-(4)
奏志が帰ってきた姿を認めると、雅は嬉しそうに彼に抱きつき、その胸に顔を埋めた。
「遥、無事に送った?」
「はい」
「何も、なかった?」
「、はい」
返答の間に一瞬生まれた間に、雅は抱き締める力を強め、クスクス笑う。
「そうだよねぇ。だって奏志は、遥のことなんて好きじゃないもんね?」
「はい」
即答した奏志を、雅は顔を上げて覗き込むように見つめる。
奏志の瞳には何ら変化は見出だせない。無表情に、ひたすら雅の視線を受け止めている。
雅はしばらく見つめた後、つまらなそうにふーん、と視線を外す。
そして、先ほどまで遥が座っていた場所に目をやると、たちまち楽しそうに言葉を紡ぐ。
「ねぇ、気づいてた?」
「何にですか?」
「遥ね、ずーっと奏志のこと見ないようにしてたんだよ。玄関から奏志の声を聞いただけで動揺しちゃってさ」
雅は笑う。心底楽しくて堪らない、という表情を浮かべて。
「もしかして、遥は奏志のことが好きなのかな?」
「っありえません!」
初めて強い語調になった奏志の頬に手を添え、
「そうかな?」
首を傾げてするり、と彼の頬を撫でる。
「あたし、ね、奏志。見てたんだ。あの日」
体を強張らせた感覚を楽しむようにして、雅は頬を撫で続ける。
「約束」
その言葉に、奏志の瞳に色が宿る。
だが、顔は変わらない。相変わらずの無表情だ。
そんな奏志に微笑むと、雅は頬から唇へと指を移動させた。
「約束、してたのに。可哀想。奏志は一生叶えてあげられないんだわ。遥と――んっ」
続く言葉は、荒々しい口づけに遮られる。
唇が離れると、雅は魅惑的な笑みを浮かべて奏志を見つめる。
「それ以上、無駄口を叩かれるなら……」
「ふふ。可愛い、奏志。私を憎んでいながら、離れられないのね……ううん、私が離さないわ。奏志も、遥も」
「……」
「ねぇ、抱いて?奏志」
耳元を掠める甘い囁きに、奏志は無言で雅を抱き抱える。
雅は嬉しそうに奏志の首に腕を回すと、そのまま寝室へと運ばれる。
そして、微かな喘ぎ声と布が擦れる音しか聞こえなくなった。