う。


もちろん俺もそんな想像をしていた。


確かにそんな依頼は一部として存在する。


だがしかし、俺たちが登録したのは初心者の証である木証ウッドだ。


初心者が受けれる依頼はこの村にほとんど存在しない。


魔物討伐依頼を例に挙げると、魔物ではないが小動物を狩る依頼はない。


なんせ村の狩人や子供たちが罠で狩るので、態々依頼など出さない。


シカやイノシシといった中型や大型の動物は、最弱の魔物に匹敵する難敵なので初心者には厳しい。


なんせシカであれば人を警戒するので隠密行動が必須だし、イノシシは正直凶暴なので荷が重い。


あとはオオカミといった存在だが、逆に初心者が狩られる立場の動物である。


イノシシ、オオカミと言った動物や魔物の討伐は、熟練の狩人や銅証ブロンズ以上のギルドメンバーの仕事となるのだ。


そして薬草などの採取依頼だが、初心者が行ける近場だとそもそも子供たちで十分であり、依頼は出てるが子供たちの小遣いという認識だ。


なので、ギルドメンバーは恥ずかしくて受けない、となる。


では子供たちが行けない範囲の採取となると、オオカミや魔物の襲撃が頻繁となるため、初心者にはお勧めしない。


そうなると俺たちにできる仕事と言えば


「毎日毎日老人たちの話し相手や家屋の修理。ただの便利屋じゃねえか。これじゃお金がぜんぜん稼げないぞ」


「何言ってるのよ。それしか出来ないのだから仕方ないでしょう?」


「解ってるよ!だが、なぁ、冒険者だぞ、冒険者?こう、もっと華やかと言わなくても派手なものだと思うだろ!」


「本当に馬鹿ね、あなたは。そんなのは一面に過ぎないわ。まあフィクションだと地味なものは省いているでしょうから、厨二なあなたはそう思うわね」


「厨二言うなし。お前はそりゃいいよ。おやつを貰ったりするだけで依頼達成扱いになるんだからな」


「あら、当然じゃない。高貴なる白兎、神が認めた存在である私に奉仕できるのよ、お金を払って当然ね。もちろん感謝はしているけれども」


「くそ、何が真実の神だ、こんなの絶対おかしいよ!」


そう、この兎は真実の神プルーフが承認しやがったのだ、高貴なる獣と。


さらに言えば智識ある獣、智獣とも認められている。


最初こそしゃべる兎として驚かれたが、今では村のアイドルのごとき扱いを受け、俺が屋根の修理をしているときに、村の老人や子供たちが餌付けしてたりする。


悔しいことだが、その餌である草や果物の採取依頼が発生して、兎への相手で忙しい子供たちの代わりに俺が受けている。


それでなくとも安価な雑用依頼に加え、子供の小遣い程度の報酬しか貰えない採取依頼をこなして、何とか生活できているのが現状だ。


「なんで馬小屋で生活しなくちゃならん。野宿とほぼかわらないぞ!」


「あら?その馬小屋生活初日や食費も私の功績だし、馬小屋とはいえ干し草がたっぷりのベッドで眠れるのは誰のおかげかしら?」


「ぐ、くっ」




現状一番気に入らないのは、この白い毛むくじゃらの齧歯類のおかげで少しはマシな生活ができている点だ。


ギルドメンバーとなった初日、所持金もなく、早速依頼を受けようとしてほぼ受けれない現実を突き付けられた。


このままではその日の宿も食事も取れない、と焦ったのだが、兎のやつがまるで予想していたかのように言いやがった。


「あなたのポケットに入れた草を出しなさい。おそらくお金になるわよ」


言われて取り出したのは、村へ来る途中で兎がポケットにねじ込んだ結構な量の草だ。


こいつの食料を俺に持たせやがってと不満に思っていたが、どうやら本当にお金になる草だと判明した。


その草、薬草の中でもかなり高級な部類に入る月光草と呼ばれるもので、全部で銀貨1枚にもなった。


この時にこの国の貨幣について聞けたのだが、金貨1枚=銀貨100枚、銀貨1枚=銅貨100枚、という制度らしい。


金貨の上には大金貨やミスリル貨というのも存在するらしいが、それぞれ金貨10枚分、100枚分となり、王侯貴族や大商人でもないとまず扱わないので俺たちには関係はないだろう。


そしてパン1個で銅貨1枚ぐらいの価値になり、銀貨1枚もあれば大人1人がなんとか1ヵ月生活できる。


高級薬草である月光草は他の薬草と見分けも困難で発見する事が難しく、大量に薬草を採取したときに1房でも入っていればラッキーという代物だそうな。


この兎は、それをピンポイントで引き当てたのだ。


足でも引っこ抜いてアクセサリーにすれば俺も運がよくなるかもしれない。


そんな事をぼそっと漏らしたもんだから、俺と兎は再度ギルドで大乱闘をしてノランたちに大目玉を食らったのがちょっと懐かしい思い出だ。


それで馬小屋の話だが、これは単純に宿屋が高いからだ。


高いと言っても1日に2食付きで銅貨10枚なのだから、本来であれば安いもの。


なのだが、この先のことを考えると銅貨10枚は厳しいので、1日銅貨2枚の馬小屋に泊まる事にしたのだ。


で、この馬小屋なんだが、村公共の場所であり、町へのやり取りの際に使う馬を飼っている小屋となる。


そんな場所だけに簡易に作られた建物であり、まさに雨風を凌げれば良いと言う場所で、本当にお金がない旅人が泊まる定番となっていた。


一応、毛布を1枚借りれて、小屋の干し草は自由に使える、と言っても馬が優先という状況。


快適とは程遠い生活、それが馬小屋での宿泊である。


ちなみにこの馬小屋の掃除や干し草の作成と整理、馬の世話もギルドで依頼が受けれたりするので、今や俺専用となっている。


馬小屋の依頼を含め俺たちの現在の収入は1日銅貨5枚で、食費は兎が餌付けされて必要なく、俺だけで1日3~4枚と毎日赤字の極貧生活だ。


それで兎が功績とか言ったもう一つの理由、それは干し草が本当に自由に使える事にある。


そう馬優先ではなく、俺たちが自由に使えているのだ。


馬小屋の馬たち、3頭いる馬なのだが、今や毛むくじゃらの齧歯類である兎の信者だか舎弟と化している。


まるで女王にでも仕えるの如く、甲斐甲斐しく兎の食事である果物や草を運び、ベッドとなる干し草を集めて、騎士の如く守るのである。


兎と馬たちは意思疎通が可能のようで、良く話し込んでいる。


俺からしたら馬に話しかける痛い人に見えるのだが、そもそもこの兎はしゃべるが、動物同士の触れ合いなので当然の光景?なのである。


が、馬が兎に仕えるが如きさまはかなり異様で、村の人たちも最初は不思議がっていたが、現在ではルナさまだから当然だ、みたいな感じになっている。


訂正しよう、信者になっているのは馬だけじゃない、村人たちもだ。


ちなみに俺と馬は仲が悪い。


俺と兎はよくケンカするので、馬からしたら俺は無礼者になるらしく、よく噛みつかれる。


身の回りの世話やってるの俺なんだぞ?とブツブツ言いながらブラッシングするのが日常と化していた。




「まあ、でもそうね。危険を承知で討伐依頼でも受けてみる?」


「そうだな、いつかは受けないといけないのだから、今のうちに経験しておきたい」


「私は魔法が使えるから、あなたは前衛ね」


「おう、男が前で戦うのは当然だ。しかし、やっぱり納得いかないぞ、兎が魔法を使えるってのは」


「諦めなさい。私とあなたは違うのよ、存在そのものが」


「そりゃ、俺は人間で、お前は兎だよ、違って当然だ!」


「存在レベル、格の違いを言ったのよ。当然私のほうが圧倒的に上なのだけれども」


「なんだと、この齧歯類!」


「齧歯類言わないで!あと、お前もやめなさい、この冴えない人間のオス!」


「やるか、このめろう!」


「上等だわ、この場で格の違いを見せてあげる!あなたたち、やってしまいなさい!」


「「「ヒヒーン!」」」


「うわ、ちょ、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


馬を嗾けるのは卑怯だろ、絶対。

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