学外 卒業式
番外 学外でその2です
「今日もいい天気だ、飯がうまーい!」
「確かに晴天だが、どこに食事がある」
ついに幻影を見るようになったかと思いながら、い~い日~旅~立ち~と暢気に口ずさんでフラフラしている彼女を見やる。
「しっかし、よく倒れないで卒業式参加できたな」
三年生を送り出して簡単な片付けをした後だから、時間も昼過ぎている。
「もう麻痺して空腹感じないけどね」
寝坊して朝食を摂らなかった所為らしい。卒業式が始まるギリギリの時間に滑り込んだ彼女は、式の合間にある沈黙の時間に盛大な虫の音を鳴らした。だが本人に至ってはあまり気にしていないようだった。
「お腹の虫って盛大に鳴らしても響かないもんだと思っていたんだけどな~」
そりゃあ普通はな。普通は少し離れている俺の所までハッキリ聞こえない。
「ホント、お前といると普通が色々覆されるよな」
「いやいやいや、何をおっしゃるウサギさん」
誰がウサギだ。俺がウサギならお前は何様だよ、カメ様か。
・・・・・・ごめんなさい。
「私には最初から普通という言葉は無いのですよ。普通なんて人間が勝手に決めた曖昧なもの。なんて、そんなのどうでもいいから言わないけどね」
便利な言葉であるけれど、大衆一般でない特別であるのが異常に見えて大嫌いであるってことを表すモンだから? まあうん。そのうんちくについて置いとくとして。
「そりゃ、最初っから普通じゃないのは何となく分かってたけどな。悪趣味だし」
「知らない人に誤解与えるから止めてくれないかな、根暗君」
軽口に軽口で返す。悪口で悪口を返す。別に悪気がある訳でもないし、喧嘩してるわけでもない。でも初めて彼女と出会ったとき。同じように悪趣味と言い、根暗君と返されたときはムッとしたのだが。人間、慣れだ。ここの学校の入学式の時も、入学してから今までも同じ様なやりとりをし、こういう応酬をすることにすっかり慣れてしまった。
「誤解でもないだろ。性格の悪さは」
「残念。性格の悪い人には態度が変わるのです。目には目を。ハンムラピ法典万歳!」
「まあ、表情の方で損が多いから仕方のないことかもしれないけど」
「コレには苦労してますよ」
彼女はニッコリと楽しそうな笑顔を作って、自分の顔を指した。
何故か、彼女は笑顔に何の感情であろうと一緒に表すことが出来ない。それを聞いたときは何となくいいなぁ、と思った。けれど、実際同じクラスで一年間過ごしてみると、案外損な役回りばかりのようだった。
「別にねー。コレのせいで問題が起きたってしようがないからね。これが私って思ったら、思われたらそうそう変わらない。変えられない。変われるとしたら、卒業して一区切りつけたいときが好機だよね。私もここに上がる前と今の自分、少し変えられたからね」
まあ、確かに。あの時は陽気そうに話してたとはいえ、どことなくかげりがあった。当然といえば当然か。資料室という名だけの倉庫に、ボロボロの制服で「充電」と称して大の字に寝転がっていた彼女。同類であって同類でなかった。彼女の言葉をかみしめて過ごしたあの頃の生活。
「ところで・・・・・・唐突に話変わるけど、お前の帰り道違わないか?」
俺達の家は学校から少し遠いが同じ地元だ。だから時間が合えば、大体途中まで一緒になる。今日はいつの間にかいつもは分かれる道を過ぎていた。
「ん? あー、飢死にしそうなので恵んでください」
それが目的かよ。つか、空腹は麻痺したんじゃなかったか?
「金ない。無理」
「じゃあ手料理。前に流華ちゃんから聞いたよ、すごく美味しいって」
流華・・・・・・。いつの間に交流深めてたんだよ、あいつは。他に何か話してないだろうな。いやあいつだって身内の恥を言い触らしたりはしないはず。うん、ここは妹を信じて・・・・・・。
「大丈夫だよ。恵んでくれないからって恥ずかしい過去を言い触らしたりしないから」
「裏切り者ぉっ! ちくしょう、分かったよ。喜んで作らせていただきますよ」
「あはは~、ありがとう! 真緒も呼んでこようかな。流華ちゃんと一緒に遊ぼうっと」
真緒ちゃん。頼むから君の従姉や俺の妹のようにならないでいてほしいよ。
ホント、切実な思いで。
去年の入学式の時に予想した彼女に振り回されることは、妹にも手を組まれてレベルが上がってしまったようだ。ほんの少しで良いから平穏をくれないだろうか。それとも、これが平穏で俺の日常なのか―――。




