虜(虹色幻想20)
少女は美しい金の髪をしていた。
そして少女も美しかった。
少女は皆に愛された。
少女も誰からも愛されると信じていた。
そんな少女は一人の少年に出会った。
少年はみすぼらしく、貧しかった。
少年は薄汚れたシャツを着て、いつも街角に立っていた。
雨の日も、風の日も、晴天の日も。
少年は少女を愛することはなかった。
「美しい金の髪?それが何になるというの?
美しい髪がお腹を満たしてくれるの?
寒さから守ってくれるの?
美しいだけでは生きていくことは出来ないんだよ」
そう言った少年の顔は、凛として美しかった。
少女は恵まれていたから、お腹がすいたことはない。
寒さで凍えたこともない。
いつも優しい両親に守られていた。
少女は少年に出会って初めて外の世界を知ったのだった。
少年は少女の知らないことを沢山知っていた。
「信じられるのは、自分だけ。
大人がどれ程ずるいか知っているかい?
自分のために、自分の子供を捨てることを平気でするのさ。
僕はそんな大人には決してならない」
自分の信じる道がある。
そんな顔で語る少年は美しい目をしていた。
そうして少女は少年から沢山のことを教わったのだった。
そうして数年後、少女は美しい娘へと成長した。
娘は沢山の男を虜にした。
そんな娘のために、両親は一人の男を選んだ。
しかし娘は彼を気に入ることはなかった。
困り果てた両親は娘に聞いた。
「お前は一体どうしたのだい?
あの方はとても立派な方なのだよ」
「あの方と話をして分かりました。
あの方はつまらない話しかしてくれませんでした。
私が聞きたいのはもっと沢山のこと。
もっと面白いこと。
私はそういう方と一緒になりたいのです」
「そんな男がどこにいるのだ?」
「あの街角に」
少年は青年へと成長し、日銭を稼ぐ仕事をし、たくましく生きていた。
「私が美しくなかったら、きっと誰も私を見てくれなかったでしょう。
それを彼が教えてくれました。
美しい髪など、無意味なもの」
そう言うと娘は自分で髪を切ってしまった。
婚約者の男はその姿を見て嘆き、怒った。
「どうして自慢の美しい髪を切ってしまったのだ!
それでは台無しではないか」
その言葉を聞いて、娘の心はさらに冷めていった。
静かに目を閉じ、娘は告げた。
「私はあなたと結婚することはできません。
そんなにこの髪が好きだというのなら、さしあげましょう」
さようなら、そう言って娘は自分の髪を婚約者に差し出した。
美しい金の髪が男の前に散った。
娘は静かに背を向け、部屋を飛び出して行った。
向かった先は街角だった。
「そんなに慌ててどうした?」
青年は娘を見て、言った。
「私を見て、どう思う?」
「どうって、別にいつもと同じだが」
「前とは違うでしょう?」
「ああ、髪が短いな」
そう言うと青年は娘から目をそらした。
その言葉を聞いて、娘は安堵した。
彼だけは真実の自分を見てくれる。
皆が愛してくれなくていい。
彼だけに愛されたい。
あの美しい瞳に見つめられたい。
青年が娘を振り返って見た。
娘も青年を見つめた。
「私、あなたに恋をしてしまったわ。
他の人ではつまらない。
あなたでなくてはダメなの。
どうしてくれるの?」
青年は目を見開いて驚いた。
そうして不敵に笑って言った。
「さあな」
そう、捕らわれたのは、私。




