序章&1章見えない事実
〜序章 転生〜
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ーーーー意識の遠くに聴こえる叫び声と破壊の音色。
こうしている今も大勢の仲間達は、強敵を前に闘っているだろう。よく冷えた大理石の上で思う。
なら、俺は誰の為に戦った?仲間?国?正義?自分のこころ?今となっては知る由もない。
悔いはない。
謝ることもない。
それが戦争だ。相手が強く、俺が弱かった。それだけだ。
意識が遠のいていく。深く底の無い闇が近づいてくる。
「あぁ...死ぬのか。俺は.....。」
気づき、口にする。
何処かで納得している自分がいた。何にだろう?
あぁ、傷が痛む。
首筋から、胸にかけて身体に大きな裂傷ができている。そこから溢れるのは赤い液体。既に相当量の血液が出ている筈だ。
「よくも!....よくも!!!ソラを!!!」
すぐ近くで、自分の名を叫んでいる声がする。次いで剣戟の音色。
「勇者よ、貴様はそやつの何だ?恋人か?仲間か?」
諭す様に問う魔王の冷たい声。
「大切な!た、大切な!!........。」
「それだ。自分の気持ちも分からないくせに相手の気持ちを知ろうとする。何故だ、理解が出来ん。まぁ良い、貴様には死んでもらおう。堕ちろ、魔鎌ボルボロス。」
魔王が鎌を構えると空気が凍え、その主に応える様に部屋が、城が震える。
「関係ない!あなたは私がここで倒す!!輝いて、聖剣イクスカリバーー!!」
大きな叫びと共に彼女は、剣を構え自分の内なるチカラを見せる。
空気が轟き、空間が歪曲し、音が消える。
勇者と魔王の相対。
(こ、こんな大きな力!どっちもタダじゃすまない!!)
「お、おい!リリーナ!....や、やめろ....!ぐはぁ!」
力を振り絞り叫ぶ、が口奥から溢れでる血で、息が続かない。
「大丈夫、ソラ。私が全部終わらせる。だから...待ってて。」
次の瞬間、異なる方向から、莫大な熱量と共に斬撃が振るわれるーーーーーー
***
「ーーーラ!....ラ!!..ソラ!ソラ!!」
横たわる身体を揺さぶられ、幾度もの自らを呼ぶ声に深い闇から意識を覚醒させる。傷が暖かい。薬草を使ったようだ。
(自分だって、死にそうなくせに....。)
「なんだよ?うるさいな...。」
呟きながら目を開けるとそこには、涙に目を張らせ、顔をぐしゃぐしゃにした勇者の姿があった。
「ソラ!ソラ!!よ、良かったぁぁー!!うわぁぁぁん!!」
今日、何度聞いたか分からない自らの名を泣きながら叫び、小さな拳でこちらの胸板を叩く。
「そう、ソラだよ。」
腕を力なく挙げ、明るい朱色をした髪を優しく撫でる。構わずにリリーナは泣き、想いを絞り出す。
「私、ソラが死んだかと思って!それで!それで!」
「あぁ、ありがとう。」
「....仲がいいな。結構なことだ...くっ!」
「!?」
覚えのある声に驚き、声のあった方向を見ると、倒れ苦痛に顔を歪ませる魔王がいた。
右半身が消滅し、両の足は膝から下が無くなっていた。
リリーナは涙を吹き払い、顔をあげると相手を見つめ、
「魔王...あなたは負けたの。私に負けたのよ。」
勇者の言葉を聞く魔王は嘲笑しながら、
「....そうか。我は負けたか....。残念だ。」
目を瞑り呟くと、身体を力なく地に降ろし動かなくなる。リリーナは魔王の最後を目にすると俯くが、直ぐにこちらに向き直り笑顔をつくる。
「勝ったよ。私たち。」
「そうだな、俺たちの勝ちだ。」
俺たち連合軍は人間種、妖精種、獣人種が協力して構成されていて、魔界軍は魔人種、影人種、鋼人種から成り立っている。更に、鬼人種と海生種が存在するが、彼らはどちらかに属するということはあまりない。
そして、西の連合側、東の魔界側で世界イーヴェルハイトを両分しているのだ。
しかし、つい最近になって魔界軍が連合側に進行してきたので戦争となってしまった。
何故、彼らは攻めてきたのだろう。しかし、様々な戦いはあったものの、今ではこうして魔王城の際奥部「魔王の間」で魔王を倒すことができた。
ここまでくるのに何度死にかけたか分からない。
(これからも、賢者として仕事続くんだろうなー。)
戦いが終わった事実に安堵しながら、近い未来に思いを馳せていると、
「てか、他の奴等は大丈夫かよ。早く迎えに行かな....い...と.....。」
「ん?どうしたの?」
そうだ、俺たち連合軍は魔界軍と戦い、魔王を倒した。しかし、
(強い魔力を感じる!?どこからだ!!こんな濃くて莫大な魔...力..
...)
「.....まさか.......魔王!?!?」
「え?」
直ぐに身体を起こし、既に動かない魔王の方を見ると、
「おい、あの背中の紋章の輝き!!」
強い攻撃を受けた魔王の背は衣服が破け、肌が露わになっている。
そこには、種族問わずに、誰でも見たことのある魔王の紋章が浮かんでいた。黒く紅く輝きながら。そして、光は蜘蛛の糸のように細い糸となって溢れ出ている。
さながら獲物となる何かを捜しているようだ。
「何が?」
ソラの向いている方向にリリーナは首を回し、疑問の声をあげると、その声に反応するように光が止まり、次の瞬間。
「!?」
勇者に向かって糸は、集まり一本の光線となって進んでいく。
「ま、に、あえ!!!」
ソラはリリーナの腕引くと突き飛ばし、正面に立つ。
「ぐはぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「え?ソ、ソラ!?」
勇者を貫く筈の光線は賢者であるソラの胸を貫いていた。
そして、叫ぶソラの全身から眩いほどに紅黒く輝いた光が放たれる。その光は全てを無差別に飲み込んでいく。波のように溢れ出る光に合わせてソラは、呻くように身体を地面へと叩きつける。
「きゃぁぁぁぁー!!」
(あぁ、死ぬのか俺は....)
勇者の声を意識の遠くに聞きながら、お決まりの台詞を頭に浮かべる。
思いと想いが混じり合い世界は暗転するーーーーーーー
***
ーーーーーーー小鳥のさえずり、草木の震える音、太陽の香り、甘い女の匂い、そして横たわる身体に当たる風はここが屋外だということを示す。
「ここが....天国ってやつか。」
むにゅ。
「あぁ、それにしても、幸せな香りだ。」
むにゅ。
「そうそう、こんな柔らかい....
むにゅ.....?」
顔面への柔らかい違和感に気づき、目を開くと目の前には肌色の谷が見えた。深く深く何もかも飲み込んでしまうようなおおらかな谷間だ。頭の後ろには腕が優しく回され、横たわる身体には柔らかい女人の身体が密着している。
非常に美味しそうだな、おい。
「いや、俺は何を考えてんだ。てか、なんだこの状況。」
頭の上からは女性の軽い寝息が聴こえ、風が身体に当たるとくすぐったいのか、時折吐息を漏らす。が、その度に頬に、額に、鼻に、唇に、柔らかい感触が伝わる。
「あぁ、最高だなー。でも、どなたのですかね。この素晴らしいお胸の持ち主は。」
気になり、目線だけを上に動かすと、綺麗な線を持った女性の顔が目に入る。風に当たる長い髪は深い黒色で、長い睫毛は彼女が端正な印象を受ける。鼻は高く、紅い唇は柔らかそうで、潤い艶やかに輝いている。
服は漆黒を想像させるファー付きの長いコートを見に纏っている。
その顔は世界の誰もが認知している存在で、人々の長であり強く美しく知的でいて.....。
「魔王キースクルーム!?!?」
魔王であった。
〜1章 見えない事実〜
***
勇者親衛隊の一人である賢者ソラの目線は綺麗な女性(魔王)を見上げている。
(いや待て何で俺は魔王に抱かれてる。勇者親衛隊の一人だぞ。誰かに見られたらマズイだろこの状況はぁ...。ん?でも、俺たち二人とも死んだ筈だよな。ならいいのか?....てことは、ここはやっぱり天国か!と、とにかくこいつを起こさないと!)
考えること数秒。ソラは魔王を眠りから覚ますために顔をその豊満な胸から離す。
「おい!おい!魔王キースクルーム!いい加減起きろってんぷっ!?」
「んん...?朝か?.......我は眠いぞ。もう少し。」
魔王は寝ぼけた様に呟くと、こちらの後頭部に再度腕を回し抱きしめる。ソラの顔の位置は勿論、深い魔性を込めた胸の間である。
(マウントポジション!?)
「おい....おいおいおい!起きろって!!」
「.....何だ?うるさい、喚くな。騒がしい。」
「いや、違うだろぉぉぉぉ!!!」
賢者は全力で身を引き剥がした。
***
「ハァハァ...流石、魔王だ。やってくれるぜ。」
元いた場所から数歩下がり、睨めつけるようにして魔王を見る。
魔王は起き上がると、身構えているこちらに目をやり、
「おい貴様。名を名乗れ。」
魔王は相手の技量を計る様に、目を細める。
「ソ、ソラだ。4人いる勇者の親衛隊の一角で、職業は....」
「おっぱいソムリエか?」
「違ぁぁぁぁう!!なんだ、それはぁ!?賢者だ、賢者!!人を変態呼ばわりするんじゃない!」
「ほう。散々、人の胸元でスーハースーハーと息を荒げてたのによく言えたものだな?」
「なっ!?」
まさかばれてたというのか!?確かに息を荒げてしまっていたが....。
魔王というのは、寝てても周囲の状況を把握できるのか!何という恐ろしさだ!
落ち着け。取り敢えず、何か言え!!
「結構なお手前でした。」
馬鹿やろぉぉぉぉ!!何を考えてやがる!ほら、見ろ。魔王も目を瞬かせてるぞ、おい!
「ほ、本当にしていたのか?冗談のつもりだったのだが。ま、まぁ、悪い気はしないが...///貴様は勇者の所有物だろう?それを忘れて我の胸に飛びつくとは.....///」
「....え?」
「いや、だから冗談だ。」
「くそやろぉぉぉぉぉぉ!!!」
だ、騙された!?何てことをしちまったんだ俺は!しかも、相手は魔王だぞ!?
ソラは恥ずかしさのあまり頭を抱えながら、身を悶える。
それを横目に魔王は、周囲を見渡す。
(しかし、ここはどこだ?ただの森には見えんな。今までに感じたことのない種類の魔力を感知できるぞ?否、魔力では無いのか。目には見えないうごめく気配を感じるな。)
目に見えるのは見渡す限りの高木。地面には小さな草がはえ、空からは陽の光が入る。
「おい、賢者よ。ここが何処か分かるか?」
「はぁ?天国だろう?バカか、何を言ってんだお前。」
「いや、我が悪いのか...?」
答え、ソラも周囲を見渡す。
別になんの変哲もない森だけどな。天国って想像してたのとは、違うもんだ。
「こういう森って何か食い物とかねぇのかな。探しにいこうぜ、腹減ってきた。」
自分の身体は正直に空腹を告げている。
ん?腹が減った?天国でも、腹減るのか。これは、由々しき事態だ。
「確かに、腹が減ったな。ただ、ここは天国ではないのかもしれんぞ。」
「えー!いや、絶対天国だって!」
答え、お互い何処に行くでもなく歩き始める。
「...貴様は我と馴れ合ってて良いのか?魔王だぞ?」
魔王は、首を傾げて問い掛ける。
歩幅を合わせるソラは、自嘲気味に答え、
「あー、いいんだよ。俺はどうせ弱いし。回復とサポート魔法以外、使えないんだよね、何故か。しかも、魔王なら俺が何しようと瞬殺だろうし。」
「うむ。それもそうだな。...しかし、貴様は回復魔法は連合軍随一と耳にしているが?」
「他が出来ないから。自分に残ったものを鍛え上げただけさ。」
笑いながら、冗談混じりに答えるソラは遠くを見つめていた。
「そうか。気にすることはない、人には出来ないこともあるからな。我は無いぞ。魔王だから。」
「台無しだな、おい!!」
気づけば、お互い笑いあって何処かも分からない森の中を歩いていた。
***
「え!何、魔王城って別荘なの!?」
「当たり前だ。日頃から、あんな仰々しいところに住んでられるか。我の家は山奥の一軒家だ。」
「うわー!なんか、イメージ変わるわー。」
他愛ない話を続けながら、歩くこと60分。
「なぁ、結構歩いたよな。木の実一つ無いんだけど。」
「うむ。これは、おかしいな。本当に天国なのかもしれん。」
「ずっと空腹って天国じゃなくて、地獄だろう。」
その時、微かに甘酸っぱい香りが漂う。その香りは空腹の二人の鼻腔をくすぐり、
「おい!果物の匂いがするぞ!」
ソラは、果物の匂い目掛けて走り始める。
「お、おい馬鹿!危なーーーー」
ーーーー パキッ
「え?」
ソラは、小枝を折る様な音を聞き、辺りを見回す。
「おい、賢者!!上だ!」
魔王が叫び、上を向く。
「!?」
そこには、理解不能のモノがいた。
なんだあれ!?
「さ、猿?」
木の上に、ぶら下がるように猿がいた。 但し、その身は人間3人分もある様に見える。更に、腕は大木の様な太さで大きな手からは、その破壊力が伺える。
尾は二又に分かれていて、鋭い牙を有する口には、
「人間?」
人間....だったであろうものが咥えられていた。頭はすでに無く、全身血だらけである。
( 先程の小枝を折る様な音は、人間の骨を折る音か。まぁ良い、我の魔法で脅かせば、逃げるであろう。)
「どけ賢者よ!...ダークグリード!!」
黒髪をたなびかせながら、魔王は魔法名を詠唱する。
(ダークグリード、闇属性の基本魔法か。ただ、魔王が使えば破壊力は相当なものになるはず。)
後ろに飛び退きながら、考察する。
幾度、あの魔法に仲間がやられたか分からない。そんな複雑な思いの中、行く末を見守るが、
「な!魔法が使えんだと!?何故だ!」
魔王の掌からはなにも発生しなかった。
魔力の動きもなく、空気の流れも変わらない。
(どういうことだ!魔力はこの世界には、存在しないのか!)
自らの掌を恨めしそうに睨み、
「賢者!貴様、魔法は使えるか!」
叫ぶ魔王に応えるように、ソラは全身を硬直させ身構える。
「試してみる!...アンカースパーク!!」
魔法名を叫び、猿に向けた掌から雷を帯びた鎖が放つ。
その鎖は、自由自在に動き回り、猿の全身を捕縛する。
「グゴァ!?」
驚く大猿は、口に咥えていた元人間を地面に落とし、叫ぶ。
「この魔法は麻痺属性付与で攻撃力はない!早く逃げるぞ魔王!!」
踵を返すと、魔王の手を取り全速力で駆け出す。
「お、おい!何処に行くのだ!?」
「分からない!取り敢えずこの森を抜けないと!!」
叫び走り続ける。
ここまでくるのに60分!いくら、俺達が目覚めたのが森の中心だとしても後もう少しで出れる筈だ!
息をきらせながら、考える。
次の瞬間、
「グゴァァァァァァ!!!」
「な!?もう鎖を解いたっていうのか!」
早くも鎖を解いた大猿は、地面をもの凄い勢いで駆け抜け追ってきた。
「賢者よ!このままでは!」
相手の方が速度が早いのは明確で、ソラ達との距離は縮まるばかりだ。
「くそ!これじゃあ、ジリ貧だ!どうするーーーーー」
「伏せて下さいっ!」
「!?」
突然 、前から聞こえる指示に従い身を屈ませる。
そして、
ドゴォォォォォォォン!!
爆音と共に大猿の身体が後ろに弾け飛んだ。
次いで、嵐の様な砂煙が巻き起こる。
***
「な、何が起きたんだよ...。」
背後を振り返るとそこには、胸に大きな穴が穿ち、倒れている大猿の姿があった。
「おいおい、マジかよ。あの猿を一発って。」
「うむ。ただ、魔力は感じなかったぞ?」
一体、何が起きたというのか。
砂煙が止み、 声がした方を振り返るとそこには、
「だ、大丈夫ですか....?」
美少女!!
後ろに一本に束ねる髪の毛は金色で、ソラと魔王を見つめるその瞳は薄い青色。身長は平均的な少女よりやや小柄。手に持っているのは弓で、これで先程の大猿を倒したのだろう。
弓であいつに穴をあけるってどんな剛腕だよ。って、あれ?
そして、ソラと魔王は少女の背後に注目していた。
「え、え?誰かいますか?」
少女は行儀良く両手で弓を抱えたまま、後ろへ振り向く。
「いや....それ...羽か?」
「え?あ、はい。そうですよ?」
彼女の背には、きめ細やかな白い羽根を持った両翼が生えていた。
その両翼を震わせ、何を不思議な事を言っているのかと言わんばかりに首を傾げる。
ソラが魔王の方を一瞥すると、魔王と目があった。
が、魔王は首を振る。
(魔王も分からない...てことは、あの翼は何だ....?)
「いや、いいんだ!気にしないでくれ!助けてくれてありがとう!俺はソラ!」
明るく笑顔で感謝の言葉と名を告げる。
状況と相手が分からない今、自分の素性は明かさない方が良いだろう...。
「我は魔王だ。」
「ぶふっ!?」
吐き出してしまった。
な、なんてことしてんだこいつは!人が折角、素性を隠したのにこれじゃあ一発でバレちまうじゃないか!!
鋭い目で睨みつけると、魔王は不思議そうな顔でソラを見る。
(くそ...。常識が通じないなこいつ...。)
「あ、はい!私はカイリです!ソラさんとマオさんですね!ご無事で良かったです!」
「え...?」
「え、えぇ!?私、変なこと言いましたか!?」
「あの、カイリ...こいつのこと知らないかな?」
魔王を指差しながら、カイリに問い掛ける。
指を差されている魔王は、文句がありそうにこちらを睨みつけてくる。
「えと....何処かでお会いしましたか?初めての気がするのですが....わ、忘れてたらすみません!」
申し訳なさそうに、深々と頭を下げるカイリ。
「あ、頭を上げて!!こちらこそ、変な事聞いてごめんな!....ちょっとあっちで話してきてもいい?」
「あ、はい!」
良い子だなー。
元気よく返事をするカイリに微笑ましい気持ちを覚えながら、魔王と共に少し離れた倒木に腰掛ける。
「魔王。本当に魔界全土にお前の権威は届いてるのか?」
「我は魔王キースクルームだぞ?魔界だけでなく、連合側にも名は伝わっているだろう?」
「それもそうだ。でもあの子は、魔王を知らないって言ってるぞ?」
「信じがたいな。それに、あやつの背に生えている翼は何だ?あんな魔人は存在しない筈だぞ。」
「聞いてみるしかないか...。」
ソラと魔王が目を覚ましてから、三時間、既に夕刻になろうとしていた。
***
「あ、お話は終わりましたか?」
「あぁ、ありがとう。それと、一つ質問があるんだけどいいか?」
カイリは近づいていくこちらを向き、またもや首を傾げて、
「何でしょう?」
くそ、可愛いな!おい!いや待て、落ちつけ俺!
「あのさ、その羽って何...?」
もう一人の自分と戦いながら、何とか疑問をぶつける。
カイリは、背に手をまわし翼を撫でながら、
「これですか?私は、人間種と翼有種の天使とのハーフですので...。ここら辺では、珍しいかもしれませんが、ずっと東のアイビス公国に行けば、他にも沢山いますよ!」
恥ずかしそうにはにかみながら答える少女の前で、ソラと魔王の頭は混乱していた。
(て、天使?翼有種?何だそれは、初めて聞く種族だぞ!?)
(世界イーヴェルハイトの東側は全て我の地である筈だ!それより東には何もない!何だその、アイビス公国とやらは!!)
そう、彼らの世界には翼有種もアイビス公国も存在しない。
「ち、因みに、ここは何ていう場所で、何ていう、せ、世界だ?」
低く震える口調の中でソラは少女に問う。
そんな、ソラを心配に思いつつも、カイリは迷うことなく流暢に当たり前の様に答えた。
「ここは、世界イーヴェルハイト。凡そ中心部にあたる聖ローレイ皇国の西側に位置する、小国アルマダ国です。」
魔王が存在しなかった筈の世界で、運命は再度廻り始める。
読んでくれてありがとうございました。
KAIMIN枕です。
普段は絵を描いたり、シナリオを提供させてもらっているのですが、自分で書くのは初となります。
【小説家になろう】さんでは、いつも読み専だったのですが、友人に勧められて書くこととなりました。
拙い文章ですが、少しでも面白いと思っていただけたら幸いです。
感想、メッセージ等いただけましたら、飛んで叫んで喜びます。
ありがとうございました。