-(2)
きりきりと、胸が痛む。
何故?
そんなの決まっている。
「さっき、兄に会ったわ」
「お兄様、ですか」
その言葉に、少しの驚きを滲ませながら奏志はソファに腰掛けた遥たちの前に紅茶を並べる。
雅は頷き、紅茶を口に運ぶ。
遥も紅茶を口に注ぎこむが、胸の痛みのせいで味などよくわからなかった。
「よっぽどあたしにあの屋敷に戻ってきてほしいのね。全く、まだわからないのかな。あたしには奏志と遥以外、誰も要らないの」
どこか恍惚とした表情で、雅はまるで甘い台詞を口にしているかのように告げる。
「ね、奏志も、あたし以外なんて要らないよね?」
「はい」
すぐ成された返答に、遥は顔を背けた。もう見ていたくない。
それでもまだ2人のやり取りは続く。
「奏志は、あたしのものだよね?」
耳を塞ぎたくなる。
「えぇ、私は貴女のものです」
否応なしに聞こえてしまう声に、耳を削いでしまいたい衝動にまで駆られる。
その声に、こんなにも囚われているというのに。
「遥、遥もでしょ?」
ふいに自分に向けられた問いに、否定してしまおうか、と思う。
そして、自分は奏志に想いを寄せているのだと。
ずっと雅を裏切っていたのだと。
そうすれば、雅はどうするだろうか。
きっとあの手この手で遥を自分のもとに繋ぎ留めようとするだろう。できなかったら……
もしかしたら、いや、恐らく、雅はどんな手を使ってでも繋ぎ留める。たとえそれが、異常な方法であったとしても。
ここまで考えて、遥は急に笑い出したいような気持ちに襲われる。
そう、わかっているのだ。
自分は雅を裏切れない。
だからせめて、この想いは消してしまおうと思った。
深く深く、埋めて二度と浮上してこないように頑丈な蓋をして。
ごめん、雅。
まだ上手く埋められないの。
私は……。
「勿論、私も雅のものだよ」
また笑って、嘘をつく。
その答えに浮かんだ花のような笑顔を見つめながら。