悪夢-ナイトメア-
中庭を歩いていくと、植木の陰に見慣れない姿を見つける。
黒く、長い髪の男の人。
切れ長の瞳でこちらを痛いくらいに見つめている。
「雅、あの人誰?」
雅は遥の問いにちらと視線を走らせると、すぐに不機嫌そうな顔になる。
「兄、よ」
「え?雅って、お兄ちゃんいたっけ!?」
遥は驚き、嫌々話すといった様子の雅をまじまじと見つめる。
10年以上一緒にいるが、一度もそんな話を聞いたことがない。
「立場上は、兄。でもあたしは認めてないよ。あのオンナがよその男とつくった子なんて」
つまり異父兄弟ってわけ、と雅は嫌悪感を含んだ声で続ける。
雅は自身の母のことをあのオンナと呼ぶ。嫌悪しているのだ、実の母親を。
理由は……思い当たりすぎて気分が悪くなるほどある。
「雅。お母さん、は」
「遥」
雅の無機質な声に、遥はびくっと体を強張らせる。
こういうときの雅は、危険だ。
「ごめん、雅。私……」
「いいの」
振り向いた雅は、満面の笑顔。
無邪気なまでの笑顔に、遥は人知れず寒気を覚える。
彼女の不安定さを、近くで見てきているから。
やがてドアにたどり着くと、雅はドアをすっと開け、遥もそれに続いた。
「奏志!ただいまっ」
「おかえりなさいませ」
雅は嬉しそうに声の主に抱きつく。
何度も目にした光景。
なのに、
胸がこんなにも痛いのは、何故?