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2章 新世界

〜2章 新世界〜


***


「ここは、世界イーヴェルハイト。凡そ中心部にあたる聖ローレイ皇国の西側に位置する、小国アルマダ国です。」

嘘だろ!俺たちの世界には、そんな国は無い!どういうことなんだ!?

でも、この少女が嘘を言っている様には見えない。何よりもこの翼が事実だ。しかも、あの大猿は何だ?俺の魔法が簡単に破られたのに、カイリには一撃だった...。

ソラは賢者として、勇者リリーナを守る4人の親衛隊の一人だ。彼が自惚れるまでもなく、その魔法はイーヴェルハイト随一としても良いだろう。

隣を見ると、魔王は同じ様に目を開き驚いている。彼女は魔界側の王だ。彼女なりに考えを膨らませているのだろう。

狼狽える俺と魔王に不思議そうな目線を向けてくるカイリ。

にしても、本当に天国ってことはないだろうな。

一人、考えてると魔王が口を開く。

「カ、カイリとやら。我達はとにかくこの森を出たいのだが...。何より空腹で倒れそうなのだ。」

誤魔化したな。確かに今は何も知ることはできない。

そうだ、俺達の当初の目的は食べ物を探すことだったはず。いつのまにか、こんな大事になっちまったが...。

「はい!私の家でよければ夕食をご馳走します!あ、あまり自信は無いですけど...。」

恥ずかしそうに俯きながら、答えるカイリ。

いやー、良い子だなー。

またも、ソラは微笑ましい気持ちを覚える。

ただ、夕食をご馳走になれるのは情けないがとても有り難い話だ。

「ありがとうカイリ。お言葉に甘えさせて貰うよ。」

魔王の言うとおり空腹で倒れそうだ。陽も落ちてきたし、丁度良い頃だろう。


***


先導するカイリに従い歩くこと10分。いきなり木が開けて村が見えた。

割と、早く出れたな...。なんか、悔しいぜ...。

一人、内心落ち込んでいると、

「あの村はトレス村です。アルマダ国の田舎になりますが、作物も良く育ってとても良い村なんですよ!」

歩きながら、どこか嬉しそうに説明するカイリ。

作物が良く育つということは、彼女は日頃から野菜等を育てているのか?とても、健康的で素晴らしい。

更に5分も歩くと、遠目では 小さい様に見えた村も近づくにつれて、それなりの家屋が建ち並び、住人が多いことが伺える。

しかし....。

「なぁ、魔王。魔界側にはトレス村なんてあったか?」

ソラは近くにいた魔王に小声で話しかける。

そう、これが一番気になる。少なくとも、連合側には無かったはずなんだが...。

「いや、知りえないな。我が見落していた可能性も無くはないが、ここまでの大きな村だ。限りなく少ないだろう。ただ、建築様式等は我達の世界と全く変わらんな。」

魔王は顔をしかめて答える。

そうなのだ。先程から見かける店や家屋の建築様式は大体が同じ。但し、先程通った店に並ぶ果物は半分くらいしか、見た事がなかった。魔王に聞いても、知らないという。

やっぱりか...。もう、本格的に天国と考えるべきなのか?

「さぁ!付きましたよ!ここが私の家です!汚いかもしれませんが、どうぞどうぞ!」

玄関を開けながら、元気に話すカイリ。

そこには、立派な二階建ての木造建築が存在していた。

お言葉に甘えて入らせてもらう。

おおー!なかなか凄いな!

しかし、見渡すリビングは確実に一家庭用で、

「親とかはいないのか?」

「はい。私が小さい頃に二人とも魔物に....。」

急に声がワントーン低くなり、俯き加減で答えるカイリ。

「ご、ごめん!!そんなつもりじゃなかったんだ!」

慌てた様に取り繕うと、カイリも慌てた様に、

「あ!いえ!こちらこそすみません!!もう、慣れましたから!」

そう、元気に謝るカイリの顔はどこか悲しそうだった。


***


夜になり、カイリが手料理を作ってくれている。手伝おうとしたが、カイリに丁重に断られたので魔王とリビングで会話している。

因みに、カイリは料理を誰かにご馳走するのは約1年ぶりなんだとか。

「おい、賢者。聞いておるのか?」

一人思考していると、魔王に問われる。

や、やべ。何の話だっけ?聞いてなかった...。

そんな俺を悟ってか、魔王は呆れた様な口調で、

「全く...。これだから、人間は!まぁ良い!....いいか?この世界は何処かという話をしておったのだ。」

「そ、そうだったな。悪い、もう一度聞かせてくれ。」

「仕方ないな。....ここが何処かというのには、3つの可能性がある。1、ここは貴様の言うとおり天国なる場所だということ。但し、天国というのはあのように大猿がいて命を狙われるようなものなのか?偶然、我達は頭の無くし確実に動かなくなっている人間らしきものを目にした。あれだけ見ると地獄の様な気もするが....。まぁ、あのカイリという小娘に天使の翼がある以上、この可能性は無きにもあらず、といったところか。」

「おお、そうだったな...。ありがとう。」

魔王は一つの可能性を述べると、見舞いを正す。

そう、それが一番気になる点だ。天国というのがどんなものか分からない以上は何も言えない。

ただ、俺達の世界イーヴェルハイトでは死んだ時に、今迄の人生が良いものなら天国、悪いものなら地獄に行く、という共通認識がある。これは、連合側、魔界側変わらない筈だ...。

なんで、こんなものがあるのかは分からない。昔からそうだった。

ただ、連合側の俺からすると、魔界側の王であるこいつは確実に地獄に行く気が...。

「そして2つ目に考えられるのは、我も賢者も知らない未知なる場所。これは魔王で貴様はあの、ギャーギャー姦しい小娘の親衛隊という立場から、その我達が知らない場所というのはあまり考えられん。もし可能性を広げるなら、同じ世界の名前でも全く別の場所となる。」

こ、小娘ってリリーナの事か!殺されたのを根に持ってるなこいつ....!確かに、ギャーギャーうるさいが...。

にしても...。

「というか、いつの間にそこまで考えてたんだ?さっき、大人しかったからその時か?」

こちらが思ったことをそのまま疑問にすると、

「ちゃ、茶化すでない!貴様が能天気にしてただけだろう!」

あ、怒った。

しかし、魔王をイジるって前の世界では絶対考えれないな。あの時は殺してやるとさえ思ってたが...。

人間、危機に会うと自ずと協力するものなのか!うん!素晴らしい!

あ、こいつ魔王で魔人だった。

「わ、悪かったって!怒らないでくれ。取り敢えず、次頼むよ...。」

「こんなので怒るわけないだろう!.....フン!良かろう!この魔王様が、脆弱な人間であるザコ賢者に未来を示してやろう!」

こ、こいつ....。完璧に怒ってるだろう。

「では、最後、3つ目だ。この空間自体が幻術魔法の中であるということ。.....実は先程から、空中や土、水中等に無数の妙な気配を感じるのだ。この家に入ってからはあまり感じないが、森の中ではおびただしい数を感じ取れた。ただ、気配というのもごく小さいものだった。......そして、貴様の周りにも同じ様な濃密な気配を.....感じる。」

魔王はこちらを見ながら目を細める。

気配!?何だそれは!?

ソラは焦る様に自分の周りを仕切りに見渡し、確認する。

「あ、それは多分精霊ですね!私から見てもソラさんは、特別精霊に好かれてるみたいです!....あ、ご飯できました!」

振り返ると、カイリがシチューの様なものをお盆に載せながら近づいてくる。

精霊....?何だそれは?

魔王も驚いている様で、

「精霊だと?古代の生き物ではないのか?ち、因みに我の周りにはいないのか?」

そう、俺達の世界で精霊といえばはるか古代に絶滅した生き物だ。姿は見えないが、エネルギーで形成されているという。

妖精種や、影人種がその存在を知ることができたと伝えられている。

「マオさんの周りには、あまりいませんね....。何というか、避けられてる?といか、怯えているみたいです。」

「な...!!そ、そうか。」

魔王はカイリの言葉に大きく驚く。

こいつ、落ち込んでやがるな!!そりゃそうだろ!魔王だからな!俺でも、必要無いなら近寄らないわ!

うっ...。魔王が睨んできてる...。わ、話題を変えよう!

「カ、カイリは何で見えるんだ?そのー、精霊が....。」

ソラは上ずった声でカイリに尋ねる。

カイリは三人分のシチューとスプーンをテーブルへと並べながら、

「私は天使とのハーフですので、見えるんです。他にも、悪魔や妖精種、エレメンタルの蘇生種が見えます。今はいない古代種は精霊と共に生きたとさえされてますよ?さぁ、夕食です!是非食べて下さい!」


***


話を終えると、カイリの夕食を食べた。ご馳走するのは久しぶりで、自信が無いと言っていたがとても上手い!リリーナに見習って欲しいくらいだ。

「カイリとやら、もう一杯貰えるか?とても上手いからな。我の城で雇いたいくらいだ。」

「ありがとうございます!あと、普通にカイリでいいですよ!....マオさんって城に住んでるんですか?」

魔王も、普通に食べていて、今は先程俺にしてくれた山奥の二階建ての家の話をしている。

というより、この食べ物は何なのだろう?シチューに似ているが....。世界が違うのだから、同じ食べ物ということはないだろう。

「カイリ、この食べ物って何ていう名前?」

「あ、シチューです!」

シチューだった。


***


「え....?カ、カイリ今何て言った?」

カイリの言葉にまたもや俺と魔王は口を開けている。

今は夕食を終え、カイリが出してくれたハーブティーを飲んでいるところだった。

因みに、このハーブティーも普通に俺達の世界と同じだった....。

「いや、え?だから、お二人とも転移されて来たんですよね?」

おかしい。

実におかしい。

本当におかしい。

めちゃくちゃおかしい。

「な、何でそう思うんだ...?」

そう、食後、参考人ということでカイリにも混ざってもらいながら、魔王とこの世界が何なのか話していたのだ。結果、俺達の中では転移という可能性が高いと話したところで、カイリは俺達を不思議そうに見つめ、こう言ったのだ。

それはもう当たり前の様に。

「あえて言うなら挙動とか...でしょうか?失礼ですが、精霊のことやこの翼のことを知らない様だったので。転移した人は、転移人と呼ばれているそうです。」

カイリはちらりと自分の背を一瞥する。

ここで黙っていた魔王が、

「その言い方からすると、他にも転移してきたものがいるということか...?」

「あ、前例があるんですよ。そうだ!ちょっと待って下さい...。少し、隣の部屋に。」

そう言うと、カイリはハーブティーの入ったカップをテーブルに置き、隣の部屋へと向かった。

その間、

「転移人か....。なぁ、魔王。どういうことか分かるか?」

「いや、分からん。ただ、前例があったということは、前の世界に帰れるかもしれん。」

なるほど...。あの世界へ帰れるのか。でも、それって何処にだ?俺も魔王も死んで.....って!

「あぁぁぁぁー!!!」

ソラはいきなり椅子から立ち上がる。

「ど、どうした賢者?ついにいかれたか?」

「魔王、聞いてくれ。重要なことを言い忘れていた。俺と魔王は、死んだ...。それは言ったよな?」

「それは何度も話しただろう?」

そうだ。俺達は死んだ。魔王は、勇者であるリリーナに敗れて。

でも、俺は違う。

「いいか?俺は確かに死にそうだった!でも、リリーナに助けてもらった!魔王が最後に見た通りだ!問題はその後!」

ソラは大きな身振りを加えながら、説明する。

「何だ?」

「お前が死んだ後、背中の魔王の紋章が、光って浮かび上がったんだ!!赤黒くな!そこから、溢れ出る魔力からリリーナを守って俺は死んだ!」

「な......なぜそれを先に言わなかったのだ!?」

「わ、悪い。死んだっていう事実が印象強すぎて....」

「まぁ良い!......何ということだ...。」

そう言って魔王はファーコートを脱ぐ。

「....魔王の紋章が浮かび上がるだと?そんなのは聞いたことが....」

ブツブツと呟きながら、尚も胸の上部が大きく露わになっている上衣の背中にある紐に手をかける。

「おい。」

「なんだ?今は考えてるのだ。」

ついに紐を解き始めている。

上衣は首筋から腰まで大きく開いているタイプで、裂け目のところに無数の小さな穴が空いている。

そこに下から細い紐が交差しながら通っていて上衣を留めている。

背中を留めているのは紐なので、多少の肌色が伺える。

「おい!おいおい!!」

「だから何だ!?今、忙しいと言っているだろう!」

既に魔王は紐は肩甲骨まで解き、服が下がって肩が完全に露わになっていた。

「なんでいきなり脱ぐんだよ!」

「紋章を確認する為に決まっているだろう!」

「何も今じゃなくてもいいだろ!」

止めねばと思い、机越しに身を乗り出し魔王に向かって手を伸ばした瞬間、

「お待たせしました!世界地図を持ってきま....し....た..........。」

「........。」

「........。」

そこには、大きな地図を両手で抱えるカイリがいた。

「あ、あの!すみません!わ、私.....!」

終わったぁぁぁぁ!!

服を脱ぐ女に男が身を乗り出して手を伸ばしているこの状況!!

完璧に誤解されたぁぁぁ!

そ、そうだ!魔王!弁解してもらおう!

ソラが後ろを振り向くと、

「.....け、賢者///そういう目で見ていたのか....?///さ、さすがの我でも女だ。恥ずかしいことはあるぞ?///」

うぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!どうしたどうしたぁぁぁ!?

何でお前はいきなり顔を赤らめて、両手で胸を隠してるですかぁ!?魔王さぁん!!

あなた魔王でしょう!?そういう色恋沙汰って気にしないんじゃないの!?日頃から、めちゃくちゃに連合軍殺してたじゃん!うぉぉぉい!

くそ、これじゃあ完璧に俺が悪いみたいじゃないか!

「ぷっ....あはははははは!!」

「....??」

「あははは!....す、すみません。焦ってるソラさんみたら可笑しくて!....あはは!」

笑い涙を指で拭きながら、尚も笑い続けるカイリ。

「違うんだぞ?俺と魔王は....。」

「分かってますよ。分かってますか!はい!....はー、久しぶりにこんな笑いましたよ。とても楽しいです!」

「そ、そうか。なら良かったよ....。」

楽しいなら良かったが、俺は死んだかとおもったよ、色々と。

魔王に目をやると既に服を正し、ファーコートを着ている。

「カイリ、その地図は...?」

「あ、はい!これは学者だったお父さんのものです!」

カイリはテーブルの上のティーカップをどかし、テーブル全体を覆う程の地図を両手で広げる。

これは、ここの地図か?

「転移した前例があるのかという話でしたね?」

「そうだ。」

「では.....世界の話をしましょうーーーーー」

読んでいただきありがとうございました。

この章からはソラが本格的に主人公っぽくなります。よって、ソラの第一人称が多い訳ですね。今後、キャラが増えるにつれその辺も変わります。


転移人、これは後々まで続く重要なキーワードです。今まで、転移先の人に「あなた転移してきたでしょう?」なんて言われる小説があったでしょうか?


3章では、世界の国々を紹介していきます。

良かったら、感想等お待ちしております。

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