-(3)
一目見て、好きだと思った。あなたのことを。
*
遥たちは雅の家の玄関にいた。
雅は有名な会社の社長令嬢だ。家も勿論豪邸である。
遥はそんな嘘みたいに巨大な屋敷を慣れた様子で見つめる。
もうここに来るのは何回目になるのだろうか。
雅とは、幼い頃からの付き合いである。
そう、初めて出会ったのは――
「どうしたの?遥。ボーッとしちゃって」
雅の心配そうな声に、遥はすぐに我に返る。
泣いていた、雅。
心配そうな顔と、当時の顔が重なって見える。
あぁ、そうか。
あの時からもう私は、囚われていたのかもしれない。
「大丈夫大丈夫。ちょっと暑くて目眩がしちゃってさ。貧血かな?」遥が安心させるように微笑むと、雅は花のような笑顔を浮かべた。そしてすぐ、慌てながら続ける。
「でも早く家に入って水とか飲んだ方がいいんじゃない?」
雅が玄関のチャイムを鳴らすと、すぐに
『はい』
と声がした。
ダメだ。
遥は思う。
ダメだ、いつも。
「奏志、あたし。遥も一緒。ちょっと貧血ぎみらしいから、水用意しといてくれる?」
『畏まりました。お帰りなさいませ、お嬢様』
「ただいま」
その声を聞くだけで、息が止まりそうになる。
行くよ、遥。
そう言うと雅は敷地の中へ入っていく。
―雅、ごめんなさい
いつも入って、後悔する。
でも、止まらない。
遥は雅の背中を追い敷地の中へ入っていった。